プロローグ
新作でございます。今回は、スポーツものですが……まあ、タイトルやあらすじから普通のスポーツものではないですはい。
新たな試みなので、頑張っていきたいと思います!!
「……はあ」
人間には、生まれつき特別なエネルギーを保持している。
それが、魔力だ。
魔力は、術式を組み込むことで魔法という自然界の力を生み出すことができ、炎を操ったり、水を操ったりまあ、色々できる便利な力。
魔力の量は、人によって違い昔は数値化できなかったが今では科学の発展によりその者の保持している魔力量を正確に数値化できる機械発明された。
そのせいで……魔力の量が少ない者は多い者に見下される。魔力の量は、魔法を使うのにもっとも重要なもののひとつ。
確かに、魔力の量が少なくとも魔法の構築がしっかりしていれば関係ない。関係ないが……やはり、魔力が少ないとすぐに魔法が使えなくなってしまう。
そんな魔力が少なく魔法とはあまり関わらない普通の学生を育てる場所が普通科高校。普通科といっても、昔からずっとある学校なのだが、魔法という存在がある今ではそういうカテゴリーで分けられてしまっている
そしてもうひとつは、魔法科。これはもちろん、魔法関係の勉学が主な高校だ。今の魔法は、色んなところに活用されている。例えば……スポーツ。
昔は、神聖なスポーツに魔法を使うのはダメだとか言われていたが……時代が進み、それは変わった。全てのスポーツではないが、今では魔法を取り込んだスポーツが盛んとなっている。
例えば、野球だと燃える魔球とか普通にできてしまう。
当然、魔法が関わってりうため安全面などを全力で考慮したうえでの決定だ。定められたルールの下で、やるのは普通のスポーツと変わらない。
魔法が加わることで、激しさ、派手さが増し人々を熱狂の渦へと巻き込んだ。学校でも、さっそく取り組まれている。
当然、魔法科のほうにな。
「集-! ちょっと下りてきてー!」
母さんだ。
俺は、特にやることもないので読んでいた漫画を閉じ部屋から出て行く。階段を下り、リビングへと入ると買い物籠を突き出し笑顔で立っている母さんがいた。
「よろしく! 今日の夕飯は、カツカレーよ!!」
栗色の長い髪の毛と赤いエプロンが良く似合う俺の母さん。
箱島春奈。
今年で、三十八歳を迎える元気な主婦。
「カツカレーか……」
「なによー。好きでしょ?」
「まあ、好きだけどさ。テニスをやめてから、重いものがきつくなってきたんだよなぁ」
俺は、小学生の頃からずっとマジックテニスをやっていた。
最初は、テニス漫画にはまって始め、魔力数値もかなり高く才能があった。実際にやってみると楽しくて中学二年まではマジックテニスを続けていたが……中学三年になる直前のある日、俺はテニスから離れた。
いや、正確には離れるしかなかったんだ。
それからは、運動もあまりせずにぐーたらな人生を過ごしていた。スポーツをしていた頃は、すげぇ食べていたんだけど。
ちょっときついって思う時が今ではある。
「もうだらしないわねぇ。だったら、少し運動してきなさい。近くにテニスコートがあるでしょ?」
「あそこは、もう誰も使ってないところだ。随分と錆び付いて、来年には取り壊しが決定してるから立ち入り禁止のはずだろ?」
俺も、昔はよくそこでテニスの練習をしていたが新しいテニスコートが完成してからは皆、そこへ通い始めもう誰も使っていない。
「大丈夫よ。ちょっと壁打ちをするぐらい!」
「……そうだな。壁打ちぐらいして、腹を空かせてくるか」
「あ、でもちゃんと買い物が終わってからね?」
「はいはい。それじゃ、行って来る」
「いってらっしゃーい」
こうして、俺は今日の夕飯であるカツカレーの材料をスーパーまで買出しにいくことになった。文化的にはかなり進んでいると言っていいかな。
スーパーに行けば、電子表記版がネットを通して色んな情報を教えてくれる。これから、どんな食材がな旬のか、とかな。
魔法という不思議な力が人類に発現した時は、それはもう大騒ぎになった。だって、空想の力だと思っていたものが現実となったのだから。
人類は、発現した魔法をより一層世の中のためになるようにと探求を続け、今に至る。
「さて。買い物はこれで終わりだな。一度家に帰ってから、壁打ちでもするか」
厚い豚肉やカレールーなどを買った俺は、真っ直ぐ自宅へと帰るのではなく、やっぱり今あそこがどうなっているのかちょっとだけ見てみたくなり寄り道をすることにした。
人気がまったくない通り。
昔は、ラケットを持った子供達がここを走り回っていたんだけどな。
「やっぱり、錆び付いてしまってるな」
コート入り口には立ち入り禁止の看板立てられている。
当たり前だが、誰も……ん?
