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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第04話 異世界転生

第01節 二人の旅路phase-1〔4/4〕

 ウィルマー氏、否、入間氏の手記を読み、涙を(こら)えることが出来なかった。


 正直、俺は前世の末期(まつご)(おぼ)えていない。その所為(せい)かもしれないが、前世の自分の人生に未練はない。

 しかし、ある日いきなり別の世界に召喚()ばれたら。

 俺は、平静でいられる自信などない。


 けれど、おそらくは紆余(うよ)曲折(きょくせつ)はあったのだろうが、入間氏はこの世界で、その人生を(まっと)うした。その血を残し、その名を町の名として後世に残した。とても真似(まね)出来ない、尊敬に(あたい)する()(ざま)だったと確信を持てる。


「ご主人様?」


 シェイラがこちらを見ている。女将(おかみ)も、何か問いたげにこちらを見ている。

 女将はおそらく入間氏の縁者だろう。600年も経っているのなら、もしかしたら直系ではないかもしれないが、全くの無関係とも言えないだろう。ならこの二人には、事情を説明しておく必要がある。


「シェイラ。俺には、生まれる前の記憶があるんだ」

「え?」

「此の世界に生まれる前、俺は別の世界で生きていた。


 その世界には魔力はなく、俺も何の力もないただの一市民だった。

 けどこの世界より色々な面で進んでいて、ただの一市民に過ぎない前世の俺でさえ、色々なことを学べたんだ。


 だから、俺はこの世界の人たちが知らないような様々なことを、生まれた時から知っている。

 それは、俺が(すぐ)れているからじゃない。ただ単に、一種のズル(チート)なんだ。


 だから、あまりそれを使うべきじゃないと思っていた。

 けど、この世界を知るにつれ、世界の知識や技術に色々不思議が見えて来たんだ。

 以前ちょっと(こぼ)しただろう? 麦酒の蒸留酒に(オーク)樽を使うのは有り得ない、って。

 あれは、俺の前世の世界の知識に(もと)づけば不思議でも何でもない。それなりの根拠のある理由だからだ。

 だけど、その根拠のないこの世界では、その知識は『有り得ない』。

 そういった知識は他にも多くあるんだ。


 そして、この世界の歴史はカナン帝国期に大きく変動している。それ以前の歴史とそれ以降の歴史が明確に断絶しているんだ。

 だから、カナン帝国の歴史を調べれば、その謎が解けると思っていた。

 その謎の中心には、俺のような転生者がいると思っていたんだ。


 ところが、ここでいきなり入間氏のことを知った。転生者どころか転移者だった。

 このことは、俺が前世に生きた世界とこの世界の、明確な(つなが)がりを意味している。

 俺と入間氏。700年の時を(へだ)てた転生者と転移者が、同じ世界に関わるのなら、それは()の世界と()の世界に何らかの(きずな)があるということだ。


 そして、彼の世界と関わりがあるのが俺と入間氏だけとは思えない。入間氏に酒造りの知識があったとは思えないしね。

 だから歴史を学びたい。此の世界を知る為に。そして俺と入間氏以外の、彼の世界を知る者が、どのように()きてどのようにその(せい)を全うしたのかを知りたいんだ」


「ご主人様は、元の世界に帰りたいのですか?」

「俺は此の世界に生まれて、この世界で生きている。彼の世界はあくまで、生まれる前の俺が生きて、その生を全うした世界だ。帰りたい、(いや)、彼の世界に行きたいと考えるのは、前世の俺の人生そのものに対する冒涜(ぼうとく)だよ」


◇◆◇ ◆◇◆


 その後俺は、シェイラとともに露天の温泉に(つか)かった。


「なんか(くさ)い、です」

「硫黄の(にお)いだな。ほら、ここに黄色い粉があるだろう? これが硫黄だ。

 硫黄が火の精霊と水の精霊に翻弄(ほんろう)されると、こんなひどい臭いになるんだ。


 多すぎる硫黄は確かに体に毒だ。

 だけど、身体の中の毒素にとっても毒なんだ。

 遠い国の言葉、(いや)、彼の世界の言葉で、『毒を(もっ)て毒を制す』というんだけど、この硫黄が体の中の毒を打ち消してくれるんだ」


「……硫黄の効能より、ご主人様が良く言う『遠い国の言葉』の意味が分かったことの方が、何だか嬉しいです」

「そうだね。今まで色々隠していたから。けど、これ以上隠し事はないよ」

「嬉しいです」


 俺は女将に「未成年だから酒はいらない」といったけど、入間氏の話を聞いて無性(むしょう)()みたくなったので、温泉に地酒を持ってきてもらった。やはり、温泉に浸かりながら酒を呑むという文化は、受け継がれていたようだ。残念ながら日本酒ではなく果実酒の蒸留酒(ブランデー)だったが。


◇◆◇ ◆◇◆


 藺草(いぐさ)(たたみ)の上に()いた布団(ふとん)という、俺にとっては最上級の贅沢(ぜいたく)堪能(たんのう)しながら夜を明かし、温泉と風景、そして食事と会話という、これ以上ない優雅な時間をシェイラと共に過ごし、しかし旅立ちの予定はすぐに迫る。


 旅立ち(チェックアウト)の朝。


 為替(かわせ)の片隅に「弐」という漢字を連想させる記号を見つけ、ここにも入間氏の足跡(そくせき)があると感慨に(ふけ)りながら、帳場(ちょうば)で会計を済ませている時。

 女将が、(俺にとっては(なつ)かしいどころではない)彼の世界の(かばん)を持ってきた。


「どうぞ、これをお持ちください」

「聞くまでもないけど、これは?」

始祖しそ様がお持ちだったものだと伝わっております。〔状態保存〕の魔法で、当時と変わらない状態の(はず)です。

 貴方様に差し上げます。始祖様も、それを望んでいると思います」


 中を見ると、ノートに専門書、ノートPC(パソコン)とタブレットPC、スマホと電卓とその他文房具類、ソーラー充電式多機能テスターや半田(はんだ)(ごて)、その他(いく)つかの機械製品が入っていた。

 この世界では使(つかい)(みち)の無い物。

 また仮に使途があったとしても、電源を確保出来ない以上いつか使えなくなる物。


 けれど、明確に彼の世界を思い起こす物。

 それらを受け取り、俺は再び旅路に()いた。


◇◆◇ ◆◇◆


 ウィルマーを()ってから、更に(しばら)くの日数が経過し。

 山を(くだ)った頃には、(こよみ)は既に夏。


 馬を幌馬車(キャラバン)に繋ぎ、馬車の旅を楽しむこと更に数日。

 眼前に、城壁で囲まれた巨大な都市が見えてきた。

(2,610文字:2015/11/14初稿 2016/05/31投稿予約 2016/07/05 03:00掲載予定)

・ 「硫黄は無臭だ」というツッコミは(以下略)

・ お酒は二十歳になってから。

・ 入間史郎。某県某市の老舗旅館の亭主の長男として生まれる。

 幼少時より旅館を継ぐ為接客や経営を学ぶも、本人の志望と異なることから度々両親と衝突していた。

 平成●年、上京。電気工学系の大学に一浪して進学するも、授業内容についていけず、二留の末退学し故郷へ帰る。

 以来実家の旅館でアルバイトをしていたが、ある日業務時間中に失踪。以降消息不明。

 趣味は電子機器弄りとインターネット。Web小説の検索キーワードは〔異世界転生〕〔戦記〕〔俺Tueeee〕。

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