6話 カラダで払うという事
たっぷりの湯船に浸かった身体は、今にも溶け出してしまいそうな快感に包まれていた。
リーナは少し熱めの湯船に浸かる頭の先まで使った。
ここは、シールズ・アーマーの一階。工房のさらに奥にある浴室。
あの後、リーナはアランに風呂に入って汚れを落とすように言われたのだ。
アランはリーナの提案に乗ってくれたのだろう。
風呂で汚れを落としてこいということは、そういう事なのだとリーナは理解していた。
リーナは生まれついての戦士。
諜報員としての教育を受けたものならば、床の技術にも秀でているというがリーナにはこれまで男性の経験がない。
その事がリーナを不安にさせた。
(やはりこの男を頼るのは間違っていたのだろうか)
湯船に浸かりながら、リーナは何度もこの問いに自問自答していた。
(でも、裁判のあとどの鎧屋に言っても断られたじゃない。それに、私にはナルビアで頼れる人がいない。
パレードの日にたまたま出会っただけの縁だとしても、このつながりに頼る以外私のとるべき選択肢はない。
たとえ、アランが私に話しかけた理由が興味本位、面白半分だったとしても)
そして、その問いは毎回同じ結論に至る。
(それに、アランの鎧は戦時中何度か目にしたじゃない。シールズ・アーマーの鎧を身にまとった部隊一つのためにザビヌの兵がどれだけ犠牲になったか。
その兵たちに報いるためにも、なんとか王家の血筋、ナターシャ様だけはお救いしなくてはいけない。
たとえ私がどうなろうとも)
そうやって自分を納得させた頃には体が真っ赤になるくらい茹で上がっていた。
リーナは用意されていたタオルで体を拭い二階へ上がった。
用意してあった服はあえて手をつけなかった。
今着ても、どうせすぐ脱ぐのだろうから。
居間に上がると、アランが細い紐を準備していた。
もしかして、特殊な性癖の持ち主なのだろうか。
少しためらいながらも勇気を出して声をかけた。
「あの、お風呂入ってきました」
服を着ていないというだけで、どうしてこんなに心細くなるのか。
などから絞り出した声は自分のものとは思えないほどか細く、まるで街をお洒落して歩く普通の少女のようだった。
リーナ自身は気がついていないが、この時いつもはつり上がっている目尻が心なしか自信なさげに垂れ下がっていた。それに気がつけるのはアランだけであった。
「あれ、服に気がつかなかった?」
一糸まとわぬ姿で現れたリーナを見て、アランが不思議そうに問いかけた。
「どうせ脱ぐのなら必要ないと思って」
リーナがそう告げると、アランは納得したように頷き近くに来るように手招きした。
ついに来た。
リーナは鼓動が早くなるのを感じながらアランのいる場所へ歩みを進めた。
大きくはないがハリのある形の整った二つの乳房が歩みと同調して揺れる。
乳房のてっぺん、乳首が歩くたびに風に吹かれ敏感になるのがわかる。
長期間野外で任務を行う時、不衛生になるという理由で下の毛は全て脱毛している。
これまでは、煩わしくなくて便利だと思っていたが今日初めて毛がないことに心細さを感じた。
それでも、リーナは体のどこも隠すことなくアランの元へと歩いた。
「じゃあここに立って。手は両側に広げて」
「え、立ったままするの?」
てっきり寝室に連れて行かれると思っていたリーナは首をかしげた。
それに、手を広げるとはどういう意味なのだろう。
「立ってないとできないだろ。ほら、よく見えないから手を広げて」
言われるがままリーナが手を水平に広げると、その体の上をアランの視線が舐めるように絡みついた。
なるほど、とリーナは顔が羞恥心で赤くなるのを感じながら納得した。
世の男の中には、こうして女性の羞恥心を煽る事で、反応を楽しむ鬼畜がいると聞いた事がある。
アランもそういった性癖の持ち主なのだろう。
敏感になった肌の上を視線が通るたびに、リーナは愛撫されてるかのような快感を感じていることに気がついた。
それほどまでに、アランの視線は神経を刺激する。
だがらザビヌの兵として、ナターシャの側近として、これしきの辱めで顔を赤くし、さらには快感を感じているわけにはいかない。
リーナは覚悟を決めて目を閉じた。
これで、アランの視線を感じることはなくなった。
「触るよ」
そう断りを入れて、アランの手がリーナの乳房に触れた。
その手は、広げた手の脇の下を通り背中まで回される。
ちょうど、アランがリーナの胸元に抱きついているような形になった。
アランの手は、リーナの肌に触れるか触れないかといったところをゆっくりと移動していく。
それはまるで、リーナを焦らしているかのようだった。
「一思いにやって」
あまりのもどかしさに、ついリーナの口からそんな言葉が飛び出した。
視線ですら感じてしまったこの体に、触れるか触れないかといった手の感触は到底我慢できるものではなかった。
「そうか、それじゃ遠慮なく」
アランがそう言った次の瞬間、リーナの乳首に電気が流れたような快感が襲った。
たまらず目を開けると、そこにはさっきアランが手に持っていた細い糸があった。
その糸は、リーナの胸元を一周しちょうど乳首のあたりに食い込んでいた。
(やはりあの糸は私を縛るためのものだったのね)
膝から崩れ落ちそうになりながらそんな感想を持ったリーナだったが、次のアランの一言で愕然とすることになる。
「バスト76……と。さ、鎧を作るには細かい採寸が必要だからね、じゃんじゃん測って行くよ」
アランは長さを図るための糸と、記録用の羊皮紙を持ってにこやかにそういった。