まえがき〈リクとリコ〉
「……おい、客に向かってその態度はなんだ。」
「……しゃいませぇー。」
「まあ、いいけどさ……。挨拶くらいちゃんとしろよ、リコのお嬢ちゃん。あ、これくれ。」
「はい、さようなら。」
「……。」
夜のとばりが降りた頃、月が輝きだすと同時にとある草地に無数の光が灯りだす。すると先程まで何もなかったところに、屋台のような露店が並んでいる。川の隣をなぞるように立ち並んだ灯し火。それはまるで死者の魂を慰める、灯籠流しのよう。
ここは夜の市場。月明かりでしか咲かない花、 店主が吸血鬼、後ろ暗い商品……。
夜にしか現れることのない妖しい市場。朝になれば、炎が揺らぐように消えゆく一夜の夢。
暗い水辺に舟を浮かべて、ぬるい風に風鈴を揺らす。舟の上にある双子のお店。小さな舟には売り子の妹と、無造作に積まれた商品でいっぱいだった。兄は品物の調達係をしているため、普段は舟の店にはいない。
帆の代わりに吊り下げられているのは、桃色の可愛らしい風鈴。あしらわれた花の模様は、磨りガラスでできている。市場の人たちは、その風鈴を双子のお店の目印にしていた。
だからそのお店は、〈風鈴の帆〉と呼ばれている。