突撃★彼女の許嫁!?
ではでは、既存キャラの簡易紹介、いきますっ!!
■香月奈々(かつき・なな)
19歳の大学2年生、都と同じ寮で生活している。
大学生とは思えない低身長とロリフェイス、ロリボイスで、都を知らないうちに骨抜きにしている。
しかし中身はオカン的な優しさと包容力を兼ね備えた世話焼きやで、都のことも色々と気遣ってくれる幼なじみ的な美少女。
空気が読める、読めるからこそ自己主張が乏しくなることもあった。
都と薫の仲を心から羨ましいと思っているし、長く続くといいなぁと幸せを願っている。とはいえ奈々もフリーではなく、秋に同じ大学の大学院へ進学する(予定)の彼氏と遠距離恋愛中。
■上田真雪
21歳の大学3年生。都や薫と学部は違うが、同じ大学に通っている。
黒髪ストレートが似合う清楚な美人。騒がしいタイプではない。
親元を離れ、藤原千佳(次のエピソードから登場)と二人暮らしをしている。
冷静に物事を判断出来るため、暴走しがちな千佳を諌められる唯一の存在。千佳とは友達以上恋人未満の関係か続いていたが、それに終止符を打ったのはつい最近のこと。
そして――あっという間に日曜日の夜。
薫も私も夕方までアルバイトだったので、今日はまだ会っていない。
まぁ、本当は……今日、私は薫の部屋にいる必要はないんだけど、大樹君との絡みはやっぱり気になるし。興味本位と冷やかしだ。
バイト先から寮に帰って一息ついた私は、携帯電話で時刻を確認した。
現在、午後6時30分……確か、今日のデッサン大会は6時過ぎからだから、そろそろ室内は悲惨なことになっているのかもしれないけど。
「……差し入れでも持って、冷やかしに行きますか」
近くのコンビニに回るルートを決めて、私は再び自室を後にした。
「あっ、都ちゃんっ!!」
スニーカを履いて立ちあがった瞬間、外から奈々が駆け込んできた。
パステルグリーンのワンピースに白いパーカー、ショートブーツという春っぽい格好の彼女は、私の服を掴んで「よかったぁ……」と、肩の力を抜く。
普段のホワっとして可愛い声の奈々とはかけ離れた、ただならぬ気配。まるで何かから逃げてきたような様子で、思わず全身が緊張した。
「奈々、どうしたの? まさか不審者!?」
「う、ううん、多分違うと思うんだけど……しつこく聞かれたから、怖くなっちゃって……」
奈々、世間的にはそういう人を不審者って言っていいと思うよ!
私は表情を固くして、冷静に問いかける。
「しつこく聞かれた? 何を?」
「えっとね……私は知らない人なんだけど、小林さんって女性を知らないか、って」
「小林、さん……」
刹那、優香さんの顔が浮かんだ。でも、どうして……?
