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断る気のないアンフェア・トレード

さて、簡単既存キャラ紹介、いきますよ!!


田村大樹たむら・だいき

20歳で、この春に専門学校を卒業しそのまま上京した。薫とは高校時代のクラスメート。

どこか掴めない、独特の雰囲気を持っている美少女同人作家。顔はカッコいいのに収入の半分が新作ゲームやアニメの円盤に消えていく。ノリも良く、作中でも屈指の高いコミュニケーション能力を保持している。(らしい)

薫に発生した高校時代の事件をずっと気にしており、彼に近づく女性に目を光らせていた。都のことも最初は警戒していたが、今ではすっかり気を許し、喜んでゲームディスクを横流ししている。

複数人のサークルで同人誌や同人ゲームなどを発表しつつ、個人ではライトノベルの挿絵の仕事が決まっている、駆け出しイラストレーターでもある。

綾美とは地元イベントで知り合い、その後、合同本などを発行してきた戦友であり、悩みを共有できる仲間でもあり、心を許せる恋人でもある。

「だ、大樹……? お前、どうして……」

 綾美の隣に腰かけた大樹君を、薫と私の見開いた瞳が見つめる。

 唐突に現れた彼は、したり顔でこう答えた。

「里帰りですが、何か?」


 ……。


 2人して口をつぐんでしまった。先に我に返った薫が言葉を続ける。

「いや、そうかもしれないけど、一言くらい連絡してくれても……」

「驚かせたかったんだよ。その方が面白いだろ?」

 まぁ、彼に悪気はないのだから、こちらが怒るのも筋違いであるような気はするけど……でも。

 私は綾美に疑いの眼差しを向けた。この二人が私たちの前に揃うのは、基本的にトラブルを運んでくる時なのだから。

 そんな私の視線を綾美は華麗に受け流すと、優香さんを意味深な視線で見やる。

「優香、この二人ならオッケーでしょ?」

「は、はい! 素晴らしいですさすがです綾美さん!」

 な、何事?

 完全に私たちを無視した状況で話が進んでいるような気がするのだが……。綾美は悠然とした顔で微笑み、優香さんは目を輝かせ、大樹君は薫が注文したサイコロステーキをつまんで……。

「なぁ、都……俺って今日、煉雀さんから色々質問されるんじゃないのか?」

「そのはずだけど……」

 私たちの囁きに答えてくれたのは、いつの間にかドリアを食べている綾美だった。

「ねぇ、新谷君。新谷君もあのゲームは楽しみにしてるわよね?」

「へ? あ、ああ……そりゃあ、勿論」

「だったら、ゲームのクオリティを上げるためだったら……協力してくれるわよねぇ?」

「ゲームのクオリティを上げるため……?」

 意味が分からない。首をかしげる薫に、綾美は一度、大樹君と目くばせしてから、

「薫君は知ってると思うけど……優香、ゲームの原画をやるのは初めてなのよね。今までもそういう話はあったんだけど、自信がないからって断ってたの。ね?」

 不意に話をふられた優香さんは、首を思いっきり横に振る。

「だ、だって綾美さん! 私なんてまだまだです! 今回のお話だって、綾美さんからのお願いだったから……!」

「まだまだ? コミケでたまに壁側サークルのあんたがまだまだだったら、あたしはどうすればいいのよ」

「そ、それは、たまたま、運がよくて……」

「……まぁいいわ。とにかく、メインの原画は彼女がやるけど、あたしもサブキャラや補助をやることになってるの。だから、いいものを作りたいのはあたしも同じ」

 へぇ、あの綾美が、ねぇ……少し意外だった。

 だって彼女もまた、「自分の創作時間が取られる」という理由で、基本的に長期にわたるゲーム関係の仕事は受けていないから。

 いくら商業的に成功する可能性が高い作品とはいえ、それだけ優香さんに期待し、彼女に協力したいってことなのかな。

 大樹君が召集されたのも、その辺に理由があるのかもしれない。

 私がそんなことを考えていると、綾美がビシッと薫にフォークを向ける。

「だから、単刀直入に言っちゃうと……新谷君、モデルになってほしいわけ」

「モデル?」

「まぁ、正しく言えばデッサン対象。ここにいる大樹と適切に絡んでるところを、デッサンさせてもらいたいわけ」


 ……へ?


