第九話 旅立ち?
「頼みたいこと?」
千晴は颯太に聞き返す。
「ああ、お前にしか出来ないこと(?)だ。頼む」
「……その(?)が気になるけど、まあ良いわ。何をすれば良いの?」
「城から俺が抜け出すために、他の奴らの気を引いて欲しい」
く
…………。
一瞬の沈黙。
まるで、そこだけ時間が止まったかのような静けさだった。
「はぁ!?颯太、何言ってんの!?」
「もう嫌なんだよ。束縛されるのは」
颯太は千晴の目を見て、はっきりと言った。
その目はまるで、颯太の過去を映し出しているかのような、哀しい目だった……。
千晴はそんな颯太の何かを感じ取ったかのように頷く。
「決行は……明日だ」
「あ、明日?……分かったけど…私は、具体的に何をすれば良いの?」
「城で事件を起こしてくれ。大きめの。俺も少しは……仕掛けに関しては協力する」
「う、うん」
千晴は、颯太が自分に頼ってくれた嬉しさと、颯太が居なくなってしまう哀しさで、複雑な表情を見せた。
「……」
流石の鈍感颯太も、千晴の気持ちに気付いたのか。
「……考えといてやるよ」
一言、そう言って千晴の頭を小突く。
「あ……」
千晴は颯太を見上げたが、もう颯太は千晴の目の前から消えていた。
千晴は、先程の颯太とのやり取りを思い出し、頬を赤く染める。
しかし、そんな千晴に憎悪の目を注ぐ影に、千晴はまだ気付いていなかった……。
*大広間*
「きゃあ!」
突然、千晴が大声を上げた。
その声に反応し、クラスメートや兵士達も、続々と集まっていく。
「あ、あそこ……!炎が!」
千晴が指をさした方を見ると、確かに巨大な炎が上がっていた。
「皆の者!消火じゃ!」
皆動揺している中、ハビルだけが冷静に指示を出す。
青魔法の使える者は一斉に魔法を放ち、回復魔法持ちの者は魔力の枯渇を防ぐ為に、魔力を回復させていく。
千晴は、皆の目線が炎に集中しているときに、隠れて大広間を抜け出した。
「……颯太。本当に、行くつもりなの?」
「ああ。ま、いつか会えたときは、よろしくな」
颯太は無表情のまま千晴に答える。
「……」
「じゃあな。……千晴」
そう言って、颯太は風と共に消えていった。
千晴はしばらく空を見つめ、そして小さな声で泣いた。
(……死んだら、許さないんだから)