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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第42話 旅立ち

第07節 年末年始~旅支度~〔5/5〕

◆◇◆ ◇◆◇


 アレクたちの旅立ちの準備は着々と進んでいる。


 寒くなる前に、魔猪(ボア)魔熊(ベアー)、魔獣化していないイノシシやクマ、ウサギやシカ、野鳥や川魚などを乱獲(らんかく)し、孤児院で熟成し一部は塩漬けや燻製(くんせい)、干し肉処理などをした。

 山菜類や薬草等も収穫出来るだけ収穫し、こちらも生のまま〔無限(インベン)収納(トリー)〕に保存したものと乾燥させたものに分けた。

 三人娘エミリー・スー・ルイスに好評だった“ビタミン(トローチ)”も大量に生産。長期間の旅では欠乏(けつぼう)し易いビタミンを、最低限摂取出来るようにする。勿論(もちろん)、そのままの柑橘(かんきつ)類も〔無限収納〕に放り込んであるが。


 そして名目上、既製服(プレタポルテ)の販路拡大という目的がある以上、偽装(カモフラージュ)の為衣服をある程度は用意する必要がある。

 規格化された服の利点として、何種類かのサイズの服を事前に用意しておくというのがあるが、これは将来シェイラとアレクの着る服、という目的もある。

 アレクの成長期はまだ来ていないようだが、シェイラは(これまで発育不良過ぎたが)すぐにも成長を始めるだろう。なら旅先で着る服に困るかもしれない。

 一応シェイラは、ミリアに服の縫い方・(つくろ)い方を学んでいるが、サイズに合った服があればそれに越したこともないだろう。


 武具の補充と補修(メンテナンス)も行った。

 投げ槍(ジャベリン)(小)は本数を増やし、牛鬼(ミノタウロス)(ほふ)った投げ槍(大)は、アレクの筋力増加に合わせてもう少し重量を増やした。

 また、セマカが持っていた双刃(グレート)大戦斧(アックス)鉾槍(ハルバード)に鍛え直し、ミノタウロスが持っていた戦斧はそのまま()ぎ直して重質量兵器として使用する。

 防具も補修し、シェイラ用の物も新たに(あつら)えた。シェイラの(ライト)(アーマー)は動き易さ優先で選定した為、身体を(おお)う面積は狭い。その代わりその鎧の胸元に、一つの魔石を埋め込んだ。それは、シェイラ自身の体に埋め込まれ、数年かけてシェイラの魔力に馴染(なじ)んだ魔石。おそらくはどんな高級な魔石より、シェイラの助けになるだろう。


 そうこうしているうちに、カナン暦698年が暮れてゆき、新たな年を迎えることになる。


◇◆◇ ◆◇◆


 カナン暦699年正月(がんじつ)

 孤児院では恒例(といっても二度目)のBBQ(バーベキュー)パーティーが行われた。


 今回はミノタウロスの肉といった目玉商品はなかったが、冒険者ギルドや急遽(きゅうきょ)参加を申し出てくれた町長からの差し入れもあり、充分豪華に(もよお)すことが出来た。

 一般の冒険者からの参加もあった。先日のシェイラの昇格試験の時に手助けをしてくれた銅札(Cランク)冒険者旅団(パーティ)【暁の成功者】の一同。

 あのあと状況がどんどん変わっていき、一般の冒険者には話せない秘密も増えてしまった為、一緒に酒を飲むという約束は反故(ほご)になってしまっていた。一応ギルド経由でブッシュミルズ産の麦酒の(スコッチ)蒸留酒(ウィスキー)を一(びん)贈ってあるが、それでも彼らとゆっくり話す時間が取れるのは、あれ以来である。

 「孤児院では騒げない」といっていた彼らが、この新年の(パーティー)に来てくれたことが、とても嬉しかった。


 今年の宴の主役は、ミリアである。

 今年で12歳になったミリアは、これから奉公先を探すことになるのだが、その所作(しょさ)を見た町長が、充分貴族に紹介するに足ると(みずか)ら後見人を買って出た。孤児が貴族付きの侍女(メイド)になるなど物語の中でもそうそう見られない。もしかしたら孤児院で一番の出世頭になるかも、と周りの見る目が変わったものである。


 あの日言ったように、ミリアがお姫様になる日もそう遠い話ではないかもしれない。


◆◇◆ ◇◆◇


 翌、既朔(ふつか)

 この年の加護の儀式に参加する町の子らは、皆同じ意匠(デザイン)の服を着ていた。

 勿論(もちろん)、生地が違っていたりリボンや飾り石の質やセンスで差は付くものの、デザインは全て同じ。ミリアがデザインしたものだった。つまり、ここでもミリアが影の主役だったのである。

 この後、フェルマール王国では(そして王国が(ほろ)んだ後も)、この意匠は加護の儀式の制式デザインとして周知されるようになる。


 そしてデザインが同じだと、子供たちの肌や髪の(つや)の違いがより明瞭(めいりょう)にわかる。毎日風呂に入り、石鹸で体を洗っている孤児院の子とそうでない市民の子とでは、明らかに違いがあったのだ。

 それを見たシンディは、公衆浴場建設の為本格的に動き出すことになる。


 なお、この頃にはもう、街の人は誰も「孤児院(ごと)き」とは言わなくなっている。


 付言(ふげん)すれば、今年の加護の儀式に参加した孤児院の子らも、全員加護を(それもそれぞれが望んだ精霊の加護を)得られた。


◇◆◇ ◆◇◆


 そして、三日。

 昨夜降った雪が真白(まっしろ)に街を染め、人々は寒さに(こご)えて家の中に(こも)っているような、そんな朝。

 俺たちは、ハティスの街を旅立つ。


 馬車は二頭の馬が繋がれ、荷物は積み込まれて街の門に用意されている。

 そしてそこには、思った以上に多くの人たちが、俺たちを見送りに来てくれていた。


 孤児院の子らと職員一同、冒険者・商人・鍛冶師の各ギルドの幹部たち、町長と街の役人、それから個人的に付き合いのあった街の店の人たち、冒険者たち、商人たち、鍛冶師たち、炭焼き職人たち、林業関係者たち。

 たった二年の生活で、これだけ多くの人たちと関わったんだと、そしてこれだけ多くの人たちが見送りに来てくれるような縁を(つむ)ぐことが出来たんだと、俺は静かに感動していた。


 ここにいるのが前世の俺なら、これだけ多くの人たちが見送りに来てくれただろうか?

 とても自信がない。

 けど。

 ならこの人数は、間違いなく俺がこの世界で(きざ)んで来た足跡(あしあと)に他ならない。

 生まれ変わった【俺】ではなく、この世界に生きている俺の、生きた(あかし)


 なら、彼らの笑顔を誇りに思おう。


「じゃあ、行ってきます」

(2,594文字:第二章完:2015/11/12初稿 2016/05/02投稿予約 2016/06/27 03:00掲載予定)

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