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第十一話

早めに終わるといっておきながら、なんだかんだで三万文字を超えているという。

「いくぞー! しのちゃん!」

「う、うん!」


 みやなは、しのをじっと見詰めた後。ボールを天高く上げ、体を撓らせ、ラケットを振るう。

 それだけじゃない。

 あれは……電気? まさか、もう魔技を使うのか。


「そりゃあ!!」


 先ほどよりも魔力が込められており、帯びている電気も激しい。ただ……やっぱり、まだ電気を帯びたボールという感じだ。

 威力はまあまあだが、これなら。


「やっ!」


 しのはラケットを構え、みやな側のコートへと打ち返す。ボールを位置を正確に測り、みやなの逆側へと打ち込んだ。

 相変わらず、正確なショットだな。


「それ!」


 だが、みやなも負けてはいない。最初に練習した時は、少し苦手そうだったバックハンドでボールを右サイドへと打ち返す。


「いい返しだ」

「えい!」


 それでも、しののほうがまだ上のようだ。みやなの打ち返す方向を読んでいたかのように、移動をしており、強烈なスライスボールを打ち込む。


「まだまだぁ!!」


 しばらくのラリーを続き、動いたのは……しのだった。翡翠色の瞳を見開く。


「風よ!」


 強烈なスピンをかけ、打ち込んだしのの魔技。

 みやなは強烈なショットが来ると待ち構えていたが。


「え?」


 ネットを越えた瞬間。急にカーブする。ネットすれすれのところへと落ち弾むことなく回転していた。回転が終わるのを見て、俺は審判として告げた。


「しの1ポイントだ。しのの先制だな」

「な、なに今の!? ボールがぎゅいーん! って曲がったよ!! しかも、くるくる回転してた!!」


 驚いているようだが、同時にわくわくもしているようだ。目を輝かせ、俺のほうへと問いかけてくる。


「さっきのは、しのの魔技の一つだ。強烈なスピンをかけてうえに風を纏わせ、ネット際で落とす。《ダウン・カーブ》だ」


 ネットギリギリのところで、突然落ちるように曲がり、弾むことがない。強烈なスピンに加え、風を纏っているためもし落ちる前に捕らえたとしても、返球は困難だろう。

 俺もまだ魔力があった時に、受けたことがあったが。

 攻略するのに時間がかかったな……。


「お、おお! これが、本物の魔技!! すごいね! しのちゃん!!」

「そ、そうかな」

「誇ってもいいことだ。この魔技は、プロでも返球は困難だと思うぞ」


 その証拠に、しのの父親の元プロである風間陽介さんも苦戦したと話していた。我が娘ながら、とんでもない才能だと。


「え、えへへ。ありがとう、ございます」

「うん。さて、生の魔技を見たところで、気合いが入ったんじゃないか?」

「もちろんだよ!! よーし! あたしだって、オリジナル魔技を発明してみせるぞー!!」

「じゃあ、試合再開だ。サーブは、しのだ」


 と、俺はボールをしのへと転がす。

 ボールを拾ったしのは、数回その場でボールを弾ませ、構える。


「い、いくよ。みやなちゃん」

「よっしゃ、こーい!!」


 両手でラケットを構え、いつでも動けるとアピールするようにその場で揺れる。準備がいいことを確認したしのはボールを天高く上げ、サーブを放つ。

 みやなよりは、若干力が弱いインパクト音だが。


「おお!」


 ラインの角ギリギリのところへと落ちる。

 その正確なサーブに、感心しつつもみやなは覚えたてのスライスボールを放った。うん、フォームもいい感じだ。


「やっ!」

「せい!」


 数回のラリーが続き、みやなが動く。一気にネット近くまで駆け抜け。


「ほい!」

「あっ」


 ボレーを決める。拾いに行こうとするしのだったが、間に合わないと察したのか足を止めた。みやなが放ったボレーは、コートギリギリのところで弾んだ。

 しのもいい判断だ。

 確かにポイントは取られたが、ここで無駄な体力を消費するよりは、次に持ち越すという選択をしたのだろう。


「ポイントみやな」

「いえい!!」

「み、みやなちゃん速いね」


 コートの端から一気に前に出てきたみやなの足の速さ。そして、あり余る体力と魔力。それに加えて吸収力。しのとの試合を得て、みやなは一段階。いや、二段階は成長するか?


「まだまだ! もっと攻めちゃうぞー!」

「わ、私も頑張らなくちゃ」

「その調子だ。二人とも。さあ、しの」

「うん」


 そして、再びしののサーブ。今度も、力が弱いが正確なサーブだ。みやなももう慣れてしまったのか。容易に返球して見せる。

 しばらくのラリーが続き、しのがまたダウン・カーブを打ち込む。また、みやながネットから離しての魔技だ。先ほどは、みやなはしのの魔技を知らなかったため動くことができなかったが。

 ぐっと地面に力を入れる。一気に距離を詰めて、ラケットを落ちてくるボールの進行方向へと向け。


「捉えたか」


 捉えたが、ラケットにかかる力は相当なものだ。しかも、一気に距離を詰めて、前のめりのような体勢なので、あまり力が入っていない。


「せりゃあ!!」


 打ち上げてしまったが、返球はできた。

 しかし、しのはそれを読んでいたのか。ロブが上がったところに移動しており、軽く跳んで。


「えい!!」


 スマッシュを打ち込む。これは……きついか? みやなはネットの前。しのがスマッシュを打ち込んだのは、逆側のギリギリのライン。

 しのも、これは決まったと確信したような表情をしていた。珍しく熱くなったのか。高揚しているようだ。


「まだ……まだぁ!!」


 電気が弾ける。その凄きはまさに高速。一瞬でスマッシュが打ち込まれた場所へと移動をし。


「わわっ!?」


 バランスを崩しながらも、ラケットを振るう。ボールはラインの上で弾み、結界に当たって止まった。


「ど、どうなったの!?」


 尻餅をついたみやなは、ボールの行方を見ていなかった。しのもしので、まさかあそこから落ち着くとは思ってもいなかっただろう。

 転がっているボールをただただ見詰めいる。


「ポイント、みやなだ」

「やったー!!」


 さっきのは、無意識か? それとも自分で考えたものなのか。どちらにしろ、さっきの魔技は中々いいものだ。


「ほら。まだ試合は終わってないぞ。喜ぶのはいいけど。次は、みやなのサーブだ」

「あ、そうだった。しのちゃん! このまま圧勝しちゃうよ!」

「ま、負けない!」


 さっきの返球を見て、しのは気合いを入れ直す。さっきのは、勝利を確信してしまった自分の慢心。熱くなるのはいいが、油断はしちゃだめだ。

 深呼吸をして、ラケットを構える。

 互いに刺激し合い、成長していく。スポーツはやっぱりこうじゃなくちゃな。

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