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「揃々 上がれ。風邪ひくから、マジでぇ」
「……」
「凛子?」
「……」
「凛子?」
答えない。
凛子は俺に背を向けたまま闇色の海の最果てを見つめている。
そして、スッと海の先を指さす。
「海の龍」
「……」
以前、聞いた事がある。
『白い波をジッと見てっとな、横にスーッと伸びるだろ?
アレが海を泳ぐ龍のように見えるから、海の龍って呼ぶんだ』
そう言って得意の雑学を披露したのは、凛子の弟・郁斗だ。
「ぁぁ……」
俺は小さく頷く。
郁斗は凛子の双子の片割れ。男女の双子なんて珍しいから、最初は驚いた。
だって、ソックリなんだ。鏡で合わせたように、瓜二つの2人。
郁斗は女の子のように見えて、凛子みたいに可愛い。
凛子は郁斗の男らしさを持っているから、何処か中性的で妖艶だ。
2人は、全てを半分ずつ兼ね備え、口を揃えて言う。
『2人で1つ』
相思相愛。俺は2人を そう思った。
ザザァァ……ザザァァ……
沖は波も高いのだろう。海の龍は見渡す限りに息巻いて泳いでやがる。
それが徐々に浜へ攻め込んで来るから、凛子のジーンズは びしょ濡れだ。
「凛子、波が高い。帰ろう」
「……」
凛子は相変わらず海から離れようとしない。
凛子はソレ程 海が好きだ。だから俺は、海が怖い。
いつか、凛子が海に攫われそうな気がする。
丁度、猛り狂う海の龍が、凛子を飲み込むような感じで。
あんなに小さな凛子だ、海の龍が その気になりゃ一口でパクリだ。
ゴクリと飲み込まれたら最後、一瞬の内に消化されて海の藻屑。そんな絵面。
こんだけ腹黒い海だ。容赦ねんだろうな。
そう抱く俺の恐怖など構う様子も無いのか、凛子は未だ海から上がらない。
そして、僅かに俺を振り返る。それはそれは名残惜しそうに。
「勝利、」
「何だよ……?」
平静を装う俺に、凛子は続ける。
「郁斗を……覚えている?」
覚えているも何も、今さっき確り思い出していた所だ。
「ああ」
「良かった」
唸るように短く頷くと、凛子は満足そうに僅かに微笑む。
「私はね、郁斗を忘れようとしているの」
「……」
凛子の意外な言葉に、俺は面食らう。
瞬きを繰り返すばかりで、それ以上のリアクションがとれない。
そんな中も、凛子は波に揺らめきながら続ける。
「郁斗が死んだ何て、辛すぎるから……」
――郁斗は死んだ。
あっ気なくパッと。そりゃ、花火のように。
長年 患った病が原因だったが、死に顔は矢鱈とキレイだった。
青白く透き通った肌の色。
窪んだ目元は生前 大きな猫目で可愛かったし、長い睫毛が男らしく無くて、やっぱり可愛くて、
それが、物言わぬ屍ってヤツになっていたから、不思議だった。




