第四話 危機一髪
(この殺気……尋常じゃない)
颯太は、本能的にそう感じた。
(この殺気を二人が出しているとは考えにくい。何かに巻き込まれたと見て良いだろう)
そこまでは良い。
ただ、問題なのは……。
「こんな特徴的な殺気を出す奴……アイツしかいないだろ」
*森小屋*
「さて……。貴方たち二人は、彼がいないと機能しませんよね?まあ、彼がいてもただのお荷物に過ぎませんが。フフッ」
ここからでは見えないが、確かに『奴』は笑っている。
「何が……したいの?」
千晴は、怪我をしている美月を庇うように前に出た。
「おや、塵が何をしているのですか?貴方なんて、私が指一本動かすだけであの世逝きですよ」
『奴』は、千晴に短刀を突き付ける。
「くっ……」
流石の千晴も、それには対抗出来ずにいる。
「私が求めているのは、貴方たち勇者の特別な力や能力です。ですから、貴方たちに用はありません」
『奴』は指を鳴らす。
すると、二人はあっという間に拘束されてしまった。
続いて短刀を三本取り出した『奴』は、千晴の手首を切り始めた。
「い、いやっ!やめて!」
「まあ、取り敢えずこのくらいにしておきましょう。次は、貴方です」
『奴』は美月に向き直る。
そして今度は、美月の手首を切り始めた。
「いやっ!」
また、少し切ったところでやめる。
二人は痛みに呻き、苦しむ。
その光景を『奴』は笑いながら見ているのだ。
「放っておけばその内死ぬでしょう。では、存分にお楽しみ下さい」
『奴』は、あろうことかその場に寝転がった。
美月は、まだ回復速度が速い方だが、千晴はそうでは無い。
その為……。
「うっ……」
尽きるのも速い。
「おやおや。では、まずは貴方から……」
「させねぇぞ?裏切り者」
やはりこういう時に頼りになるのは、颯太だ。
「裏切り?ハハッ。笑わせないで下さい。私は元々、この国に忠誠を誓った覚えはありません。私は、『魔王』側の人間だ!」
「最初から、俺達を強くする気なんてなかった訳か、フィル」
『奴』。
それはつまり、フィルのことである。
「ええ。まあ、貴方は最初から私を疑っていた。騙すのも、やや困難でしたしね」
「ああ、そのことなんだが。俺は、騙されてたんじゃなくて、騙されたふりをしていたんだよ。もしものとき、怪しまれずに行動するために。だからその分、今回も動きやすかったしな」
「はぁ。全く、貴方には敵いませんね。では、ここで勝負といきましょう。命を落とした方が負け。分かりやすいでしょう?」
「ああ」
二人は一気に戦闘態勢に入る。
「……死なないでよね。工藤君」
千晴が、誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
自分を治療してくれた颯太に感謝してのことなのか、恋愛感情があってのことなのかは分からない。
ただ。
「死なねえよ。やりたいことをやり終えるまでは、絶対にな」
颯太がその言葉に答えたのは、紛れもない事実である。