「奈々は知りませんって言ったし、物腰も言葉遣いも丁寧な人だったんだけど、中々納得してくれなくて……」
「それは男性? 女性?」
「少し年上の男性だったよ……中村さんって言ってたかなぁ。何だか凄く真っ直ぐな人で、悪気はないと思うんだけど、しつこくて困っちゃったんだ」
奈々自身も苦笑いを浮かべている。何か実害があったわけではなさそうだけど……気になるなぁ、その人。
「ねぇ、奈々。その人ってどこにいたの?」
「えっと……大学近くのコンビニ前で話しかけられたよ。長身で、見た目がキリっとした人。黒いTシャツにジーンズだったけど……ひょっとして都ちゃん、心当たりがあるの?」
「んー……ちょっと、ね」
まだ、優香さんだと確定するには情報が少なすぎる。
奈々には「全部分かったら話すね」と約束して、私は寮を飛び出したのだった。
そして。
「あれ……真雪さん?」
問題のコンビニ前、入口近くのゴミ箱前で立ち話をしている男女一組を発見。
一人は上田真雪さんだ。今日も膝まであるチュニックにレギンスという格好が似合っていらっしゃる、清楚可憐で頼りになるお姉さま。
そしてその話し相手は、千佳さんではない。
「いえ、あの、ですから……申し訳ないですけど、心当たりはありませんから」
真雪さんの困り果てた声が聞こえる。
多分あの人が、さっき奈々が言っていた人物だろう。真雪さんがいたことで話しかけやすくなった私は、そのまま二人に近づいていく。そして。
「あの、ちょっといいですか?」
唐突に割って入った。
刹那、彼から鋭い目で見下ろされる。私たちの身長差は頭一つ分。薫よりも少し高いな……だから余計に見下ろされた感じがするんだけど。
日本人らしい、非常に端正な顔立ちの青年だった。きりっと引き締まった口元に、私を見定めるように真っ直ぐ見据える瞳。実直に生きてるんだろうな、と、勝手に想像してしまう。あだ名を勝手につけるなら「ミスター・ブシドー」かな。いや、決して悪意はないのだけど。
無地の黒いTシャツと細身のジーンズ。っていうか足が長い……全体的に無駄のない彼は、唐突な私に「どちらさまですか?」と、低いけれど思ったより柔らかい声音で問いかけた。いやそれ、コッチのセリフですけどね……。
私がこの人と接触したのは、もしかしたら優香さんのお兄さんではないかと思ったからだ。優香さんには何か事情があって、今は綾美の家にいるけど……心配したお兄さんが綾美の家からここまでつけてきて、途方に暮れているんじゃないかな、と。
「都さん?」
突然の伏兵に、真雪さんが安堵したような声で私を呼ぶ。
自分で対峙してはみたけど……まぁ、優香さんと雰囲気は似てる。でも、兄妹だと確信できる要素はない。初対面だから当然だけど。
「いきなりスイマセン。私、沢城都っていいます。あの、小林さんって方を探していらっしゃるって……」
友達から聞いて。
そこまで言い終わらないうちに、彼はターゲットを私に変えたかと思うと……目の色まで変えて私の肩を掴んだ。
「優ちゃんを……優香を知っているんですか!?」
「へっ!? あ、あの……や、やっぱり。優香さんのお兄さんですか?」
唐突な事態に声を上ずらせつつ、私は彼に問いかける。
すると彼はパッと私から手を離し、一瞬頬を赤くして首を横に振った。
「い、いいえ……自分は、その……知り合いです」
……明らかに怪しい。
今度は私と真雪さんの目が鋭く睨む。
「えぇっとスイマセン、知り合いの方がどうして彼女を探しているんですか? 場合によっては警察に相談しますけど……」
「違います! 自分は決してストーカーなどという不埒な輩ではありません!!」
「じゃあどうして、彼女を探していらっしゃるんですか? ここまで来たのも、彼女の後をつけてきたからでしょう?」
私が少し語気を強めて問い詰めると、彼は目を泳がせて必死に言いわけを探している様子だ。
「真雪さん、やっぱりこの人警察に――」
「だから違います! あぁ、もう……そうですよね、分かりました。説明しますから、どこか座ってお話出来るところはありませんか?」
観念したように肩を落とす彼に、私と真雪さんは顔を見合せるしかない。
「どうします、真雪さん」
「悪い人じゃないと思うのだけど……とりあえず、家でお話を伺いましょうか。今は千佳もアルバイトだし」
