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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第28話 突入

第05節 夏から秋~てがかり~〔3/6〕

◆◇◆ ◇◆◇


 〔気配(コン)隠蔽(シール)〕は、姿を消す魔法ではない。けれど、例えばふと視線を()らした(すき)(テーブル)の上の(グラス)が一つ増えていてもなかなか気付かないように、その風景に溶け込んで違和感を生じさせないようにすることは出来る。

 洞窟の中では隠れる場所などないから、いっそ堂々と盗賊どもの視界に入り、しかしその注意を()かないように小さく静かに行動する。シェイラはそれだけで騒いでいる盗賊たちをやり過ごし、奥に進むことが出来た。


 そして右側の通路を進む。左に5人がいる部屋、右に3人がいる部屋があるのだが、左の5人が(さら)われた人たち、右の3人が盗賊団の親分とその側近、と考え、まず親分たちを制す(おさえ)ることにしたのである。それは(すなわ)ち一義的に(かどわ)かされた人たちとこの襲撃は無関係であると、盗賊たちに思わせ人質を使っても意味がないと判断させる為でもある。


 3人がいる部屋の前に、見張りが2人。〔投擲(エイミング)〕を使い、この見張りの(ひたい)に鉄串を撃ち込む。無音で事を済ますことがここでは重要。シェイラはまだ他人に対して〔気配隠蔽〕をかけるほど術に熟達していないから、無音で気絶させることは不可能。なので一撃で殺害することを選んだ。


 そして左手に手甲(ハンド・)(クロー)()め、部屋の中に入る。


 手甲鉤は、対人戦闘に於いてかなり万能的な武器と化す。

 「刃」と呼べるのは先端の数cm(センチ)ほどであり、それは内側に湾曲(わんきょく)している為突いて使うことは出来ない上、その刃の小ささで対象を切断することも出来ない。

 しかし、胴を()げば出血を()いしかし即死させず、手足を薙げばその(けん)まで断ち切り、首や顔を薙げば激痛の上で死に至らしめる。

 鉤爪(かぎづめ)として使えば相手が鎧を(まと)っていてもそれを引き剥(ひっぺ)がすことが出来、盾として使えば相手の剣を受け止められる。攻防自在の武器でもある。


 シェイラはこの部屋に入った時点で、〔気配隠蔽〕の魔法を破棄する。騒ぎを起こすことで盗賊どもの意識を虜囚(りょしゅう)から逸らす意味もある。アレクとの訓練で、単純な対人戦闘に関して過信に近い自信を持っている為の選択であった。

 狙いは足。

 手が使えなくなれば戦えなくなるが逃げることは出来る。しかし足が使えなくなれば、戦うことも逃げることも出来なくなる。それでいながら足を守るということに、人はなかなか意識を()かない。せいぜい余計なモノを踏まないように良い靴を()く、といった程度なのだ。またここは盗賊たちのアジトである洞窟の中。そもそも鎧を着ていない。


 苦無(くない)を左と真ん中の男たちの(ひざ)に撃ち込みながら、右の男の足を手甲鉤で薙ぐ。これで終わり。


 男たちの絶叫が響く。それに呼ばれるかの如く洞窟の中が騒然となった。

 足音が近づく。ある程度引き付けてから、アレクから借りた投げ槍(ジャベリン)を低空で投擲(とうてき)する。


 通常、投げ槍は飛距離を得る為にかなり軽く作る。

 しかし、アレクの投げ槍は初めから〔投擲〕や〔穿孔(ペネト)投擲(レイター)〕で撃ち出すことを想定している為、質量兵器として使えるようにかなり重い。

 そんなものを狭い洞窟内通路で撃ち出されては、盗賊たちも対処のしようがない。

 結局、4人がそれに巻き込まれ足を(1人は下半身丸ごと)吹き飛ばされることになった。


 そこに追撃。戦闘用(コンバット・)ナイフと手甲鉤の二刀流で、当たるを幸い薙ぎ払う。

 いきなり降って()いた獰猛(どうもう)殺戮(さつりく)(けもの)に、無傷の盗賊たちは恐慌状態(パニック)(おちい)った。

 それでも理性ある一人は虜囚との関連性を推察し、(さら)った女の一人を盾にする為に走った。

 また逃げることを選択した者もおり、それに()られるように数人が洞窟の出口を目指した。しかしシェイラは逃げた者たちのことは気にしない。彼らはシェイラの“敬愛するご主人様(アレク)”が抑えてくれるだろうから。

 逃げることも人質を取ることも選べなかった盗賊たちは、そこでただシェイラに斬られるのを待つしかなく、ものの数秒で血の池に沈むことになった。


「う……、動くな! この女がどうなっても良いのか?」


 一人の盗賊が女性を連れて戻って来た時。既に無事な盗賊はその男だけになっていた。

 そしてシェイラは、そんな男に対し無感動に、二本の苦無を〔投擲〕した。

 一本は女性に突き付けた刃物を持つ腕を(つらぬ)き、もう一本は足を撃ち抜いた。


 それで、(つい)


「大丈夫ですか?」


 シェイラは女性に声をかけたが、さすがにその凄惨(せいさん)な光景を見て(ついでに返り血で()れたシェイラを見て)、女性の方は声を出すことも出来ずにいた。


「色々と思うところはあると思いますが、皆さんがここから出るのが先決です。

 もし宜しければ皆さんを連れて来てくれませんか?

 私だと怖がらせてしまいそうなので」


 シェイラがそう言うと、ようやく女性は目の前にいる獣人の娘が敵ではないと理解し、(それでも表情は強張(こわば)ったまま)コクコクと(うなず)いて(きびす)を返した。


◆◇◆ ◇◆◇


 シェイラが五人を連れて洞窟を出ると、果たしてアレクは逃走を選んだ4人の盗賊たちを縛って転がしているところだった。


「お疲れ。戦果は?」

「ご覧の通りです。洞窟内にいた盗賊どもは合計21人、内17人が中で転がっています。絶命確認が3人」

「よくやった。ご苦労様」

「有り難うございます」


「ハインツさん。彼女たちのケアをお願いします。被害者である彼女たちが不当に(おとし)められることの無いように。彼女たちの尊厳を守ってあげてください」

「ギルドの誇りに()けて、必ず」

「それでも風評を避けられないのであれば、孤児院を頼ってくださっても結構です」

「……良いんですか、アレクさん。そんなこと勝手に決めて?」

「セラさんは(いな)とは言いませんよ」

「わかりました。

 ――では皆さん、こちらへ。自分は冒険者ギルドの職員で、ハインツと申します。

 こちらの冒険者たちに皆さんの救出を依頼させていただきました。

 ハティスの街までの安全は、ギルドが保証致します」


 虜囚となっていた女性たちに奴隷契約の有無を確認し、順次ギルドの馬車に乗ったのを見届けたアレクとシェイラは、いよいよ(彼らにとっての)目的を果たすことにした。

(2,699文字:2015/11/05初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/30 03:00掲載予定)

・ 対人戦闘に於けるアレクやシェイラの現時点での戦闘能力は、機関銃を所持した一般兵と同等であり、相手は刃物を持ったチンピラ。もはや「如何にして勝つか」より「どう戦い、どう殺すか」という問題でしかないのです。

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