第七話 正体
*シャラングリア城*
「国王様っ!」
叫んだのは千晴だ。
「どうした!?」
国王が、何事かというふうに返事をした。
「颯太から連絡があって……颯太は、無事にその場を切り抜けたそうです」
「ほう!それで?フィルは?」
「……それが。亡くなられた、とのことです……」
「何っ!?」
国王としても、その事実は受け入れがたい。
「すぐに……」
「俺なら此処だぞ。国王」
国王が颯太を呼ぼうとすると、逆に颯太の方から声がかかった。
「……どういうことだ?自分だけぬけぬけと帰ってきたというのか?」
「……」
「フィルがこの城にとって、どれだけ大切な人材だったか分かっているのか?」
「ああ。だがアイツは、フィルは、俺達の敵だっただろう?」
「!?」
どうやら国王は、全く気付いていなかったらしい。
颯太が、小屋で聞いた話を国王にする。
「それともう一つ、聞きたいことがあるんだ」
「……何じゃ?」
「俺とフィルは、今までにも一度、会ったことがあるのか?」
颯太は静かに、しかし、力強く聞いた。
「……時が来れば分かるだろう」
国王は、フィルと同じ答えを返すのみだった。
*庭園*
「……工藤君」
唐突に千晴が言った。
「……何だ?後、前から言おうと思ってたんだがその、‘工藤君’っての辞めてくれないか。気持ち悪い」
「ああ、うん。そ…颯太?」
「……」
「後悔……してるんでしょう。フィルを、助けられなかったこと」
千晴の声は優しく、颯太の心に響いた。
「さあな」
颯太は、千晴とは反対側を向き、俯いた。
自信家で、少し傲慢なところがある颯太だが、本当はとても繊細だ。誰よりも。
「力試し……か」
颯太は呟く。
この先、どんな困難が待ち受けているのか、それはまだ分からない。
だが颯太は、その困難を乗り越えなければならないのだ。
それが例え……。
「人の命を脅かすことであっても、な」
「え?」
千晴は聞き返す。
「いや、何でも無い」
(どちらにしても、俺の過去は調べる必要がありそうだな)
颯太は立ち上がった。
「何処に行くの?」
千晴が聞く。
「……着いてこい。お前にも話がある」
颯太は千晴にそう言うと、城の廊下を歩き始める。
千晴は疑問を感じながらも、颯太の後に着いていった。