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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第31話 昇格試験の後始末

第05節 夏から秋~てがかり~〔6/6〕

 街に戻った後、俺たちは馬車ごと後始末を冒険者ギルドに委ね、孤児院に帰って仮眠を取った。

 そして夕暮れ、改めてギルドに(おもむ)き、話をすることになった。

 ギルド側の参加者は、ギルドマスターとオードリーさん、そしてハインツさんである。


 まず口火を切ったのは、オードリーさん。


「最初に、シェイラさんの昇格試験の結果。

 言うまでもなく合格よ。これからも頑張ってね」

「有り難うございます」


 ギルドマスターにバトンが回って。


(とら)われていた女性たちの件だ。

 今日連れてこられた9人は奴隷契約が成立していたから、町長立ち合いの(もと)早急に契約解除の手続きを取る。お前さんが奴隷商を殺さずに確保してくれていたから、解除はそれほど難しくないという話だ。

 女性たちは全員、その後健康診断を受けたうえで、それぞれの生活に戻ることになる。

 故郷に帰る者もいるが、他は皆この街に残る。

 その中で4人ほどは、孤児院の職員として雇用してもらうことになった」

「そうか」


 それからハインツさんが口を開く。


押収(おうしゅう)物の件です。

 ()()えず現金と宝石等で合計金貨800枚相当。

 その他糧秣(りょうまつ)と生活用品などの量を見ると、30人程度の輸送を想定しているようですね。

 あとは予備の武具等。これらは全て、アレクさんたちの取り分です」

「了解。面倒臭いから冒険者ギルドの方で宝石類は換金してくれないか?」


 ここでまたオードリーさんが口を挟んだ。


「アレク君なら商人ギルドで換金した方が安く上がるんじゃない?」

「こっちで換金すれば、手数料はギルドの収入でしょう? お(すそ)分け。

 それから、金貨10枚ずつを【暁の成功者】のメンバーに渡してください。

 それから残った分を、商人ギルドの俺の口座に」

「わかったわ。


 あとね、白紙の為替(かわせ)もあったの」

「えっと、それは?」

「外国の商人ギルドでお金を引き出すときに使うものよ。詳しいことは向こうで聞いてくれると有り難いわ」

「わかりました。ではそれが盗賊団『悪神(ザコルス)の使徒』の持ち物であったと一筆(したた)めておいてください」

「そうね、そうしないとアレク君が泥棒になっちゃうからね」


 再び発言者はギルマスに戻り。


「最後に盗賊団『悪神(ザコルス)の使徒』の件。

 頭目以下全員、庁舎に連れていかれて厳しい取り調べを受けている(はず)だ。規模が大きいとはいえただの人攫いだから、10年程度の強制労働といったところだろうがね」

「その件で、報告出来るネタがある。連中をはじめとする国際犯罪組織の活動規模は、これまで俺たちが思っていた以上に広く、それもこの領内に広がっている可能性がある」

「どういうことだ?」

「この領は、越境時の審査がザルだから、(すね)(きず)持つ連中にとっては走り易い笹原(ささはら)なんだそうだ」

「ほう」

「加えて町の自治の名のもとに、町の人間の犯罪は領兵じゃなく町の自警団の領分になるだろう? なら内部犯の気配を見せておけば、それだけで最短三日は時間を稼げる」

「今回はタイミング良くギルドが依頼(クエスト)を発行出来たから、追い付けたということ、か……」

「まぁどう考えても、『領民を信じる』という美辞(びじ)麗句(れいく)の下、領主の怠慢(たいまん)を通り越した責任放棄以外の何物でもないだろうけどね」

「そういうことを……、いや、まあ、その、だ、なるべく人前で言わないでほしいがな」

「気を付けよう。


 ともかくだ。他の街でも人攫いに走っている可能性は少なくない」

「それに関してはこちらも同意見だ。

 馬車の糧秣や金貨の量を考えても、あと1~2箇所回る予定だったのは、間違いないだろう。

 可能性としては、レインの村と、リュースデイルの町だ」

「リュースデイル……、国境の町か」

「そうだ。今のお前の話を加味して考えると、関所の領兵も悪神の縁者の可能性もある」


「――あの、ご主人様」

「どうした、シェイラ?」

「その、リュースデイルやその近くで、人攫いが起こる可能性があるんですか?」

「そうだ」

「では、私にリュースデイルまで行かせてください」


 そういえば、この国の獣人の集落は南方国境に集中していると聞いたことがある。なら、シェイラの故郷の集落は……。


「ギルドマスター。確か、リュースデイルにはハティスの冒険者ギルドの出張所があったよな?」

「ああ。今から早馬を飛ばせば、5日で着くな」

「それじゃぁ遅い。シェイラが全力で走れば、3日で着く」

「おい……」


「じゃぁシェイラ、命令だ。

 出発は明日。ギルドマスターの書状を持参すること。

 書状の内容は、シェイラの行動の自由を保証することと、シェイラの要請で職員を動かす為のもの」


「どういうことだ?」

「出張所が既に悪神の使徒の支配下にある可能性もあります。だからシェイラは到着を報告するのは通例の通りだけど、町を訪れた目的などを正直に話す訳にはいきません。

 一方くだらない理由でシェイラの行動を掣肘(せいちゅう)されても困ります。

 一番良いのは、ギルドマスターの特命を受けて秘密裏に調査中、というモノでしょう。

 ……ギルドマスター、良いですね」

「わかった。すぐに用意しよう」


「シェイラも良いな」

「はい、わかりました」

「到着後二日間は、町の中の調査だ。出張所の職員の素行も含め、町の中で(かどわ)かされた女性がいるかどうかなど、可能な限り調べろ。

 二日遅れて、俺も町に入る。そうしたら合流だ」

(かしこ)まりました」


「で、ギルドマスター。リュースデイルに馬車を(まわ)してください。今回押収した馬車で良いでしょう。帰りの足が必要になりますからね。

 何事もなければ、連中の馬車は12日後にリュースデイルに着いた筈です。つまり、シェイラや俺が町に着いた頃には、まだ事件が始まっていない可能性もあります。

 けど早馬なら5日で着く。ハティスでの顛末(てんまつ)を聞いた連中が、ことを早めるなり逃げの一手を打つなりする可能性もあるでしょう。

 今の時点で既に一日浪費していると考えても、シェイラの足なら連中の早馬――いたとしたら、の話だけど――を追い越して1日早く町に入れる。

 この一日の(アドバンテージ)が、最悪の場合でも被害を最小に食い止めることになるかもしれません」


「わかった。すぐに用意しよう」

(2,586文字:2015/11/07初稿 2016/05/02投稿予約 2016/06/05 03:00掲載予定)

【注:「脛に疵持つ連中にとっては走り易い笹原」という台詞は、「脛に疵持てば笹原走らぬ」ということわざ(後ろ暗いことがある人は派手なことが出来ない、という意味)から来ています】

・ 概算ですが、徒歩の旅は時速4km程度で一日6時間歩けます。馬車は徒歩よりやや遅く、それでいながら一日8時間移動出来ます。そして馬は時速18km程度のとき一日4時間程度走れます。(江戸時代のように)駅伝システムを導入していない限り、一日の移動距離はこの程度が上限と想定されます。

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