14話 死闘
「なぜ、どうして平気でいられる?
肌剥き出しのそんな格好をしていて、どうして媚薬の効果に耐えられるの?」
実況席でミヤが疑問の声を上げる。
観衆達も、さっきまで目の前で女性達が我を忘れた姿を見ていたので、これまで通り戦いを続けるリーナを不思議そうに見ていた。
そして、実は戦っているリーナ自身も自分がなぜ平気でいられるのか分からずにいた。
ザビヌの軍でも、諜報任務に当たる部隊は拷問に耐える為、こう言った薬への耐性をつけさせられる。しかし、リーナはナターシャの近衛兵。そんな訓練は受けていなかった。
それなのに、この媚薬を浴びてもなんの支障もない。
全く変化がないというわけではなく、ほんの少し身体が熱く感じはするがそれは他の女性達ほどではなかった。
(この体の火照りには覚えがある……何処だったか)
リーナは覚えのあるその火照りに違和感を感じていた。
だが、モンスターの攻撃は止まずリーナに考える余裕は生まれない。さらに、さっきの粘液がマインゴーシュに付着しさっきから何度切りつけてもモンスターに傷を負わさられずにいた。
媚薬の影響は受けていなかったが、リーナの優位がなくなったのは明白であった。
さて、では何故リーナは媚薬の影響を受けなかったのか。その理由を知る人物がこの闘技場にいた。
「まさかとは思ったけど、念には念を入れておいてよかった」
持ってきていた傘で、飛んでくる粘液を全て避けたアランは、苦笑いでそう言った。
「リーナは知らないだろうな、風呂に毎日少しずつ強くい媚薬を混ぜていたなんて」
鎧作りがどんなに忙しくとも、決して譲らなかった風呂の準備。その理由は、リーナが入る前の風呂に媚薬を混ぜる為だったのだ。
媚薬を混ぜたのは、アランの性癖のせいではない。
鎧の重さに制限がされている以上、今回の粘液のようにどうしても守りきれない範囲が出てくる。
その場合を考慮して、アランはリーナ自身の肌をも鎧として活用すべく、一週間前から媚薬入りの風呂にリーナを入れることで本人の知らない間に耐性をつけていたのだ。
「女が狂気の劇場に出る場合、今回みたいな性質を持ったモンスターが選ばれることが多いとはいえ、まさかここで保険が効いてくるとはね。
だけど、このままじゃまずいな。媚薬を撒き散らしたモンスターが次にするのは苗床探しだからな」
そう呟くアランをの目の前で、自分の入っていたお風呂のお湯に媚薬を混ぜられていたことなどつゆとも知らないリーナは窮地に立たされていた。
使い物にならなくなったマインゴーシュでなんとか攻撃を受け流してはいるが、死を覚悟したクラゲ型のモンスターはこれまで以上の苛烈な攻撃を繰り出してきていた。
リーナは、ジリジリと広場の端まで追い込まれていた。
「さぁ、クラゲちゃんの媚薬を何故か乗り切ったリーナでしたが、ここへ来て絶体絶命のピンチです!
目の前には、死を悟って死に物狂いなクラゲちゃん!そして、後ろには深〜い掘り、その下には無数の杭が備え付けられていて落ちたら命はありません!
まさに、引くも地獄進むも地獄の大一番。
さて、解説のナターシャさん。リーナに起死回生の秘策はあるのでしょうか?」
「……」
「おっと、真っ青な顔で口元を押さえている。これは、主人が敗北を悟ってしまったのか?
さぁ、リーナどうする!?」
先に動いたのはリーナだった。
ミヤのいうとおり、この場にとどまっていれば勝機はない。そう考えたリーナは、決死の覚悟で触手の間を縫いモンスターの裏側へ回り込もうと試みた。
体に三枚天狗草を貼り付けたリーナの身体は、ひと蹴りでいつもの三蹴り分すすむ。五歩走り抜くことができれば、裏側へ回れる。
一歩、二歩……
それは、三歩目を踏み出した瞬間に起こった。
後ろに蹴り上げた左足。ガラ空きのその左足に触手が巻きつきリーナの身体は一瞬にしてさかさに吊り上げられてしまった。
「おーっとクラゲちゃんがリーナを捉えた。
リーナはもがくがクラゲちゃんが二本目の触手で右足もがっつりと掴んだ。これでリーナは身動きが取れません!
さぁそして、クラゲちゃんが他と色が違う赤黒い触手を伸ばして来た。これはクラゲちゃんの生殖器!これを他の生き物の雌の生殖器に入れ卵を産み付ける。
リーナ、無残にもクラゲちゃんの子供を身籠ってしまうのか」
二本の通常の触手で両足を固められ、開いた股の根元に赤黒い触手が伸びて来た。
赤黒い触手はリーナの大事な部分をつき破り、自らの子孫を残すためにリーナの体内に卵を産みつけようとした。
「い、いや、やめて!」
リーナの懇願も、モンスターには伝わらない。
とうとう触手がリーナの下腹部に触れる距離まで近づいた。
だが、それはリーナが腰につけていた鎧により防がれ触手がリーナの体内に侵入することはなかった。
「おや?これはどうしたことだ。最初はひらひらと腰掛けエプロンのように揺れていた下半身の鎧が、今はピッタリとリーナの大事な部分を守っている。これは一体?!」
今日何度目かの驚嘆の声をミヤが上げる。
クラゲ型のモンスターは何度もリーナへの侵入を試みる。だが、赤黒い触手は毎度リーナの腰を守る鎧に防がれ鈍い音を上げるだけだった。