 思わず目が点になる。

 閉口した私と薫へ、綾美が親切に分かりやすく言い変えてくれた。

「要するに、あたしたちのために大樹とベッドの上で絡み合ってほしいわけ♪」

 なるほどそれだと理解しやすい……。

「って、理解できるわけないでしょーがっ!!」

 反射的に受け入れそうになった自分を追いやり、私は何を考えているか分からない親友を精一杯睨んだ。

「綾美……本気なの?」

 そんな私に、彼女は至極当然と言わんばかりのドヤ顔で首肯する。

「当然でしょ。あと、言っとくけど都の意思は尊重されないからね。最終的に決めるのは新谷君だし」

「わ、分かってるよ!」

 綾美から冷静に言い返され、今度は薫を見つめる。

 この申し出にはさすがの薫も戸惑っているようで……先ほどから大樹君と綾美を交互に見つめては、苦笑いを浮かべるだけだった。

 そんな親友へ、大樹君は笑顔でこう言い放つ。

「薫……俺と、やらないか?」

「へぇぁっ!?」

 大樹君、それ、言ってみたかっただけだよね……あと薫、動揺しすぎじゃない?

 私の冷めた目に気付かないふりをしている大樹君が、笑顔で言葉を続けた。

「おいおい、真に受けるなって。デッサンモデルだぞ? お前だって俺が綾にさくらんぼキッスで爆発だも~ん……ってことくらい知ってるだろ?」

「は、はぁ……それは……」

 まぁ、薫に電波ソングは分からないよなー……元々ギャルゲーの歌だし。

 鼻で笑う大樹君に、薫へ結論を求める綾美。そして……。

「も、申し訳ありません新谷さん……私が未熟だから、ご迷惑をおかけしてしまって!!」

 いまにもテーブルへ額をこすりつけて謝りそうな勢いの優香さん。

 答えを探して途方に暮れている薫へ、綾美が決定的な一言を投下する。


「ねぇ優香、もしも新谷君が協力してくれたら、イラストなんてフルカラーで何枚でも描くわよねぇ?」


 ぴくり。

 薫が全身で反応した。


「当然です! 新谷さんのリクエストになら、何度でも、何枚でも、描かせていただきます!!」


 ぴくり。

 薫が分かりやすく揺れている。


「イラストなんてものじゃないわ。同人誌も無料で提供するわよねぇ?」


 ぴくり。

 薫がすっげー迷ってる。


「そ、その程度でよろしいのですか? 喜んで提供させていただきます!!」


 ぴくり。

 薫が、傾いている。

 だけど……様子を横目で見ながら、私は嘆息するしかなかった。

 この勝負、決まったな、と。

「綾美さん……」

 黙っていた薫が意を決して彼女の名を呼ぶと、その瞳を……そりゃーもう幸せそうにキラキラさせて、

「是非、協力させてください!」

 彼の力強い声に、綾美は満足そうにほほ笑むのだった。


 結局その後、具体的な打ち合わせを済ませて……5人で店を出たのは、午後10時を回った頃だった。

 双方の都合を調整した結果、とりあえず1回目は明後日の日曜日夕方、薫のバイトが終わってから彼の部屋で行われることに。

 実家に帰る大樹君と、綾美の家に行く綾美と優香さんとは、駅の改札前で別れることになる。

「では、新谷さん……どうぞ、よろしくお願い致します」

 最後まで45度に体を曲げでお辞儀をしてくれた彼女に、薫も「こ、こちらこそ」と条件反射で頭を下げた。

 そして次に、私を真っ直ぐに見据えて、

「沢城さんにも、大変ご迷惑をおかけします。申し訳ありません」

 そしてそのまま深々と頭を――

「いや、頭下げなくていいですっ! 私、何も協力出来ませんからっ!!」

 端から見ると、彼女に謝らせてるみたいだし!

 首尾一貫、このメンバーの中でも異彩を放ちまくっていた彼女は……最後まで低姿勢のまま、改札の向こうへ消えていった。

 その後ろ姿を見送って、私たちも帰路につく。

 駅のバスターミナルでバスを待ちながら……無言で、隣にいる薫を見上げた。

 週末なので人もそれなりに流れている。私達と同じ方向へ向かうのは若い学生らしき人が多いけど……そういえば、去年はこうして並んで立ってるだけで、周囲からヒソヒソ噂されたっけ。

 今はさすがに、そこまで露骨なものは感じないけど……まぁ、私もそういうのに気をまわさなくなったからね。言いたい人は勝手に言ってれば、って感じだし。

 バスの到着まではあと10分ちょっと。ここが起点だから遅れることはないと思うけど……ビル風が少し肌寒いので、そのまま一歩、彼に近づいてみる。

 結局今日は、スケッチブックを渡さなかった。いや、今後、渡す必要はないのかもしれない。いくらでもイラストを描いてくれるって約束したから、彼女は絶対に薫の願いを聞き続けてくれるだろうし。

 まぁ、薫が満足なら……私はそれでいいんだけど、ね。

 何となく寂しいのは、私が今回は完全に蚊帳の外だから。薫と大樹君の話がまとまってから、薫と優香さんは終始、私の知らない話題で盛り上がっていた。

 私が知ってるのは西又さんや奈須さんであり、この方々の代表作を語れって言われたら対応できるけど……氷栗優さん、つえだゆずさんの代表作をさぁ語れと言われても、困る。CARNELIANさんもギャルゲーのソフトしか分からないし……某有名ソフトがPSPに移植されたことも、Alice Blueの活動再開を願う熱い思いも、一緒になって熱く語れない。

