第十四話
「はっ!」
「それ!!」
試合前日。俺達が、夢中になってラケットを振っていた。そろそろ十八時になるが、みやなはまだまだ続けたいと駄々をこねたので、俺は仕方なく付き合うことに。
みやなもみやなでちゃんと親に遅くなることを伝え、俺も自分がちゃんと送っていくと約束をする。どうやら、みやなは俺との練習を親に毎日のように話しているらしく、快く承諾してくれた。
あの子が何かに夢中になるなんてと、すごく嬉しそうだったな。
さすがにしのは、帰ってしまったがギリギリのところまでみやなの練習に付き合ってくれた。明日の試合も応援に来ると言っていたので、みやなも俄然張り切っている。
それは、ボールを打つ毎の表情でわかる。
「みやな! 少し強めにいくぞ!」
「どーん! とこい!!」
俺には、魔技は使えない。だから、今までのテニスの技術で押す。
「はっ!」
「わわっ!?」
若干大人気なく、強めのボールをラインギリギリの逆サイドへと打ち込む。さすがのみやなも、反応が遅くなり打ち上げてしまう。
「貰った!」
「さ、させるか!」
と、俺がスマッシュを放とうと思い込んだみやなは一歩二歩と距離を取る。
だが、俺はにやっと笑い。
「よっと」
「ほえ?」
ドロップボールを打つ。
ネット前で転がるボールを見て、みやなは目を丸くしていた。
「ゲーム、俺。また俺の勝ちだな」
「ず、ずるい!!」
「ずるくない。これも立派な作戦だ。いいか? どのスポーツも駆け引きが大事なんだ。チャンスボールを何でもかんでも、スマッシュだと思ったらだめだ。さっきのように隙を狙われて、違う技でポイントを取られる可能性があるからな」
確かにスマッシュは強力で、決定打の一つだ。しかしながら、その一つだけをやっていれば確実に対応されてしまう。
だからこそ、色んな球種を使い分ける必要があるんだ。
「魔技だけに頼るなかれ。魔技があるとはいえ、元々のスポーツの技を駆使するんだ。やえと戦う時は、絶対役に立つ」
「な、なるほど……」
「よし、それじゃあ」
一度時計を確認し、俺はみやなに微笑みかける。
「まだまだやるか?」
「もちろんだ! 今日は朝までやるぞー!」
「だから、明日が試合なんだって。今日は、しっかりと休んで明日に備えるって言っただろ? だから……うん。遅くても、後二十分だ」
現在の時刻は十八時五分。
さすがに、十九時まで練習させるのは、明日の試合に響くだろう。明日は、万全の状態でみやなに挑んでほしいからな。
「二十分……その時間で、勝ち越してやる!」
「やれるものならな! 俺だって、まだまだいける!」
それからは、ギリギリのところまで追い込まれたが、なんとか俺はみやなに勝って、時間になり帰宅することに。
その帰り道。みやなは、とても悔しそうな表情で歩きながらラケットを振り回していた。
「勝てなかったー! 悔しいー!!」
「こら。近所迷惑になるから、叫ぶな。それと、危ないって」
ラケットを仕舞わせ、落ち着いたところで、再びみやなは口を開ける。
「集」
「なんだ?」
「あたし……明日、頑張るね!」
臆してはいないようだな。だが、それがみやなってことなんだろう。やる気十分な表情を見た俺は、彼女の肩に手を置き、応援の言葉を送る。
「ああ、頑張れ。明日は、俺も母さんもしのも応援している。これまでやってきたことを生かせば、絶対いける」
「勝てるかな!」
「うーん、どうだろうな?」
「えー! そこは、絶対勝てるって言ってよー!!」
絶対なんて言えない。もちろん、自信をつけさせるためには、言ってやったほうがいいのだろうが。俺は、違うことを言いたい。
「はっはっはっは。相手は、小学生プレイヤーのトップだ。絶対なんて無責任なことは言えない。ただ、可能性はある。みやな。やえとの試合の中で、成長するんだ」
「試合の中で……成長?」
そうだ。みやなの強みは、その吸収力。初心者だったみやなが一週間でこんなにも成長した。だが、それでもやえに勝てるかどうかわからない。
だから、やえとの試合の中で成長してもらう。
これが、やえに勝てる可能性。みやながどこまで、成長できるか。個人的にも、俺はそれを見てみたいと思っている。
「やえとの試合は、絶対今後のお前のためになるはずだ。頑張れよ」
「……うん!!」
・・・・★
やえとの試合当日の朝。俺は、いつも以上に早起きをして、自分が試合をするのでもないのにランニングをしていた。
朝霧が漂う中で、呼吸を乱しながらも、どこまでも走っている。
「おはようございます」
「やえじゃないか」
現在の時刻は六時。そんな中、若干遠出をしてしまったところ。今日の試合相手であるやえと遭遇してしまった。
あの時と同じ格好で、走っており、俺を見詰めて挨拶を交わす。
「集さんもランニングですか?」
