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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第一章:「駆け出し冒険者は博物学者!?」
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第04話 雑用依頼

第02節 孤児院と異世界(知識系)チート〔1/7〕

 〔亜空間(インベン)収納(トリー)〕の魔法は、術者が死ぬと自動で解除され、中身は術者の近くに放り出される。

 対人戦の結果として相手が死亡した場合、〔亜空間収納〕の中身は勝者の取り分となることが不文律となっている(闘技場内での決闘の結果などの場合は別途取り決めがある)。

 また死者の装備品は、その仲間(パーティ)たち(・メンバー)をはじめとしたその場の生者が分配する。これは〔亜空間収納〕の中身と同様、勝者の取り分という考え方と、死者の無念を晴らすという考え方、両方の意味からそれは推奨される。

 つまり、今この場でセマカの〔亜空間収納〕の中身と装備品は、俺の所有物にして何ら不都合はない、ということである。

 勿論(もちろん)、セマカの双刃(グレート)大戦斧(アックス)などはあまりに特徴的な為、使用するにしても売却するにしても、足が付きすぎる。当分は俺の〔無限(インベン)収納(トリー)〕に放り込んでおき、ほとぼりが冷めてから違う町で売るのが妥当だろう。

 そしてセマカの遺体は、ここに放置しておくと他の冒険者に発見される(おそれ)がある。日が暮れたら獣たちが文字通り処分してくれるだろうが、運悪く発見されると面倒臭い。もう少し森に近いところに動かしておこう。


 まるで計画殺人をした後のように死体処理をして、何食わぬ顔をしてギルドに戻り、依頼(クエスト)の達成報告をした。


「アレクさん、セマカさんを見ませんでしたか?」

「……いいえ。何かあったのですか?」

「セマカさんですが、昨日の一件で旅団(パーティ)から除籍されたらしいのです。それで貴方のことを恨んでいるようですから、見かけたら気を付けてください」

「わかりました。気を付けます」


 ……面倒臭い。前世の世界の殺人犯は、こんな面倒臭い気分になっていたのだろうか?


 報酬を受け取り、食事もそこそこに宿の寝台(ベッド)に潜り込んだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 翌朝。

 今日も依頼を請けるべく、依頼(クエスト)(・ボード)を覗き見た。

 今日は害獣討伐系の依頼がまだ数多く残っている。今日はこれにしよう。

 そう思い、討伐系依頼の一つに手を伸ばした時、脳裏にセマカの死相が思い(フラッシュ)浮かんだ(・バックした)


 おそらく、俺が真正のこの世界の人間だったら、ここまで引き()らなかっただろう。前世の記憶と人格を継いでいる為、同時にその価値観・倫理観に振り回される。

 割り切ったつもりでも、心までそう簡単には割り切れない。

 こんな調子で討伐系依頼などを受けたら、命に係わる。

 今日は少し簡単な依頼にしよう。


 そうして選んだのは、孤児院の子守の依頼である。

 内容は、子供たちと遊ぶこと。これだけだ。


 この世界の文化・治安レベルを考えると、孤児が多く生まれて当然である。しかしそれを放置すると、貧民街(スラム)が拡大し街の治安が悪化する。疫病(えきびょう)の媒介源になる恐れもある。

 だから大抵領主(町長)や神殿などが出資して孤児院を経営する。しかし、いつの世も、どこの世界も、「無ければ悪いことになるが、有れば何も起こらない」ものの価値は、なかなか認められない。必然、予算は削られ孤児院経営は火の車になるだろう。

 にもかかわらず、冒険者ギルドに依頼する。そのこと自体に興味を持った。


◇◆◇ ◆◇◆


「こんにちは、ギルドから依頼を受けて参りました冒険者です」


 訪れた先は、随分長いこと手入れを放棄されたようにも見える建物だった。

 ここが孤児院。街に一つしかない孤児院だから、ただ「孤児院」としか呼ばれないが、院長先生の名をとって「セラの孤児院」と言われることもあるようだ。

 その名の由来であるセラ先生(20歳(はたち)そこそこの女性で、神職に共通する雰囲気を持っていた)が出迎えてくれたので遠慮なく院に入り、具体的な仕事内容を聞いた。


「依頼書にあったように、貴方にやってほしい仕事は子供たちの遊び相手です」

「自分はこの春12になったばかりのガキで、孤児院の子供たちとそう歳が離れている訳じゃないから、妥当と言えば妥当でしょうけれど、それだけで小金貨1枚は多すぎるのでは?」


 小金貨1枚は、日本円換算で1,000円程度。日給1,000円と考えると安すぎる。

 また、冒険者の価値観でも、宿代が素泊まりで小金貨2枚程度と考えると、これも割に合わない。

 けれど、街の住民は小金貨1枚あれば普通に3日暮らせるし、スラムなら小金貨1枚を巡って殺し合いが起こる。

 命の危険がなく、技能も知識も必要としないこの内容では、小金貨1枚は高すぎる。

 ギルドを介するということは手数料を引かれるということで、それはおおよそ2~3割だろうから、銀貨2~3枚。

 つまり、どう考えても冒険者ギルドに出す依頼ではなく、個人の伝手(つて)辿(たど)って、子守を銀貨5枚前後で雇った方が良い、ということになる。


「冒険者ギルドに依頼を出したのは、男の子の中に冒険者に対して憧れている子が多いからです。貴方がたの冒険(たん)を話して聞かせてほしい、というのも依頼の目的の一つです」

「では自分ではその役を果たせそうにありません。自分はまだ依頼を一つしか達成しておらず、実戦といえる戦いもまた経験していません」

「私は依頼の相手として木札(Eランク)の冒険者を指定しましたが、実戦経験のある冒険者、とはしていません。今日一日、子供たちと一緒に遊び、またいろんな話をしてあげてください。それで十分ですから」


 アンバランス。塀や庭が(ほとん)ど手入れされていない現状を考えても、資金繰りの厳しさが見て取れる。そこで安くない代金を支払い冒険者を雇い、してもらうことは子供の遊び相手?

 むしろ、冒険者ギルドが町長に対して伝手があり、現状をアピールすることで町長からの資金援助を増やすという目的があるというのなら、まだ理解が出来る。

 しかし、それでは駆け出し(Eランク)に対する依頼となる理由がないし、それ以前にギルドの独立性を考えれば、街の運営予算の配分にまで口を挟む権限があるとは思えない。

 その上この(よく言えば温和な、悪く言えば鈍くさそうな)セラ院長に、そのような(悪い意味の)プロモーション能力があるとも思えない。どちらかといえば悪意ある冒険者に(あざむ)かれて院の金庫を(から)にしてしまうのがオチだろう。


 当初の心積もりと裏腹に、セラ院長の真意を知る為に、この依頼を受注することにしたのである。

(2,637文字:2015/08/03初稿 2015/12/25投稿予約 2016/01/07 03:00掲載 2016/10/11衍字修正)

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