「おー! 見事に錆付いてるねー! そして、見事に誰もいない! これなら、思いっきり練習ができる!!」
逆側から、見知らぬ少女がコートの中に入っていく。活発な感じで、金色の髪の毛はツインテールに束ねられており、物珍しそうにコート中を見渡している。
見たところ小学生ぐらいに見えるけど。
「テニスラケット……」
彼女が持っているのはテニス用のラケット。まあ、このコートにくるんだ。テニス以外ありえないだろうけど。
小学生の間でもテニスは盛んだ。
当然マジックテニスもな。この近くの最新の学校では、マジックテニス部というものがある。そこの生徒なんだろうか? だが、そうだとしたらわざわざこんな寂れた場所で練習するはずがない。
そこの学校には、専用の練習コートが用意されているはずだ。部員ならば、そこを利用するのは普通。ということはあの子は、違うのか?
「よーし! さっそく壁打ちだぁ。準備運動なら、ここに来る前に走ってきたから大丈夫! あたしは、早くラケットでボールを打ちたいんだー! いえーい!!」
うおおお!! とその場でデタラメなフォームで素振りを始める少女。
おいおい。あれじゃ、肩や腕、腰を痛めるだけだぞ。
俺は、すぐテニスコートに入ることなく、なぜか身を隠し彼女のことをじっと観察していた。デタラメなフォームから基礎は全然知らないような少女。
「次は、壁打ち! ほっ! やっ!! そりゃ!!」
デタラメなフォームだが、空振りを一切しない。
壁に反射するボールは色んな方向へと飛んでいくが、それでも少女はボールを追って打ち返している。
なんだあの動きは。
本当にデタラメだけど……すごい。まるで、動いているものを追いかける動物のようだ。あの子が、基礎を覚えたらいったいどれだけのプレイヤーになるのか。
(……はは。なんだか俺、わくわくしているな)
彼女を見ていると、思い出す。
俺も、昔はそうだった。
ただひたすらにボールを追いかけて、ラケットを振っていたからな。
「よーし! 次は、魔技だ!!」
「え?」
しばらく壁打ちをしていた少女は、魔力を高める。
今、魔技って言ったか?
お、おいおい。ここで魔技を使うって言うのか? しかも、あの魔力量。あんな小さな体のどこにあんな魔力が。
って、そうじゃない。
「ま、待ったぁ!!」
「ほえ?」
隠れていた俺だったが、これは止めなくては買い物袋を置いて、飛び出す。
少女は、俺の声に魔力解放を止めて、こちらを振り向く。
この顔は、本当にわかっていないな……たく、誰か教えてやれよ。
「お兄さん……誰?」
当たり前の反応だ。誰でも、見知らぬ人から話しかけられれば。それに、ここはあまり人が通らない。昔はよく人が居たが、時代が進む毎に、色々と新しくなっていく。
新しくなると、古いものは忘れられていくんだ。
この場所もそうだ。
「えーっと、と、通りすがりだ。それよりも、さっき魔技を使おうとしていたよな?」
「そうだよ! だって、あたしはマジックテニスプレイヤーになるから!!」
「なるってことは、部活とかには?」
「そうなんだー。あたし、今年で小学五年生なんだけど、部活とか全然興味なかったんだー」
それがどうして、今の時期に。
小学五年生だと、周りからの視線などもちょっときついだろうな。数年前からやっていたならまだしも、五年生からは……いや、関係ないか。
スポーツに遅いも早いもない。
実際、中学から始めて全国に行くような選手だって居るほどだ。それに、この子の動き。野生児並みに、俊敏だった。
「でもね! 同年代にすっごい子がいてね! その子のプレイを見た瞬間にこう……びびっ! ときたんだよ!! あたしも、やってみたい! あの子と戦ってみたいって!!」
子供によくあるパターン。
テレビとか、漫画とか、何かに影響されてやってみたいと思ってしまう。だけど、それは悪いことじゃない。
ただ、それが長続きするかどうかだ。
「あっ! そうだ。あたし、咲原みやな!! お兄さんは?」
「箱島集だ」
「……」
「ど、どうしたんだ?」
みやなは、俺の顔をじっと見て……あぁ、なるほど。
「すっごい綺麗な目してるね!! 左だけ赤くて綺麗!!」
風が吹く。
髪が揺れる。そう、みやなは俺の目を見ていたんだ。
もう……何の意味のない、赤の眼を。
次回もお楽しみに!