「ああ。別に試合をするわけでもないんだけど。なんだか、いつもよりも早起きしちゃったんだ。やえは、いつものランニングか?」
「はい。毎朝この時間帯には、ランニングをしています。帰った後は、道場で居合い術の練習をしてから、次にテニスの練習をしています」
随分とハードなメニューだな。やっぱり、居合い術も続けて、テニスもやっているのか。
「そんなにハードで、体は大丈夫か?」
「ご心配頂きありがとうございます。でも、居合い術もマジックテニスもずっと続けてきたことなので、もう慣れました」
「休みの日とかは、どうしているんだ?」
「一日中、居合い術とマジックテニスの練習をしています。日々の鍛錬が、重要ですから」
この歳でここまで……俺でさえ、たまには息抜きをしていた。よく、友達とゲームセンターとかに行ったり、一人で古本屋などに言って、立ち読みをしたり。
だけど、彼女にはそんなことをしている余裕はない。そんなことをする時間があるなら、鍛錬をするってことなのか。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。あっ、今日の試合。ギャラリーが少しあるけど」
「大丈夫です。ギャラリーのある試合は、もう慣れていますから。……では、名残惜しいですが。私は、こっちなので」
しばらく会話をしながら走り、分かれ道に差し掛かった。
そこで、やえは停止してから深く会釈をする。
「ああ。じゃあ、またあのコートで」
「はい。失礼します」
……小さな背中、だな。まだ小学五年生なのに、しっかりしている。でも、もう少し歳相応なことをしてもいいんじゃないか? 例えば、みやなやしのと一緒に遊ぶ、とか。
「……行くか」
そして、時間は過ぎていき、掻いた汗をシャワーで流し、朝食を食べ、母さんと一緒にいつものコートへと向かっていく。すると、すでにみやなが来ていたようで、壁打ちをしていた。
「おはよう、みやな。気合い入ってるな」
「あ! おはよー!」
「おはよう、みやなちゃん。うん、元気な挨拶ね」
「何時から居たんだ?」
「うーんっと、三十分ぐらい前かな?」
程よい汗の掻き方だ。これは、準備運動をするまでもないようだな。時刻は、七時二十分。約束の時間まで後十分だ。
「おはようございます」
「あっ! しのちゃんだ!」
それから、二分後。しのがやってきて、約束の時間二分前になったところで、ようやくやえがコートに現れた。
なにやら、眠そうにしている男性を連れて。
「お父さん。早くしてください」
「ふわぁ、そんなに焦るなよ、やえ。まだ二分もあるだろう」
「皆さんは、もう到着しているんですよ。ほら、私達が最後です。ギリギリなんて、皆さんにご迷惑になります」
どうやら、父親のようだ。ぼさぼさとした黒い髪の毛に、紺色のジャージを身に纏っている。やえは、母親似なんだろうか?
コートに入り、俺達の目の前に辿り着くとすぐ頭を下げるやえ。
「申し訳ありません。時間ギリギリで到着してしまい」
「気にするな。そっちだって、今日は学校の練習があったんだろ? それなのに、わざわざ来てもらったんだ。謝るなら、俺達のほうだ」
やえは、わざわざみやなとの試合のために練習に遅れると連絡を取ったらしいのだ。つまり、みやなとの試合をした後、やえはいつも通り学校の練習へと向かうということだ。
「君が、箱島集くんとみやなちゃんだね?」
「あ、はい。えっと」
「俺はやえの父親で、正利だ。マジックスポーツの結界やマジックアーマーを張る仕事している」
なるほど。やえの言っていたのは、正利さんのことだったのか。それにしても、予想はしていたが。まさか本職の人が来てくれるとは。
「そして、えっと集くんのお姉さんかな?」
「あらまあ。嬉しい言葉ですけど、私は集の母親の春奈って言います。今日は、応援で来ちゃいました」
「おっと、これは失礼を」
「いえいえ」
挨拶を一通り終えてから、そろそろ試合開始へ向けて動き出す。正利さんが、ボロボロになったネットの周りに結界と、みやなややえにマジックアーマーを張る。
観戦する俺達は、結界外から応援することになる。中に入れるのは、選手達と審判だけなのだ。
「さて、審判は俺が勤める。本職じゃないが、よく見てたからな。試合は、1セットマッチで良いんだな?」
と、正利さんが俺に問いかけてくる。
「はい。それでお願いします」
普通の公式ルールで行きたいところだが、やえにもこの後練習がある。そして、無理に試合をやってもらっているので。
仕方がないが1セットマッチで勝負をすることにした。これは、ちゃんとみやなにも承諾を得ている。
「それじゃ、1セットマッチ制! みやな対やえの試合を始める! サーブは、みやなからだ!」
「やってやるぞー!!」
「よろしくお願いします」
さあ、いよいよ始まるぞ。初心者対トッププレイヤーの戦いが。




