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第十二話

「試合まで、後二日か……」


 みやなとの特訓は順調に続き、いよいよやえとの試合が二日前に迫ってきた。俺は、学校の机にノートを広げ、今までの練習の記録とやえの研究データを書いている。

 とはいえ、俺もそこまで分析がすごいってわけじゃないから、ところどころおかしいところはあるだけど。できるだけ、みやなのためになることを考えなくてはならない。


「……ふう」


 着実にみやなは強くなっている。しのとの試合で、マジックテニスというものを身に染みさせた。だが、それでもやえと戦うには足りない。

 彼女は、小学生プレイヤーの中でもトップレベルの実力者だ。

 それが、才能があるとはいえ、一週間の練習でどこまで喰らいつけるか……。いやだめだ。教えている俺が弱気になっては。


「気分転換に、飲み物でも買いに行くか」


 俺はノートを閉じ、鞄の中に入れる。そして、椅子から立ち上がり教室から出た。

 今は昼休み。

 生徒たちは、各々自由に過ごしている。友達同士で会話をしていたり、馬鹿をやっていたり。真面目に机に向かって勉強をしている者達も居る。


「何にしようかな」


 教室から移動して、自動販売機のあるところまで辿り着いた。

 財布から五百円玉を取り出し入れる。

 ペットボトルにするか。それとも缶にするか……うん、ここは手ごろに缶にするか。


「なあ、聞いたか? 識ちゃん。今回もレギュラー確定らしいな!」

「ああ。この前のレギュラー決めトーナメント。俺も見に行きたかったぜぇ! くそ!」


 飲み物を購入しようとしたところで、男子生徒達の会話が気になり指が止まってしまった。

 識、か。

 そういえば、あいつには俺がテニスを再開したって伝えてなかったな。再開したと言っても、自分でやるんじゃなくて教えているだけから……。

 俺は、ボタンを押し缶コーヒーを購入。おつりを手にとって財布に入れる。

 教室に戻り、缶コーヒーをゆっくり飲みながら、空を見上げる。


(コーチとしては、識のほうがうまく教えられるんだろうな。魔法が使えない俺では、限界があるからな……)


 とはいえ、今更識に連絡を取るなんて無理だ。いや、むしろだめだろう。識は中学最後の大会に向けて集中したいだろうし。

 俺なんかと関わっている暇なんて。

 ……中学最後、か。

 本当だったら、俺も。


「やめだやめ! 今は、目の前のことに集中するんだ」


 俺は、マイナス方向への考えを止めて、再びノートを広げる。今は、みやなのコーチとして彼女をもっと強くしてやらなくちゃならない。

 そのためにも、俺にできることを全力でやるんだ。




・・・・★




 放課後になり、俺は学校から真っ直ぐ出て行く。すると、校門前に見知った顔が二つ。こちらに向かって歩いてくる。

 俺は、早足で、近づいていき、周りに気づかれないようについて来いとジェスチャー。

 二人は、俺の後ろを何気なく追ってくる。


「……仲がいいな」

「うん! 同じ帰宅部同士! そして、一緒に試合をした仲だからね!」


 あの試合以来、みやなとしのは仲良くなった。普通科と魔法科というのは関係なく。一緒に登校し、一緒に下校をしている。

 みやなとしても、しのからマジックテニスについての知識を教えてもらって大助かりだと言っている。俺としても、彼女の手助けは大助かりだ。

 しのもしので、みやなと居るとびっくりすることはあるが、楽しいと笑っている。性格的に、相対する二人だが……うん。

 マジックテニスが二人を結びつけたって感じだな。


「き、今日は、びっくりしました。みやなちゃん、いきなり背後から大声をあげたんですよ?」

「おいおい。あんまり、しのを驚かせるなよ。驚かせるのは、マジックテニスだけにしろ」

「友達同士のスキンシップだよ! しのちゃんも、あたしを驚かせてもいいんだよ?」

「む、無理だよ。私、そういうの苦手だから……」


 確かに、しのが誰かを驚かせようとする姿は想像できないな。昔は、ちょっとの物音で驚いて俺の後ろにすぐ隠れていたぐらいだからな。

 そう考えると、本当に成長した。

 身体的な意味でも、精神的な意味でも。


「あっ、集! 今日はどんな練習するの!」


 さっそく練習の話か。まあ、気持ちはわかるけど。


「今日は、魔技の魔力コントロールだ。魔技を使えたとしても、やっぱり重要なのは魔力。マジックスポーツ全体のルールで、魔力が切れたら」

「だめ。テニスの場合は、その場で負けになるんだよね……」


 でも、みやなの魔力量はやえの二倍。早々になくなることはないだろうけど、やはり魔力コントロールをしっかりとしておいたほうがいいだろう。

 それに、魔技によっては魔力の量によって威力なども違ってくる。


「そうだ。だから、今日はテニスの練習よりも魔力コントロールの練習に力を入れる」

「えー! テニスはしないの!?」


 とても残念そうで、不満な声を上げる。


「まあ落ち着け。やらないとは言っていないだろ? ただ、魔力コントロールの練習に力を入れるって言っているだけだ。テニスの練習もやるから」

「だったらいいや」


 切り替え早いな……部活に興味がないとか言っていたのに、すっかりマジックテニスにはまってしまったみたいだな。


「しのは、どうする?」


 あの試合から、しのも一緒になってあのコートで練習をするようになった。本当ならば、良質なコートがあるのにだ。

 まあ、あそこは元々立ち入り禁止なんだけど。やえとの試合が終わるまでだ。それまでは……。


「私も、参加します。魔力コントロールなら、私も少し自信あるので」

「助ける。俺は、もう魔力がないから。しのが参加してくれて大助かりしているんだ。ありがとうな」

「い、いえ。みやなちゃんと練習するの、楽しいですし。集お兄ちゃんのお役に立ててるなら」


 あぁ、いい子だなぁしのは。やはり、しのは俺の癒しだ。昔から一人っ子だったから、しのは本当の妹のように可愛がっていたからな。

 こうして、慕われると心が洗われる。


「よーし! それじゃあ、このままコートに行くぞー!!」

「ラケットを取りに行かなくていいのか?」

「そうだったー!」

「それに、一回帰ってからじゃないと……」


 その通りだ。そんなこんなで、いつも通り一度帰宅し、着替えてから、ラケットを持ってコートに集合することにした。

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