第39話 為替
第07節 年末年始~旅支度~〔2/5〕
翌日。俺とシェイラは、商人ギルドを訪ねた。
「いらっしゃい、アレクさん、シェイラさん。お待ちしていましたよ」
「早速ですが、幾つか話を聞かせてください」
「わかりました。まずは何についてお話しすれば宜しいですか?」
「そうですね、では為替についてを」
「為替というのは、一言でいうと商人ギルドの決済サービスです。
為替を使うことで、わざわざ現金を使う必要がなくなります。
またこれは、一つの国家間に限定されるものではなく、商人ギルドのある国ならどこの支部でも使用出来るという特長があります」
「でも、条件とか限度額とかがあるんでしょう?」
「おっしゃる通りです。まずはギルドに預金している人が対象です。
そして、登録しているギルドの支部の信用レートと商人自身のレートで、上限額が決まります。
たとえば、このハティスの商人ギルドの信用ランクはBで、レートは0.8となります。
そしてアレクさんの現在の商人ランクはCですので、預金額の0.56倍まで為替を切ることが出来ます。
もっとも、アレクさんはBランクへの昇格が決まっていますから、0.64倍になります」
「決まってる、んですか」
「はい決まってます。町長の指示によるものですが、新しい産業を創出した、というだけで理由としては充分です。商人ランクの昇格は、本来夏の一の月と決まっていますが、それこそ今回は例外ですね。
話を戻します。
現金貨幣は、その国の中でしか通用しません。フェルマールの通貨を二重王国で使うことは出来ないので、手数料を払って二重王国の通貨に両替する必要があります。
しかし、為替は額面そのまま使えます。
ちなみに、為替の通貨単位は「カーン」と言い、金貨一枚が1Cです。なお、銅貨一枚は1CCで、10,000CCが1Cとなります」
「カーンと金貨の交換は、フェルマールのレートですか?」
「否。どこの国の金貨でも、金貨1枚が1Cです」
「それじゃぁ為替差益で持ち金を増やすことも出来ますね」
「はい出来ます。あまり大きな声では言えませんが、それが商人ギルドの最大の収入源ですから」
「要するに、預金して為替を使えば手数料なしで決済出来るけど、決済出来る相手が限られるし、俺の場合は預金額の6割程度までしか使えない。
現金で決済すると両替手数料がかかる。ということですか」
「その通りです。ですので両方お持ちいただくことをお勧めします。勿論、現地の商人ギルドで為替を現金化することも出来ますが」
「了解しました。今手持ちは、金貨1,000枚になるから、200枚を残して預金して為替を発行してもらおう」
「そうしますと、登録時の保証金が100枚と、先日冒険者ギルドから800枚振り込まれていますので、預金は1,700枚、為替の上限は1,088Cとなります」
「そうですね。ところで、上限額を超えて為替の決済をしたら、どうなるんですか?」
「その為に預金全額、という設定は出来ないんです。また為替には商人ギルド共通の符牒が記されておりますので、おおよその上限額がわかるようになっています。
ですのであまりに高額な決済を求められた場合、即時の決済が出来なくなります。
また為替上限以上の決済を行った商人に対しては、それが判明し次第口座凍結処分が下され、それが悪質であれば預金全額をギルドが召し上げることになります」
「ふぅん、考えているんだな」
「それが商売ですから」
「ところで、先日押収した白紙為替はどうなった?」
「はい。あの為替は、犯罪利用目的であることが確認出来ましたから、ギルドの内規により口座が凍結されました。
口座に預金されていた金額は5,800Cになりますが、このうち3分の2はギルドが接収し、残り3分の1がアレクさんの取り分になります」
「……現金とは、随分扱いが違うんだな」
「為替そのものは、ただの紙切れです。
ただの紙切れに通貨としての価値を付加しているのは、商人ギルドの信用です。
その為、ルール違反を犯した相手の口座に対する対応は、ギルドが独自の規定に基づいて処理することになるのです。
冒険者は、斃した相手の持ち物を自分の物とすることが許されます。
が、この場合アレクさんが所有権を主張出来るのは、『ただの紙切れ』である為替そのものであり、預金債権ではありません。
ですので預金額の3分の1、というのは、アレクさんが口座を持つ商人でもあるからの特例に近いのです。
またそういう事情から、この3分の1に相当する1,933Cは、現金ではなくそのままアレクさんの口座に振り込まれます」
「了解した。不満はないよ」
「ご理解いただき感謝致します」
「後は、馬車だな」
「先日押収された馬車、ですか?」
「あぁ。俺とシェイラが二人で旅をするのに、20人以上が乗れる四頭立ての四輪馬車は大きすぎる。二頭立ての幌馬車で充分だ」
「ではおひとつアドバイスを。
長距離長日程の旅をする際、馬に愛着を持ち過ぎない方が良いです。
騎士であれば命を預ける馬に愛着を持つのは当然でしょうが、商人にとって馬はどこまでも道具に過ぎません。
街に入ったら馬車は邪魔になりますから、街に入ったら馬車と馬は売る、街を出るときに新たに購入する、という具合に割り切って考えた方が良いです。
馬そのものは、非常時には潰して食糧とすることも考えなければなりませんからね。
それに、アレクさんは独自の新技術を馬車に盛り込むつもりかもしれませんが、馬車が第三者に鹵獲されたときのことを考えたら、いくらでも買い替えの利く物の方が良いでしょう」
「そういう発想はなかったな。新しい家族みたいなつもりでいたけど、逆に割り切った方が馬にとっても幸せか」
「馬の幸せは考えたことはありませんでしたけど、確かに家族だと思っている相手に食べられたり、いつまでも厩舎に繋がれたりすることを考えれば、ただの道具と思った方が良いでしょうね」
「い……言われてみれば。確かにそうだ。
けど、馬車本体の方は、ちょっと考えていることがあるから。
そういう盗難対策まで含めてね。
後は鍛冶師ギルドの方にも協力を求めて、色々改造しようと思う」
「かしこまりました。では取り敢えず、今の馬車はこちらで引き取らせていただきます」
「出立までの世話を考えると、その方が良いね。というか、買い換えってそういうことか」
「その通りです」
そしてその後2~3雑談をして、俺たちは商人ギルドを後にした。
(2,710文字:2015/11/11初稿 2016/05/02投稿予約 2016/06/21 03:00掲載 2016/10/11脱字修正)
・ 勿論インフレーションを起こした国家の貨幣とカーンの両替に関しては、一定のレート補正がかかります。




