第九話
「むむむ……!」
「まだ考え込んでいたのか?」
「だってー! 色々と頭に詰め込みすぎて、頭がパンパンだよー!!」
貴重な祝日を使い午前中はやえについて研究をして、昼食を共に食べ、今は予約していたコートへと向かっている最中だ。
だが、みやなは先ほど俺が言ったものが、相当難しかったのか。
頭を抱えていた。
「やっぱり、みやなは考えるより体で覚えたほうがいいんだな……」
「でも、考えてやらないとやえには勝てないんだよね?」
一週間で得られる経験地だけでどこまでやれるかわからないため、多少は知識が必要だと思ったのだが……とりあえず体を動かして、少しでもリフレッシュさせてやろう。
今からやるのは、魔技の特訓だからな。
今までの特訓よりもハードだが、みやなにとっては楽しいものになるだろう。
「まあな。とりあえず、今は考えるのを止めよう。ほら。着いたぞ」
「お? ここが……」
自宅から徒歩で移動すること十分。
到着したのは、多くのマジックテニスプレイヤーが集まる有名なコート。マジックテニス専用のコートで、ここの管理者とは、母さんが知り合いで、本当に昔からよくしてもらっている。
コートの数は、全部で四つで、俺達が使うのはその中でも、結界を張る機械が最新のものを使っているところだ。
わざわざ、俺達のために取り押さえてくれたそうなのだ。
「すみません。予約した箱島です」
「お? 来たね! いやぁ、元気にしていたかい?」
受付に居たのは、めがねをかけた誰が見ても優しさに溢れるオーラを持つ男性。水色のエプロンを身につけ、俺達に笑いかける。
「はい。お久しぶりです、風間さん」
彼の名は、風間陽介さん。昔はマジックテニスプレイヤーとして活躍をしていたが、今は引退してマジックテニスプレイヤー達の補助として活躍している。
コートの提供や、初心者への講習などなど。
俺も、風間さんから色々と指導してもらっていた。そのおかげで、強くなったとも言えるだろう。
「その子が、君をもう一度奮い立たせたっていうみやなちゃんだね。初めまして。ここの管理者をしている風間って言います」
「初めまして!! 今日は、よろしくお願いします!!」
勢いよく深々と頭を下げる。うんうん、ちゃんと言えて安心だ。
「それじゃあ、さっそくだけど。コートに案内するね。しの」
「う、うん」
風間さんに呼ばれて出てきたのは、翡翠色の髪の毛の女の子だ。肩に垂れるようなお下げに、控えめな雰囲気。
変わってないな彼女も。
「久しぶり。しの」
「は、はい。お久しぶり、です。集お兄ちゃん」
風間しの。風間さんの一人娘で、休みの日や学校から帰ったらよく手伝いをしている。親同士が仲良くしているので、俺達も自然と昔からよく知っている。
しのも魔法科の生徒なのだが、部活動には入っていないんだ。なんていうか。性格のせいなのか。あまり大勢の居る場所に一人で居るのは、恥ずかしいというか怖くて無理なんだそうだ。
しかし、親の影響でマジックテニスは好きで、風間さんに教わりながら、自分なりに強くなっている。
「あたし、みやな!! よろしくね!!」
「ひゃっ!?」
「こらこら。しのを怖がらせるな」
突然のみやなの大声に、俺の後ろに隠れてしまいしの。
「……はーい。ごめんね? 大声出して」
「う、ううん。大丈夫、だから」
「みやな。しのはお前と同い年なんだ。仲良くな? あ、だが。マジックテニスの腕はしののほうが上だろうけどな」
「そうなの!?」
しのは、控えめな性格で人見知りなところがあるが、マジックテニスの腕は本物だ。血筋もあるだろうが、元プロである親から直接指導を受けているというのもあるだろう。
みやなも相当上達しているし、才能もあるが……ふむ。
「ど、どうしたんですか?」
俺は、みやなとしのを交互に見詰め考える。
「なあ、しの。悪いんだけど、みやなと試合してみてくれないか?」
「え? し、試合ですか?」
「ほう」
突然の俺の申し出に困惑するしの。その横では、風間さんが興味深そうに見詰めている。そして、肝心のみやなはというと。
「試合! やるやる!!」
眼を輝かせ、やる気満々だ。
「頼む! みやなに、マジックテニスの試合を体験させたいんだ! 今の時間帯だとみやなに見合ったプレイヤーはいないだろうし。しのだったら、的確な力加減でやってくれると俺は信じているんだ」
「わ、私を信じて……」
しのの力は本物だ。そして、何よりもみやなは同い年のプレイヤーはやえしか知らないだろう。だから、他のプレイヤーと一度戦ってどんなものなのかと体験させたい。
俺がやれればいいのだが。俺は魔法を使えないから、普通のテニスにしかならない。突然で、無理なお願いだとは思っている。
それでも、今のみやなには必要なことなんだ。
「……わ、わかりました」
「いいのか?」
「はい。私も、丁度体を動かしたいって、思っていたから。それに、集お兄ちゃんのお願いだから、その……」
「あ、ありがとう!! 恩にきる!!」
「わわっ!?」
嬉しくなり、思わずしのの手を握り締めてしまった。俺の勢いに、硬直してしまったしのを見て俺は冷静になり、咳払い。
「それじゃあ、頼むよ、しの。みやなもいいな?」
「うん!! さっそく試合ができるなんて、めちゃくちゃわくわくするよ!!」
「だけど、試合前に色々やるぞ。いきなり試合は、お前でも多少は難しいだろうからな」
試合を申し込んだはいいが、まだまだみやなは初心者。マジックテニスについて色々と教えたうえで、しのと試合をしてもらうことにした。
そして、鍵を持ったしのと共に俺達は予約したコートへと向かっていく。
見た目は、普通のコートだが、これはマジックテニス専用のコートだ。そして、コートを囲むネットを支える柱。これが、結界を張る機械なのだ。
「それでは、結界を張りますね」
そう言って、しのは柱にあるスイッチを押す。すると、起動音は聞こえないが、ちゃんと起動はしている。
目には見えない結界。これで、外へ魔法が漏れることはなくなった。
「さあ、さっそくやるぞ! みやな!」
「おー!!」
「わ、私は見学させていただきます」
久々の魔技特訓だ。魔力を失った今の俺では、口でしか伝えられないけど……やるからには、全力でみやなに教えよう。




