第十六話 本領発揮
「誰だっ!?」
そう叫んだのは、見回りの兵士達だ。
颯太達を見ると、槍や弓矢を取り出し、一斉に攻撃態勢に入った。
「おいおい。初対面の相手に向かって、誰だは無いだろ。こっちは客だぞ」
颯太は、面倒臭そうに言うと、クレアに目配せした。
クレアは小さく頷くと、兵士達に向き直る。
「一発で片付けます。──銀蓮華」
兵士達に向かって手を突き出して呪文を唱えたクレアを中心に、銀色の花弁が飛び散る。
それは兵士達の方に向かい、大爆発を起こす。
「な……っ!ガハッ!」
それはまさに一瞬のことで、攻撃された方は何が起こったのか、全く理解できない状態だ。
「急ぎましょう。こんな所で体力を使うわけにはいきませんから」
颯太は頷くと、思い出したように声を上げた。
「そっか、──転移」
最初から、城の中に直接転移していれば良かったのだ。
颯太は、目の前の男に不敵な笑みを浮かべる。
男も立ち上がり、颯太を見下ろす。
彼等の間に、見えない火花が散った。
所謂、戦いの幕開けである。
クレアは、ドワーフ達に後ろに下がっているよう命じ、颯太に目配せする。
「其方が、クドウ・ソウタか?」
「そうだ。お前は?」
「我はレアリア・クロノ。この国の王だ」
「そうか。それは凄いな。だが、貴様は此処で死ぬぞ」
「……言ってくれるではないか。これでも王の身。一般人よりは戦闘能力がある」
今の会話を実際に聴いているクレアは、それだけで身震いした。
互いに口には出していないが、確かな怒り、憎しみの感情がそこにはあった。
「失せろ──エレウェル・フォルセディン」
「っ!『曲がれ』!」
颯太が咄嗟に使用したのは、操作魔法。
目には見えない何かが、自分達の方に向かってきたのを感じ取ったからだ。
「ふむ。勘は中々鋭いようだな。今の攻撃を防ぐとは」
「……ユピリウス・サティリル」
颯太はレアリアの言葉には答えずに、呪文を唱えた。
「この魔法は、超高難度のSSランクだろう?何故其方のような一般民が知っているのだ!」
レアリアはそう叫ぶと、両手を前に突き出す。
途端に魔法が破壊され、衝撃によって颯太は後ろに吹き飛ばされた。
追い打ちをかける様に、刀を持ったレアリアが此方に向かってくる。
朦朧とする意識の中、颯太は何かを囁くと、クレアに目線を向けた。
クレアはその視線に気付くと、微かに首を縦に振った。
運良く、レアリアがそれに気付くことは無い。
「其方も大したことは無かったようだな。期待して損をした」
「……」
颯太は何も答えない。
「どうした?もう言うことは無しか?」
レアリアは挑発するかの様に颯太に言った。
「……油断は禁物だ」
颯太の低い声と共に、辺りに鮮血が飛び散る。
それはレアリアの物……の、筈だった。
しかし、レアリアの物では無かった。
他でもないクレアの物である。