第29話 悪神の使徒~尋問~
第05節 夏から秋~てがかり~〔4/6〕
シェイラが暴れた後始末をする為、今度は俺が洞窟に入る。
半ば肉片になりながら、それでも多くの盗賊たちはまだ息があった。特に〔治癒魔法〕・〔回復魔法〕で一定の回復をしている者もいたが、部位欠損まで回復出来る癒術士がいなかった所為もあり、行動出来る者は一人もいなかった。
盗賊団の総数23人、うち無傷で捕縛出来た者(俺が捕縛した分)5人。
死亡4人、重傷4人、部位欠損10人(部位欠損は重傷じゃないのか? というツッコミはこの際無視)。
重傷の4人は止めを刺し、残りの10人を引き摺って、洞窟を出た。
着ている服等から判断すると、洞窟の右側の部屋にいた3人の他、1人が側近級のようだ(もう一人、同等クラスの服を着た者がいたが、上半身と下半身が数m単位で泣き別れしていた。シェイラが投げ槍で吹き飛ばしたのだろう)。
その4人を別枠に置き、まず残りの11人から尋問を始めることにした。
「まず、攫った女性たちはその後どうするつもりだった?」
「知らねぇよ」
一つ頷き、シェイラがそいつの首を刎ねた。
「次。同じ質問だ。答えは?」
「……、待ってくれ、俺はまだ死にたく――」
一つ頷き、同じ末路を辿る。
「まだあと13人いるからな。答えたくなければそう言ってくれ」
「待ってくれ、答える。仲間がいるんだ。朝には合流する予定だ」
「ほう。その仲間の人数と、別行動していた理由は?」
「別動隊の総数は500人だ。中には魔法使いもいるし、某国の騎士位を持つ奴もいる。
お前らごときガキどもに後れを取る訳が――」
一つ頷き、いらぬ差出口を挟んだ盗賊の首を刎ねる。
「余計なことは口にしなくて良い。聞かれたことだけ答えろ。
それで、別動隊の人数と、別行動していた理由は?」
「……戦闘要員は5人。運び屋と、〔契約魔法〕を使う奴隷商、その護衛を装った戦闘員だけだ」
「ではさっきの男が言っていた魔法使いとは?」
「あいつのでまかせだ。奴隷商は〔契約魔法〕を使うから〔魔法使い〕と言えなくもない」
「次だ。あいつは騎士位を持つ者もいると言っていたが?」
「だからでまかせだ。そんな奴はいない。本当だ」
「騎士は世襲こそ出来ないが、歴とした貴族だ。貴族の名を騙ることは、それ自体が重罪だということは知っているか?」
「俺は騙っていない! 騎士の位を持つ奴なんかはいない」
「ではその位を詐称したことのある奴は?」
「……」
一つ頷き、その男の首が飛ぶ。
「何故殺した。そいつは一切嘘を言っていなかったのに」
「嘘か本当かは俺が判断する。
こいつは答えなかった。だから刎ねた。それだけだ。
あんたもこの盗賊団の頭目なら、ちゃんと答えるように部下を説得するんだな」
そして向き直り、
「そういう訳で、次はあんただ。
五体満足なのは、あとはあんただけだ。
他の連中は、首を刎ねてもただ介錯しただけになるからな。
出来ればお前が答えてほしい。
騎士を騙ったことのある奴は?」
「……親分を含め、何人かいる」
「そうか。ではそいつらはどこの国の騎士だと騙ったんだ?」
「この国と、マキア王国、二重王国と、アザリア教国だ」
「そういえば、お前たちは悪神の使徒を名乗っているんだったっけか?」
「そうだ」
「何故ザコルスだ?」
「……質問の意味がわからない」
「他にも相応しい名前はあったはずだ。この国ではアザリア神を信奉する者は少ない。にもかかわらず、アザリア教に語られる悪神の名を使った理由がわからない」
「それは――」
「待て、それは俺が話す」
「頭目には聞いていない。
……で?」
「俺たちはもともと、アザレア教の影響の大きいスイザリア王国出身者が中心になって組織されているからだ」
「ほう、二重王国出身者が。お前もそうなのか?」
