18話 ナルビア国王の秘密
玉座にガマガエルが座っている光景は、奇妙と言う他に形容する言葉が見当たらない。
しかし、その光景に疑問を抱いているのはリーナとナターシャだけで、アランと二十人の女兵士は驚くそぶりもない。
数秒固まっていたナターシャが、はたと気づいて居住まいを正した。
「取り乱した姿をお見せして申し訳ありませんでした」
「いやいや、私のこの姿を見て驚くなと言う方が無茶なこと。しかし、その様子から察するにアランからは何も聞いていないようだな」
ガマガエルの口から、昨日聞いたマルク国王の声が発せられる。その、アンバランスさが滑稽でさえあった。
ガマガエルのマルクは、自身の白くてぷよぷよした腹をパチーンと一度叩いて首を傾げた。
「では、まず始めに何故私がこのような醜い姿を晒して生きているのかについて話さねばならぬようだな」
まるで、アランに対して、これくらいあらかじめ説明しておけと避難するような物言いだった。
リーナはその言い方に違和感を覚えた。
「あの、一つよろしいですか。アランは私に鎧を作ったことで今日ここに呼ばれているのですよね?
それなのに何故国王様の秘密をアランが知っているかのようなことを……この男は闇街の怪しい鎧師です。国王様と接点があるとは思えないのですが」
「なんだ、それすらも知らないのか?私はてっきりアランの呪いについては知っているものかと」
呪い。
マルクの姿がなんらかの呪いによるものだと言うのは想像していた。だが、アランに呪いがかけられている?
見た所、アランに変わったところはない。呪いをかけられているようには見えない。
国王の言葉で、リーナの疑問は膨れ上がるばかりだ。
「まぁよい。私の話とアランの話は同じようなものだからな」
ふう、と息を吐いたマルクは乾き始めていた自らの皮膚に霧吹きで水を吹きかけ潤いを取り戻すとこの言葉から話し始めた。
「すべては、十年前の狂気の劇場から始まったのだ」
***
当時、ナルビアは、前国王が収まる国であり、その勢力は凄まじく大陸のほとんどがナルビアの支配下となっていた。
ある日、北西にある小国を攻め落とした当時の将軍がある捕虜を戦利品として前国王に献上した。
まだ幼さが残る黒髪の女性。これは何者か、と前国王が尋ねると将軍が自慢げに説明した。
「この者は、伝説の雪山の魔女の娘にございます」
雪山の魔女とは、大陸の北西にそびえる霊峰に住む不老不死の存在。
大陸統一を目前に控えていた前国王は、その当時不老不死の技術を得ようと躍起になっていた。
雪山の魔女は、数ある不老不死伝説の中で最も有力なものの一つとして、全軍に捜索指令が下っていたのだ。
将軍が言うには、この女性は北西の国をたった一人で数万人の軍から守り通したと言う武勇伝を持つ国民の英雄なのだそうだった。
今回、北西の国が陥落する折、最後まで抵抗したがナルビア軍の前に最終的には屈した。
その国民的英雄である女剣士が、実は雪山の魔女の娘であると言う証言が、ナルビアに下った北西の国の民たちからもたらされたと言うのだ。
だが、当時のナルビア軍には新たに併合した国の軍人も多く混じっており、そういった新参者たちが前国王に取り入ろうと真偽のあやふやな不老不死の秘宝を連日のように献上していた。
その雪山の魔女の娘を連れてきた将軍も、数年前の戦争でナルビアに下った小国出身の男であった。
その為、前国王はすぐにそれを信じることはなく、女が雪山の魔女の娘であることを証明するための試験を行うことにした。それが、十年前の狂気の劇場だ。
アランの父親は当時、ナルビアで一番の腕を持つと称される鎧師であった。
前国王は魔女の娘に万全の鎧を作るようアランの父親に命じ、アランの父親もそれの命に応えた。
狂気の劇場の掟で、胸部と下腹部の一部だけしかない鎧ではあったが、あの鎧は誠に美しかった……
狂気の劇場は順調に進んでいた。
艶やかな黒髪と雪のように白い肌をもつ魔女の娘は、火を噴く大蜥蜴に対して互角の戦いを見せていた。
だが、戦況は一瞬にして大きく変わった。
魔女の娘が一瞬だけ見せた隙。そのタイミングで、大蜥蜴が放った火の玉が直撃したのだ。
魔女の娘は、氷結の魔法を用いてそれを防ごうとしたが、間に合わず大きな傷を負った。
そこからあとの戦いは一方的なものになった。
真っ白だった女剣士の肌にはいくつもの擦過傷ができ、観衆は狂気の劇場の勝負がついたことを確信した。
異変はその時起こった。
女剣士の体が突如目が絡むような強い光を発し始めたのだ。光は次第に収束し、最終的に天を貫く光の柱となった。
見ていた者は、大蜥蜴も含めて、全員が呆然とその光景を眺めていた。
天を貫いていた光の柱は次第に弱くなり、空気に霧散するように消えていった。
光の柱が消えたことで目線を下に戻した観衆たちは、さらに驚くことになった。
なぜなら、ついさっきまで瀕死の女剣士がいた場所に禍々しい黒いオーラを放つ老婆が一人立っていたからだ。




