仲間として、友人として。
さて、既存キャラ紹介も最後……かな?
■藤原千佳
真雪と同じ学年だが、現在はファミレスで働くフリーター。薫と同じバイト先で働いており、バイトにおける先輩でもある。
髪の毛は肩につくくらい、キリッとしたカッコいい顔立ちの女性だが……実は生物学的には男性。色々あって女性の姿を選んでいるが、真雪と心が通じあったことで、彼の中にも色々な変化が押し寄せている。
性格はざっくばらんとしており、話しやすいお姉さま。綾美とは気が合うため、過去のエピソードでは一緒に都をいじったこともありますね。
私が真雪さんと中村さんを二人きりにしてから、約1時間後。
「都ちゃーん、どうして真雪があたしたちの家で見知らぬ男と二人っきりなのか、説明してもらえるよねー?」
千佳さんが引きつった笑顔で私たちを出迎えてくれた。
「いやーさすがの千佳さんも驚いちゃったわけなのよー。だって、バイトから帰ってきたら、知らない男と真雪が二人っきりで、話を聞けば都ちゃんが色々知ってるって言うじゃなぁい?」
「分かってますちゃんと説明しますってば!」
そんな千佳さんの相手を私に任せ、綾美は真っ直ぐに中村さんの所へ。
椅子に座っていた彼が立ち上がり、その場にいたのが優香さんではないことに怪訝そうな顔をする。
綾美はそんな彼を見上げ、営業用スマイルを向けた。
「初めまして。優香さんの相方やってます、後藤綾美といいます」
「相方?」
「はい、相方です」
綾美の説明に浮かぶのは疑問符。真雪さんも千佳さんも綾美の言っていることが分からず、彼女の説明を待つ。
「えっと……一言で言ってしまえば、あたしたち、同人誌を発行してまして」
「同人誌?」
「ご存知ありませんか? まぁ、要するに自分の好きなことを冊子にまとめて、アマチュアの即売会で売ったり買ったりしているんですよ。あたしたちは元々個人で活動しているんですけど、好きなジャンルが似通っているので、年に2度くらい、一緒に本を作るんです。今回もその作業で、彼女はあたしの家で一緒に作業をしてくれているんです」
ざっくばらんに説明した彼女は、彼に二の句を許さず続けた。
「あたしは優香と中村さんがどんな関係なのか知りません。でも、優香は決して、貴方のことが嫌いだから黙っていたわけじゃないんです。あたしたちの活動は基本的に個人作業だけど、周囲の理解を得るのが難しい場合だってありますから、彼女はその辺を気にしているんだと思います。ただ、あたしがここに来たのは……貴方に一言、どうしても言いたかったからです」
ここまで一気に喋ってから、一度、呼吸を整えて、
「どうして、彼女に直接聞かなかったんですか?」
刹那、彼が顔を伏せた。あえて私たちが聞かなかったことを、綾美は真正面から問いかける。
「聞くところによれば、中村さんって優香の幼馴染で許嫁だそうじゃないですか。あたしよりもずっと付き合いが長いのに……どうして、本人に直接聞かないで、こんなコソコソと探るような真似を?」
「それ、は……」
綾美は言葉を止めない。目を細めて彼を見つめ、まくし立てるように続けた。
「あたしの憶測なので言わせてもらいますけど、それって、優香を信用してないからですよね? 話してくれるのを待つわけでもなく、正面から問いかけるわけでもなく。どうせ、彼女が怪しいことをしてる――他の男と会ってるんじゃないかって疑ってたんでしょう?」
「それは違うっ!!」
瞬間、顔を上げた中村さんが大声と共にテーブルを叩いた。鈍い音が室内に反響し、静かに消える。
綾美はそんな彼を見下ろし、不意に……口元へにやりと笑みを浮かべて、
「それを聞いて安心しました。優香と同じくらい、不器用な人ですね」
「あ――」
自分が試されたことに気付いた彼へ、「ゴメンなさい。でも、そう疑ってたことも事実ですから」と、綾美は軽く舌を出して、
「優香はちょっと、私の友達の家で作業をしてます。パソコンでその作業を進めてもらわなきゃ色々間に合わないから、今日はあたしが代理で来ました。だから、明日は本人を連れてきます。詳しいことはそこで本人に直接聞いてもらえますか?」
終始、自分のペースで話を進める彼女に、中村さんも条件反射のように頷きつつ、
「分かりました……あの、後藤さん、一つだけ聞いてもいいですか?」
「? 何ですか?」
「優香は……本当に、自分を嫌って話してくれないわけじゃ、ないんですよね?」
それはきっと、彼が心のどこかでずっと恐れていたこと。
付き合いが長いからこそ、彼女が隠している理由が気になってしまう。大切なことを打ち明けてくれないのは、隠しているのは、自分のことが嫌いだから――そう思ってしまったら、不安が次の不安を呼んでしまう。
その不安を解消しようとして、今回は少し空回りをしてしまったけど。
彼の言葉に、綾美は一度だけ頷いて、
「それは直接、本人に聞いてください」
今は綾美の笑顔が、中村さんにとって一つの答えであるような気がして……その場を見守っていた私は、親友の鮮やかな立ち回りに感心せざるをえない。
「綾美ちゃん、相変わらずカッコイイねー」
私の隣にいた千佳さんが、手を顎にあてて何度も頷いている。
そしてちらりと私に視線を向け、
「でさ、都ちゃん……結局、何がどうなってるの?」
「スイマセン、今から説明させていただきます……」
予想以上に周囲を巻き込んでしまった一連の騒動を振り返りつつ、私は千佳さんと真雪さんへ「当たり障りのない」説明をするのだった。
とりあえず中村さんには一旦ホテルへ(今日はホテル泊まりらしい)に引き上げてもらって、訳も分からず協力してくれた千佳さんと真雪さんには重ねて謝辞を述べてから、私たちも優香さんの元へ――薫の部屋へ戻り、
「あ、あの! 智君はどうでしたか!?」
と、泣きそうな表情で結果をうかがう優香さんに、綾美が結果を報告したところ。
何だか今日は夕方から色々ありすぎてるなー……私も自分で整理するのが精一杯だ。
綾美からの報告を聞いた優香さんは、問題がなかったことにほっと胸をなでおろし、
「良かったです……本当に、良かった」
自分に言い聞かせるように、何度も呟く。
そんな優香さんへ、綾美は少し躊躇いつつ……。
「ねぇ優香、あたしは中村さんと話をしたんだけど、彼、優香を否定するような人には思えなかったわ。そりゃあ確かに、いきなりカミングアウトするには衝撃的なことかもしれないけど……彼に隠してる理由、もう少し詳しく教えてくれない?」
「……」
「まぁ、言いたくないならいいんだけど……何だか、見ていて彼も可哀そうだったのよ。優香が悪意を持って彼に隠していたとは思いたくないわ。だから、それなりの理由があるんだろうなって思って」
しばしの沈黙の後、優香さんは一言、ぽつりと呟く。
「……怖かったんです」
それは、同人作家ではない私には分からない悩み。
でも、優香さんにとっては……彼との距離を考えなおしてしまうような、死活問題だったのだ。