かくして、話は何とかまとまったのである。
で。
「ご迷惑をおかけしました。自分は、中村智哉っていいます」
お邪魔した上田邸のダイニングで、私達と向かい合うように椅子に座って。
真雪さんに淹れてもらったコーヒーを一口含んでから、彼――中村さんはようやく自己紹介を始めた。
「自分は、優香の許嫁で……」
「へっ!?」
自己紹介開始10秒後、私は危うくコーヒーを噴き出しそうになる。
そもそも優香さんの存在を知らずに巻き込まれた真雪さんは首をかしげる程度だったが、私にしてみれば重大な情報だぞ……。
「あ、あの……中村さんのおっしゃってる優香さんって、すっごく礼儀正しくて大和撫子っていう言葉が似合う、小林優香さんで間違いないですか?」
「はい、恐らく。彼女が知人の家に泊まっているのは知っていましたが、今日も二人でこちらの町へ来ていたので、自分には隠している何かあるのかと追尾してきて……」
優香さんがどこに住んでいるのか知らないが、付き合いのある彼が疑問に思うくらいだ。こっちの方へ来ることは今までなかったのだろう。
でも、だからって……。
「中村さんが優香さんを心配していらっしゃることは十分分かりました。でも、だからって彼女を付け回していい理由にはならないと思うんですけど」
「それは……承知しています」
何だか嘘っぽく聞こえてしまうが、今はそこに突っ込むのはやめておこう。
彼は少し思いつめたような表情で、ぽつぽつと内情を説明してくれる。
「自分達は親同士が古い知り合いで、その縁で彼女とも一緒にいましたし……将来のことを考えるようにもなりました。けど、ここ2,3年くらい、彼女の様子がおかしいんです」
「おかしい……?」
「部屋に入れてくれないのは分かるんですけど、盆や年末年始の食事会にも顔を出さなくなって、休日もどこかへ出かけているみたいで……今回のように、大きな荷物を持って知人の家に行くこともあります。彼女に何をしているのか尋ねても、何も、話してくれなくて……」
……。
……あぁ、なるほど。理解してしまった。
優香さん……中村さんには同人活動のこと、何も話してないんだな。
そりゃあ、盆と正月は年に2度のイベントデーだから、そこに命かけてる彼女たちはしょうがないですよ……なんて、この場では言わないけど。
と、今まで状況を静観してくれていた真雪さんが、こそっと耳打ち。
「あの、都さん。聞いてもいいかしら。その小林さんっていうお嬢さんは、その……」
「真雪さん、心配しないでください。不良行為とか犯罪に加担してるとか、そういうことじゃありませんから」
その辺はしっかり保障させていただきます。
「沢城さんは知ってるんですよね? 優香は一体何を……?」
「え、えぇっと……」
ただ、この場で彼女のことを本人の許可なく口外するのは気が引けた。
同じような趣味を持っている私だからこそ、余計に。
「あの、ですね……その、中村さん、本人が言いたくないことを私から告げ口するのは筋違いだと思うので、この場では言えません。ただ……優香さんは危ないことに手を出してるわけじゃありません。その辺はきちんと信じてあげてほしいんです、けど……」
「それは、信じているつもりですが……」
まぁ、ここまでひた隠しにされたら、気にするなって言う方が無理な注文だよねぇ……多分この中村さん、優香さんに対してかなり真っ直ぐな好意を持っていると思われるし。
と、いうわけで。
「じゃあ、私がこれから優香さんに話をしてみます。やっぱり直接本人から聞くべきだと思うし、優香さんには隠すだけの理由があるはずですから」
私がこう提案した瞬間、伏し目だった中村さんが顔を上げた。
その瞳が私に並々ならぬ期待を抱いていることを伺わせるが……うぅ、そんなに期待されると、多分優香さんは(原画)作業が落ち着くまで話したくないと思いますよー……なんて、言えるわけがない。
「真雪さん、事情が全く分からないのに申し訳ないんですけど……もーしばらく、中村さんをおいててもらえますか? そんなに時間はかけませんから」
「え、ええ。分かったわ。でも、解決したらちゃんと説明してね?」
……そろそろ私の趣味も隠せないかもしれない。そんなことを思いながら、私は苦笑で頷いたのだった。
さて、何だかややこしいことになってきたぞ?