16話 戦いを終えた朝
目を覚ましたリーナは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
しばらく天井を見つめてようやく昨日のことを思い出した。
爆散するクラゲのモンスター。騒ぎ立てる観衆。それを抑えた国王。
その後、王城に運ばれたリーナとナターシャはそれぞれ部屋を与えられ、食事と入浴を済ませ眠りについた。
ナターシャは、今後についての話し合いをしていたようだが、戦いで疲れていたリーナは就寝するように命令された。
リーナとしては、久しぶりに訪れたナターシャを護衛する機会。意気込んではいたが、体がついていいかなかった。
アランの鎧に守られていたとは言え、攻撃のダメージは思っていた以上に蓄積されているようだった。
と、ここまで思い出してふと時計をに目をやる。
昨日通達された二人の任官式は11時から。時計はその十分前を指していた。
「寝坊した!」
勢いよく飛び起きたリーナは、筋肉痛の激痛で悲鳴をあげた。
だが、今はそれどころではない。
折角勝ち取った生き残りのチャンス。寝坊でふいにする訳には行かない。
リーナは慌てて着替えようと寝間着を脱いで下着姿になった。
しかし、ここでまたリーナは悲鳴をあげることになった。
つい昨日まで戦争犯罪者扱いだったリーナにはナルビアでの資産がない。その為、リーナがこの部屋に持ち込んだ私物は、昨日の狂気の劇場で身にまとっていた鎧のみ。
今、リーナの前に示された選択肢は二つ。
一つは、寝間着姿で任官式に出るか、もう一つはあの恥ずかしい鎧姿で任官式に出るか。
そうこうしているうちに、もう迷っている時間は無くなった。
リーナは決心してアランの鎧を手に取った。
玉座の間の扉の前には二人の男女がリーナを待っていた。
一人はザビヌ第一王女ナターシャ。もう一人は、ナルビアの鎧師アラン。
二人は、リーナの姿を見て目を丸くした。
「このような大事な日に遅れてしまい。申し訳ありません」
ナターシャの前で謝罪の意を表す為片膝をつき頭を下げたリーナに対し、ナターシャが慌てて頭をあげるように促した。
「いいのですよリーナ。あなたは私のために昨日頑張ってくれたのですから。
それよりも、その姿でその姿勢をとるのはやめなさい。殿方がおられるのです、ほとんど丸見えですよ」
「いいえお気遣いなくお姫様。その女の体なら見飽きるほどに見尽くしていますから、今更鎧の隙間からどこが見えようと気にもとめません」
慌てるリーナの横でそんなことを言うのは、いつもの違い正装に身を包んだアランだ。
幼い顔立ちだとおもっていたが、それなりの格好をすれば青年くらいには見える。
「まぁ、二人はそんな関係だったのですか。でも、リーナ、子供を作るのは正式に籍を入れてからの方がいいと私は思うのですよ」
アランの戯言を勘違いしたナターシャが顔を赤くしてそう嗜める。
リーナは、アランを一発殴ってやりたい衝動に駆られた。それをなんとか抑えて、訂正する。
「いえ、ナターシャ様、この男は私に鎧を作ってくれたアランという鎧師で、体を見たというのは採寸の時の話。
私とこの男は、ナターシャ様の考えているような関係ではございません」
「たしかに採寸だったが、それにしてはいい声で鳴いていなような気がするんだが」
「うるさい、お前は黙ってろ」
アランがリーナをからかい、それを見たナターシャがオロオロする。そんなやりとりがしばらく続いた。
そのうちに予定の時刻になった。だが、玉座の間の扉は開かない。どうやら、任官式は少し遅れているようだった。
「この時間に着替えていらっしゃいな。お城の方にお願いすれば、女性用の鎧の一つくらい余っているでしょう」
あまりに露出の激しいリーナの鎧を不憫がったナターシャが、そう提案した。
リーナとしてもこの姿でまた人前に出るのはできれば避けたかった。
だが、その提案をアランが否定する。
「この城には余り物の女性用鎧なんてないよ。それに、べつにその姿を恥ずかしがる必要はない」
「それは、あなたがこの鎧の製作者で、スケベな男だからでしょ?
どうせ中には、同じようなスケベな軍の男の人が大勢いるんだから。私はそんな人たちにジロジロ見られるのは好きじゃないの」
「いや、この中には国王と、国王の身辺警護を行なってる女性だけの特殊部隊しかいないさ」
アランは自信満々に断言した。
否定する余地を与えないほどに言い切るものだから、リーナは反論する暇がなかった。
任官式なのに軍の幹部がいない。国音の身辺警護が女性だけの特殊部隊。
疑問は多くあったが、アランは入れば分かると言ってこの会話を終わらせた。
「国王といえば、ナルビアの国王様にはまだお会いしたことがなかったですわね。昨日は曇りガラスの奥の影しか見えなかったので。
私のような敵国の王家の血を引く者まで助けてくださる器の大きさ、曇りガラス越しにも分かる力強さ。
きっと、素晴らしいお方なのでしょうね」
ナターシャがそう言うと、アランは鼻で笑った。
それは、仮にも自分の国の王が褒められた時の態度ではなかった。
「そろそろ扉が開く。マルク様について、俺について、それとあんたらの今後について。中に入れば全てがわかる。
どうやら、マルク様は昨日の狂気の劇場で心を決めたみたいだからね。十年前の悲劇に決着をつけることに」
アランがそう言ったタイミングで、本当に扉が開いた。
リーナとナターシャは、頭に疑問を浮かべながら玉座の間に一歩足を踏み入れた。




