第十話
「みやな。お前のマジックテニスについての知識はどれくらいだ?」
「えっとねぇ。魔技を使う以外普通のテニスルールだって聞いた!」
「その通りだ。ただ、そこに付け加えるものが一つ。プレイヤーの魔力がゼロになったら、その時点で魔力切れになったプレイヤーの負けとなる。これは絶対的なルールだ」
これは、どのマジックスポーツにも適用されている。魔法を使うからこそのマジックスポーツ。そのエネルギーともなる魔力なしで試合をするなど、普通の試合だ。
だからこそ、魔力管理などが重要だ。
大体は、普通のテニスと同じで国際試合のルールで、3セットマッチルールで戦いとなる。その中に【マジックルール】となるマジックスポーツだけの特別ルールが加わるのだ。
野球や、バスケなどの選手交代があるスポーツの場合は、魔力が十分にある選手と交代することになる。
「魔力は大事だよねぇ」
「そうだな。だからこそ、プレイヤーは魔力の管理するために、こういうのをつけるんだ。しの」
「は、はい。みやなちゃん。これ」
「なになに?」
しのがみやなに渡したのは、リストバンドだ。ただのリストバンドではない。魔力を数値として表示する機械が組み込まれているものだ。かなりの小型で、体にかかる重量はほぼないと言ってもいい。
そして、その機械は審判が持っている機械に繋がっており、常に魔力をそこに表示させている。プレイヤーはその数値を見て、ここは押さえるべきだ。
ここは一気に魔力を放出しようと管理しながら、試合をしていく。
「これをつければいいの?」
と、受け取ったリストバンドを右腕につけるみやな。
俺は、しのから貰ったタブレットを起動させる。
タブレットには、みやなの魔力が表示された。それを見た俺としのは、目を丸くする。最初出会った時から、凄まじい魔力だとは思っていたが、こうして数値に表すと本当にすごいな。
「どうどう? あたしの魔力」
「す、すごいですね。小学生プレイヤーの最大魔力値の二倍もあるなんて」
タブレットに表示されている数値は、320となっている。小学生プレイヤーの最大数値が150ぐらいなので、しのの言うように二倍もあるのだ。
とはいえ、プロでも少ない魔力で活躍している者達だって少なくはない。どれだけ魔力を管理できるか。そして、魔技の使いどころと、使う際の魔力のコントロール。
魔力が多いからと言って、絶対勝つというわけではないのだ。だが……俺はみやなの才能を知っている。そして、この魔力量で、コントロールが相当うまければ。
「ん?」
「本当。みやなは、俺のことを奮い立たせるのがうまいな」
「なんのこと?」
「いや、いいんだ。さあ、さっそく始めるぞ」
ちなみに、今わかっている最大数値はやえのもので、マジックテニスプレイヤーだけの数値だ。他にも最大数値をたたき出している小学生達が居るだろうが、今は気にしないで置こう。
今気にするべきは、やえに勝つことだ。
「みやな。まずは、軽く魔法を使ってみてくれ」
「どんな魔法でもいいの?」
「そうだ。ただ、全力じゃない。軽くだからな?」
「はーい! じゃあ、ほい!」
一瞬のうちに魔力を練り上げ、みやなは光の球体を掌から出現させる。これは、光属性の初級魔法で《ライト》だ。初級魔法は日常生活にもよく活用されており、ライトの場合は、辺りを照らす時によく活用されている。
普通科の生徒なのに、こうもあっさりと初級魔法とはいえ発動させるとは。ただ……。
「うん。いい感じだ。だけど、魔力がちょっと多く減ったな」
「そうなの?」
俺の手元にあるタブレットに表示されていた320という数値が、310に減った。普通ならば、初級魔法は数値で表すと5ほどで発動させるものだ。
なので、みやなはその二倍も使っている。やはり、この辺りが普通科と魔法科の差だな。
「だけど、この辺りは練習すればみやなだったらなんとかなるだろう。次は、魔技だ」
「よっしゃー! 待ってたぞー!!」
魔技とは、普通の魔法と違ってマジックスポーツで使われるオリジナルの技だ。例えば、野球でボールを投げた時に加速魔法を組み合わせる。
そうすることで、尋常じゃない速さのボールが生まれる。ただし、それを捕手がキャッチできるかどうかはわからない。ただ、視界補助魔法を使えばそれは可能だろう。
マジックスポーツは魔技だけじゃない。魔法もちゃんと使えるのだ。それでこそ、マジックスポーツなのだから。
「それじゃ、試しに」
「いくぞー!」
気合いの叫びを上げ、ラケットを持つみやな。
「まず、どんな魔技にしたい?」
魔技はさっきも言ったが、オリジナル技だ。なので、プレイヤーの発想次第で、どんなものにもなる。やえのように居合い術と組み合わせるとかな。
「もう決まってる! ちょっと見てて」
そう言って、みやなは魔力を練り上げた。
そして。
「電気か?」
「おりゃ!!」
そのままボールに纏わせ、打ち込む。
誰もいないコートで弾み、結界にぶつかってボールは止まった。どや! と振り向いたみやなに、俺はうーっと微妙な反応をする。
「どうどう!」
「うーん、まだまだだな。それじゃ、ただ電気を纏わせたボールって感じがするな」
「そっかぁ。やっぱり難しいなぁ……魔技って」
吸収力がよく、魔力が高いけど。みやなは初心者も初心者だ。魔法科で多少なりとも、魔法のことを学んでいたのなら、もう少しマシだっただろうが。
ここは、試行錯誤と練習あるのみだ。
「まあ、そう落ち込むな。これから編み出していけばいいだけだ。さて、みやな。しのとラリーをしようか。しの、いいか?」
「は、はい。ラケットはちゃんと持ってきました」
試合前の軽いラリー。
まずは、みやなからのボール出しだ。
「ほい!」
「返します」
みやなも同い年でのラリーは初めてだろうからな。……うん、大丈夫そうだ。しのもほとんど父親とラリーをしているだろうから、新鮮だろうな。
「よし、そこまで! じゃあ、さっそく1セットマッチの軽い試合をするぞ。ルールはこうだ。魔技は一人三回までとし、相手を傷つけるとような行為も禁止だ」
「わかった!」
「は、はい!」
俺はコートの中央。つまりネットの端に立ち、二人を見る。準備がいいのを確認して、手を挙げた。
「サーブはみやなからだ。試合、開始!!」




