17話 国王マルクとの謁見
恥ずかしがる必要はない。
アランの言葉の意味を、リーナはすぐに理解した。
玉座の間はそれほど広くはなかったが、細部に至るまで細やかな装飾品が目を惹く豪華な空間だった。
中央奥に人一人が座るには大きすぎる玉座が一つ。扉から玉座へと伸びる赤い絨毯。その両脇に計十人づつの女性が立っていた。
リーナが驚いたのは、その女性たちの姿だった。
一瞬、裸なのだと勘違いするほど露出が多い。リーナと比べても、露出の多さなら玉座間の女性たちに軍配があがるだろう。
基本的に紐でできた水着のような鎧。胸と性器の周りだけ申し訳程度に鎧と呼ばる硬質な素材で覆われており、他はほとんど裸に近い。それなのに、頭部だけは、ガッチリと顔を覆うほどの兜を被っている。
確かにこれなら、リーナの格好でも恥を感じることはない。
「ナルビアほどの大国になると、国王に近づく兵は暗器を隠せないようにあのような姿で仕えるものなのかしら」
ナターシャが二十人の女性兵を見て首をかしげる。
ザビヌでは、自ら女性兵を率いていたナターシャではあるが、その時は兵の装備を制限したことがない。
「そう言うわけじゃないよお姫様。もしそうなら、どうして俺たち二人は服を着ていられる」
「ちょっと、私も隠すところは隠しているのよ!」
そう突っ込んだリーナだったが、アランの言っていることはもっともだ。
自国の、それも身辺警護を任せるほどの兵にこんな格好をさせておいて、この後任官するとはいえ敵国の王家の血を引くナターシャが衣服の着用の制限を受けていない以上、ナターシャの予想は成立しない。
「ならこれは、ナルビア国王の趣味だっていうの?こんな格好をした女兵士を自分の近くに置いておくことが」
「違うよ。でも、今その話を続ける暇はないみたいだ。国王様がおいでだ」
三人を挟むように並んだ女兵の内、刀を持っていない四人な勢いよくラッパを鳴らした。
それに合わせて、全員が膝をつき頭を下げ最敬礼の姿勢をとった。アラン、ナターシャ、リーナもそれに倣って同じ姿勢をとる。
すると、アラン達が入ってきた扉とは違う扉、玉座の奥にある扉が開く音がした。
ゆっくりと足音が近づいてくる。
足音は三人の正面で止まり、一呼吸置いて椅子に座るどかっという音が聞こえた。
「面を上げよ」
それは、昨日の闘技場で聞いた声だった。
今目の前に、大陸最大の国家であるナルビアを統べる王がいる。
リーナとナターシャに緊張が走った。
ナルビアの王といえば、勇猛で民衆の尊敬を一身に背負う存在である。
さらにナルビア王家は覇者の血筋。歴代の王は一人も欠かさず、大陸の歴史にその名を刻んできた。
先代国王に至っては、一度大陸の際は目前までナルビアの勢力圏を広めたことがあるほどの豪傑。
現国王への王位継承が分家の妨害に合い滞っている隙にナルビアに次ぐ大国である連合国家アステルトの独立を許してしまったが、現国王は国境にあるアステルトの州を次々に攻略している。
その途中、陸上貿易の要であったザビヌは滅ぼされる事になった。
戦時中、ナルビアの国王は鬼のような顔をし熊のように大きな体を持つ化け物のような人物であるとの噂が流れた。
リーナとナターシャはそんな噂話を信じてはいなかったが、それでも、ナルビアの強大な軍事力を自らの手足のように操るマルク・ナルビアに対して畏怖と畏敬の念を抱いていた。
だが、だからと言って二人がナルビアをナルビア国王を恨んでいるかといえば、実はそうではない。
先の戦争は、もともとナルビアと同盟の密約を結んでいながらアステルトとの貿易の締結を強行したザビヌ国王、つまりナターシャの父親が引き起こしたもの。
ナルビアは、最後まで自分たちにつくなら領地と国民、そして王族の財産を保証すると言ってきていた。
反戦派であったナターシャは、最後の最後まで父親であるザビヌ王と意見を対立させていた。
そう言った経緯もあり、二人がナルビア王マルクに抱く感情は、自国を滅ぼしたものに対する怒りや恨みではなく、大国を統べる立派な国王への対する尊敬であった。
二人は緊張のあまり、しばらく頭をあげることができなかった。
「どうした?面を上げよと言うておる」
再度促され、ナターシャはようやく頭をあげた。
リーナも一拍遅れ、ナターシャに続いて頭を上げようとした。
だが、リーナが上げ切る前にナターシャの悲鳴が玉座の間に響き渡った。
その刹那、リーナが一飛びでナターシャの元へ駆け寄りその体を自分の体で覆った。
「敵襲ですか?お怪我は」
ナターシャの体を守りつつ周囲を見渡す。
しかし、二十人のナルビアの女兵士達に動きはない。
玉座の間には窓がないので遠距離から狙われる心配もない。それに、ナターシャにもすぐにわかるような外傷はない。
どうやら、ナターシャの悲鳴は攻撃を受けたからではないらしい。
なら、何に対して悲鳴を上げたのか。
そのことを考えながら周囲を警戒していたリーナの目に玉座が写り込んだ。
玉座には国王マルクが座っていた。
リーナは、マルクの姿を一目見てナターシャな何故悲鳴を上げたのか理解した。そして、リーナ自身も悲鳴こそ上げなかったが、ひっと息を飲んだ。
玉座に座るマルクの姿。それは、人のそれではなく、どう見ても巨大なガマガエルにしか見えなかった。