「俺は違う。この国の出身だ」
「どの領だ?」
「地元だ。ベルナンド伯爵領」
「そうか」
一つ頷き、その男の首が――
「止めろ、止めてくれ。
聞きたいことがあれば俺に尋けば良い。全て俺が答える。
だからこれ以上、部下たちを殺さないでくれ」
◇◆◇ ◆◇◆
正直、頭目の気持ちもわかる。
考えてみてほしい。イメージしてほしい。
厨二の少年が大人の男たちに向かって淡々と尋問し、無感動に処刑指示を出し。
見た目小五ロリの美少女が、忌避感も喜びもなく淡々と人の首を刎ねたとしたら。
昆虫の身体を千切って並べるように、作業として人が死ぬ。
そして殺されるのは自分の部下たちであり、その順番の列の中の最後尾に自分も含まれているとなると、もはや絶望しかない。
しかも、こちらは最初から全員殺すつもりでいる。尋問の結果がどうあれ一人も生かして解放するつもりはないのだから、彼らの感じる絶望は真実でもあるのだ。
非理善悪を超越した恐怖が、彼らを襲っているということだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「そこまで言うのなら、あんたに尋こう。
二重王国出身者は多いのか?」
「幹部は全員、スイザリアの出身だ」
「そうか。で、スイザリアの悪神の使徒たちが、なぜこの国で人攫いをする?」
「この国、特にこの領は、悪人に甘い。
普通何処の国・何処の領でも、越境者は犯罪者か難民かと疑われる。だから女子供とて手形無しでは、越境の際には屈辱的ともいえる取り調べを受ける。
しかしこの国では、『人権』だとかいう言葉で、指名手配されていない限り入出国時に足止めされることはない。
その上この領は、領内で犯罪が起きても、犯人が領民である可能性が僅かでもあれば、捜査も断罪も町の自警団レベルに委ねるからな。内部の犯罪組織より俺たち外国人の犯罪者の方が、この領内では活動し易いんだ」
「そうか。幸か不幸か、俺はここの領主と縁がある。その話は伝えておこう」
「……だから、あいつは領内出身というだけで斬られそうになったのか――」
「質問を続けよう。別動隊の件だ。
別動隊とはいつ、どこで合流する予定だ?」
「明日の朝、ここでだ」
「合流後は?」
「女たちと奴隷契約を交わし、女たちを渡す。俺たちは金を受け取る。
別動隊は女たちを連れてモビレアを目指す」
「モビレア……。二重王国の、スイザリア王国の副都か。そこから?」
「そこで別のグループに女たちを委ねる。その先は知らない」
「その別のグループも、『悪神の使徒』のメンバーか?」
「おそらくそうだ。だが俺たちのような下部構成員じゃなく、上に仕える連中の筈だ」
「じゃぁあと二つ尋こう。『悪神の使徒』のトップは、魔法使いか?」
「そうだ」
「その専門は?」
「知らない。だが俺たちが攫った女たちを切り刻んでいるという噂を聞いたことはある」
「……充分だ。どうやらソイツが俺の捜している人間のようだな。
礼として、お前たち全員、生き延びる機会をやろう」
「……」
「シェイラ。すぐに街に戻ってギルドに護送用の馬車を廻すよう要請しろ」
「畏まりました」
「お前たちに生き延びるチャンスをやる。
法の裁きに身を委ね、処刑されずに済むのなら、即ちお前たちはもう死なずに済む」
(2,970文字:2015/11/07初稿 2016/05/02投稿予約 2016/06/01 03:00掲載 2016/10/06誤字修正 2016/10/11誤字修正))
・ 癒術士や神聖魔法使いなどという名称は、この世界では自称です。〔治療魔法〕も〔神聖魔法〕も、誰でも使える【生活魔法】の一種なのですから。それを第三者と比較にならないレベルまで昇華させたとき、その専門職であると自称するのです。