「新谷さんは裸バスケってやったことありますか? 私、まだやったことがなくて、綾美さんんには苦笑いで止められているんですけど」

 優香さんが何の躊躇いもなくそんな話題を振れば、

「あぁ、あれは……とりあえず主題歌を聞いて悩んでる。内容も結構ぶっ飛んでるみたいだし、俺はあんまりゲームはプレイしてないから」

 薫はダイレクトに返答出来る。

「主題歌、聞いてしまったのですか?」

「気がついたら口ずさんでたりして……俺、自分でもたまにヤバいと思ってるんだけどね」

「あれは完全に出オチですよね。発売当初は某巨大掲示板でもお祭り状態だったそうです」

「まぁ、そりゃあそうだろうな……分岐も滅茶苦茶多くて大変みたいだし」

 そして、会話が成立している。ように見える。

「……」

 私は薫の隣で、ドリンクバーを飲みながら……気付かれないように息をつくことしかできない。

 だって、私が知ってるのは「顔のない月」やアリスソフトだもん……。

 綾美はそんな私に気づきつつ、あえて、今日はフォローしてくれなかった。それは単に、話が盛り上がっていた優香さんと薫を気遣ってのことだと思うけど……何となく、あの場に私がいる意味、なかったような気がする。

 と、私が一人でそんなことを考えていると……。

「あの、さ……都」

 不意に私の名前を呼んだ薫が、私にきまりの悪そうな顔を向けるではないか。そして。

「今日、退屈だっただろ? 気が回らなくてゴメン」

「へ!? あ、いいよそんなの! 薫だって、あれだけ話せる相手なら楽しくなっちゃってもしょうがないもん!」

 慌てて首を振った。この程度のこと、私がいままで薫に対してしてきたことに比べれば……私もギャルゲーに関する話が通じる相手には、見境なく話し込んでしまう傾向があるから。それ以外でもずっと、薫に我慢してもらってたのに。

 私が卑屈になればなるほど、彼は気を遣ってしまう。だから、そういう態度を見せないように、私が注意しなくちゃいけなかったのに。

 どんな形であれ、薫は憧れの人と楽しく話が出来たのだ。そんな楽しい記憶を、私のせいで半減させたくはない。

 私もゲームが好きだから、その辺はちゃんとわきまえてるつもりだよ、薫。

「だって、好きなものは好きだからしょうがないんだよ。私だって、目の前に……例えば、いとうのいぢさんがいたら絶対ああなっちゃうもん」

 そう、私はBLを知らないから、話に参加することは出来ないけど……でも、ね。

「嬉しそうに話してる薫を見てると、私まで嬉しくなっちゃったから。あーぁ、憧れの人とお近づきになった薫が羨ましいなー、美人で清楚な大和撫子は私の大好物なのにっ」

 こう思ってる私も事実。気にしないで、そういう思いを込めて明るく言ってみたのだが。

「お、俺は都の方が……!」

 言いかけた薫が真っ赤になって口をつぐんだ。

 おやおや?

「私の方が、何?」

「……何でもない!」

 ふいと視線をそらした薫が、すごく可愛くて。

 私はそっと彼の手を握った。彼が何も言わずに握り返してくれた時、バスが滑り込んでくる。

 そのまま歩きだそうと一歩前に踏み出した瞬間、

「俺は、都が大好物だから」

「へっ!?」

 耳元で囁かれた言葉は完全な不意打ち、喉の奥から変な声が出た。

 薫はそのまま私を引っ張ってバスに乗り込むと、最後尾に並んで腰かけるよう誘導して、そのまま並んで腰を下ろす。

「じゃあ都……起こしてね」

「え、あ、ちょっ……!」

 私にもたれかかって軽く寝息を……って、オイオイっ!!

「……かおるー?……」

 私の声は届かないまま、バスはエンジン音と共に夜の街へ滑り出した。

 まぁ、一番後ろだし、周囲はそれぞれの話題で忙しそうだから、別にいいけど……いいけどさ。

 意外だった。それが、私の正直な感想。

「……緊張の糸でも、切れたのかな」

 この話を聞いてから、彼のテンションがずっと異常に高かったからなぁ。

 しかも相手は年下でやたら腰が低い美少女。気を遣っていたのか、話が通じることでテンションがふりきれて疲れてしまったのか……どちらの比重が重いのか、私には分からないけど。

 でも、まぁ……。

「……ま、いっか」

 薫がこうやって、自分の部屋以外の所でくっついてくれるのは、私にとっても大きな変化だし。

 目的地までの約20分間、普段とは違うドキドキで……私はなすすべもなく、固まっていたのだった。

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