1
ねぇ、私の為に死ねる?
俺の彼女は天真爛漫。
「ねぇ、野木勝利ぃ」
「カレシの名前、普通、フルネームで呼ぶか?」
俺の名前は野木勝利。愛しい彼女は小高凛子。
1人暮らしをしている俺の部屋へ来れば、決まってソファーに寝転がる凛子は、
行きがけに買って来たと云うアクションコミックから目を離す様子も無いまま続ける。
「良いじゃん、別に。ねぇそれよりさぁ、私ってさぁ結構 可愛いじゃん?」
「自分で言うかね、そ~ゆ~コト」
「良いじゃん、別に。でね、私、職場の男の子からコクられちゃった」
「少しは はばかれや、そーゆー発言!」
男心を何と捉えているのか、この女は。いつでも この調子だ。
実際、嫉妬深い俺は凛子の読み耽る漫画本を取り上げ、真向かいのソファーに放り投げると、ムチャクチャ睨み下ろしてやる。どうだ、少しは狼狽えろ!
「それで、睨んでるつもり?」
「……」
逆に睨み上げて来やがった。
縄張り争い中の猫のような目だ。下手をすれば引っかかれるぞ。
今日の所は穏便に済ませてやる。覚えとけよ。俺は忘れるけど。
俺は小さく咳払いをした後、凛子の寝転がるソファーの空きスペースに静かに腰を下ろす。
「――で。どうしたんだよ、それでぇ」
気になる。こ
の女の事だ、ムチャクチャなリアクションを取ったに違いない。
不安と興味が半々。目も合わせずに問う俺に、凛子はサラリと答える。
「私の為に死ねる? って、聞いてみた」
やはりアホだろ、この女。コクられて、どうしてそうゆう展開?
「ほぉ。んで、その回答は?」
「多分って」
「多分か」
「勝利なら何て答える?」
「えッ?」
うわぁ、ヘヴィな質問ブッ飛んで来たよ!
『お前の為なら死ねる!!』って力説しろって!? うわぁ、寒く無い!?
そうゆうの得意ぢゃねぇのに……でもぉ、ココはポイント稼ぎ?
凛子は風船のような女だから、万事に於いてフラフラしている。
浮気症なのでは無い。極めて一途だ。
それなのに何処か魂ココに在らずに感じるのは、凛子が常に遠くを見据えているからだろう。
だから、俺はいつまで経っても落ち着かない。
凛子をモノにした気になれない。常に片想い。
「死ねるよ。凛子の為なら」
そうさ。凛子の為なら死ねるさ。浮気性の俺だって。
クサイ事、言いたくなくても言えちゃうよ。言っちゃうよ。
だから今晩ヤらせろよ。
「ふ~ん」
何だよ、その淡白な反応はぁ。
「理想の回答は何だっての?」
凛子はソファーにうつ伏せ、答えようとしない。
「凛子?」
何か、ちょっと元気が無い。
ヘヴィはヘヴィでも、こんな感傷的ではないのが凛子だ。
普段なら、似てない物真似の練習をしてみたり、お笑い芸人に負けないコントを見せてくれる。
そりゃもぉイチャつく暇もないままに面白い。
俺は腹を抱えて笑うばかりで、凛子は四六時中、俺を笑わせるばかりで。
それが何故か……ここ最近、覇気が無いんだ。
本人は気づいているのか知らねぇが、じっと遠くを見てるようで……
って、今は、カレンダーを見てるね。
「6月のカレンダーが、何?」
「別に」
「お前の誕生日、忘れてねぇよ、俺は」
「そ」
6月は凛子の誕生月。
少々 目移りする系の浮気性な俺ではあるが、毎年忘れた事は無い。
だからと言ってココ数年、祝ってもないのだが。