〈毒りんご〉
〜ルビーのように赤い、丸々としたりんご。その赤さは時として、毒々しいほど。〜
はーいいらっしゃいませー!
はい! 今日はおれが店番なんです〜! お久しぶりですね! えっ? 寂しかった? おれもですよ〜! 奇遇ですね〜ははっ!
あっ、そのりんごが気になりますか!? それ、お客さんにぴったりの品だと思いますよ!
え。どうしてただのりんごがここにって……だっひゃっひゃっひゃっひゃ! お客さーん。ただのりんごなわけないじゃないですか! そちらは、毒りんごですよ、毒りんご!
そう、おとぎ話に出てくる、あの有名な毒りんごです!
これ、いいですよ〜。死体解剖で検出されない毒物ですし、たった一口で致死量に至る優れものなんですー!
これ、本当に評判良いですよ! 「バレなかった」「簡単だった」「罪悪感が少ない」!
味もとってもいいので、料理に混ぜるでもよし!
こちらはですね、毒りんごを育てている専門の所から仕入れたものなんですよ! あそこの土地は、育つ植物全てが毒物になる場所でね。元は墓場なんですが……。
えっ、怨念とか、呪いかなんかかって? だっひゃっひゃっひゃ!! そんなお客さ〜ん、非科学的なこと言わないでくださいよー!
違います違います。あそこは人間じゃなくて、野生動物の墓場なんです。シシル鳥って知ってますか? 死を知る、と書いて死知る鳥。シシル鳥は寿命とかで自分の死を悟ったら、自ら自分の仲間や先祖の骨が横たわる場所に行って、そこで死を迎えるんです。象みたいにね。その行動が積み重なって、そこは墓場みたいになって、鳥の墓場と呼ばれるに至ったのです。
で、そこで! この毒りんごが育てられてる、ということなんです!
それで、どうして毒が入るのか、ですが! 単純な話ですよ〜! あの鳥、死んだら死体から毒というか、有害物質が出るんです! だから死に場所を選ぶんじゃないか、とも言われてるんですけどね! 自分の死体で仲間の安全を脅かさないためにみたいな!
三途の川あたりでいっぱい飛んでますよ〜。現世にはまずいない鳥ですから。
あ。それで、毒りんごの話でしたよね!
冥界の鳥の毒のいっぱい含まれた土地で育ったため、りんごもいっぱい毒を吸って、晴れて毒りんごとなったというわけなんです!
呪いなんて信用のおけないもの、この店じゃ売りませんよ〜。ちゃんと目に見えるか、効果が実証されている確かなものしかね!
ところでどうでしょう、この毒りんご! お客さん、なかなか興味を持っていらっしゃるんじゃ? 前のめりですよ〜。
あ、でも。この毒りんごですが、欠点があって……。
はい、そうなんです。あるんです。
即死ぬのではなく、一週間仮死状態になった後に死ぬのです。
そうなんですよ〜! そこが厄介ですよね!
さらに厄介なのが、解毒方法が存在してしまうのです!
それが、なんと!
……キスなんですよ。
キスで眠りから覚めてしまうのです!
まあ正しく言うと、毒りんごに侵されていない者の唾液が解毒剤ってわけなんです!
あのですね。仮死状態の相手が他人の唾液を経口摂取してしまうと、仮死状態から復活してしまうんです!
まあ、完全と思われたこの毒りんごに、まさかそんな弱点があったなんて、誰も予想しておりませんでした。
分かったのは、見ず知らずの死体に接吻を試みた、たった一人の屍体愛好者による行動のせい、だとは……。本当に、誰も予想しませんでした。
なのでこの毒りんごを使った後は、死体は屍体愛好者の手の届かない所で、そっと安置しといた方がいいですよ!
当然、毒りんごを食べた本人の唾液は解毒剤になりません。ポイントは、毒りんごを食べていない相手からのキスですから。まあ、食べてたらもれなく仮死状態なので、キスもできませんが! ははっ!
あっ。言い忘れていましたが、この毒りんごの最も良いところはですね!
苦しみもなくぽっくりいけるとこなんです!
痛くない、苦しくない。まるで麻酔のようだったと、使われた人は言いましたよ。
おっ! お客さーん、お買い上げしちゃうんですかー!? まいどありー!
そうですね、一週間は見つからない場所に行ったらいいですよ! はい!
でしょでしょ〜! だから最初にお客さんにぴったりだと思うって言ったんですよ〜! なかなかのもんでしょう! おれの洞察力!
この話が、良い冥土の土産になったって? お客さん、うまいっ! 座布団一枚!
は〜い。確かにいただきました! それでは、お客さんが楽になることと、良い旅立ちを祈って!
宣伝材料に使いたいので、自殺が成功したら感想を聞かせてくださいね!
良い往生を!