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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第24話 鬼子母と学校

第04節 初夏~新たなはじまり~〔7/8〕

☆★☆ ★☆★


 いきなり余談だが、街なのに町長とはこれ如何(いか)に? と感じるかもしれないが、それには意味がある。


 この世界、人が(つど)い暮らすマチは、大きい順に()()(ガイ)(チョウ)(ソン)(ラク)、と区分される。

 都と市は行政区分上「()(city)」であり、城壁に囲まれ一定の防衛力を持つ。「都」は領の中核となる市であり領主が市長を兼ねる(但し男爵領の領都は、規模によって「都」ではなく「市」を称する場合もある)。一方「市」の市長は、一代貴族である準男爵位を叙される。

 街と町は行政区分上「(まち)(town)」であり、商業区や住居区といった区画整備されているのが「街」、されていないのが「町」となる。「街」の町長は、市長と同じく準男爵位を叙される。

 村と落は行政区分上「(むら)(village)」であり、「村」は外部と交流があり開放的、「落」は(ほとん)ど交流がなく閉鎖的、との違いがある。


 つまり、街の行政の長は町長なのである。


★☆★ ☆★☆


「キミがアレク君か。成程(なるほど)。確かに領主様の若い頃の面影(おもかげ)がある」


 町長の(やかた)に呼び出され、挨拶の言葉を述べた直後の第一声が、これである。


(おそ)(なが)ら。(わたくし)は既に勘当された身。領主(ちち)の息子として扱われる立場にはありません。どうか一介の冒険者として扱ってくださるようお願い申し上げます」

「フム。ではそのようにしよう。しかし、キミは全く動じていないな。キミの素性は隣にいる院長殿にも秘密だったのではないのか?」

「既に仕立屋の女店長には見抜かれていました。また冒険者/商人両ギルドのマスターは(とも)に気付いているフシがあります。ならセラ院長に気付かれていたとしても当然というモノでしょう」


「あの……、アレク君。怒ってないの?」

「何故? (むし)ろ知らんぷりをしていてくれて、知った後もそれ以前と変わらず接してくれていたことに感謝しこそすれ、怒る理由なんかないと思いますが」

「でも――」


「それで、その領主殿の勘当息子は、この街で何を目論(もくろ)んでいる?」

「子供たちが健やかに育つことを」

「――アレク君……」

「意味がわからないな。子供の成長と、木炭の産業化に、どういった繋がりがある?」


 ……! そっちか。


 俺がこの場で一番(おそ)れたのは、実をいうと町長とセラさんが共闘することであった。


 町長にとって一番大事なのは自分の立場であって、有象(うぞう)無象(むぞう)の住民のことではない。

 セラさんにとって一番大事なのは子供たちであって、自立出来る大人のことではない。

 そして俺は、この街に永住するつもりはないと明言している人間である。


 つまり町長とセラさんの利害は、かなりのところまでは一致する。そしてそれぞれの“一番大事なモノ”の為に、俺を排斥(はいせき)する可能性も無い訳ではないのだ。


 セラさんの本性は、『鬼子母(きしも)』である。子を守る為なら鬼にもなれる、そんな母性こそがセラさんの本性だ。ただこれまでは子を守る為の剣を持っていなかっただけで。


 ちょっと考えてみてほしい。前世地球の平成日本で、中堅サラリーマン程度の収入しかない女性が、30人近い子供を育てる。……仮に家賃の支払い義務が無かったとしても、それは不可能に近い。その女性は身を切るような節制をしながらも、一方で子供たちの養育費を(かせ)ぐ為に公言出来ないような何か(・・)をしていたとして、何ら不思議ではない。

 セラさんはおそらく、そのような何か(・・)はしなかったろう。それ(・・)をするような女性なら、院生であったシアが冒険者として働き、稼ぎの全てを院に入れようとは思わなかった(はず)

 セラさんは善良にして健全な方法で孤児院の運営資金を稼得(かとく)することしか考えなかったからこそ、子供たちはセラさんに全幅の信頼を寄せ、しかしシアが冒険者として活動する直前までは、セラさんは過労死寸前の上栄養失調で倒れる寸前だったに相違(ちがい)ない。

 けど今は、孤児院は一定の収入を確保し、特定の誰かに頼らなくても維持出来るようになったのだ。なら子供たちの為ならば、その特定の誰か――例えば、“余所者”である俺――のことなど、それ以前の恩讐(おんしゅう)に関わらず切り捨てられるだろう。


 だから俺は町長の懸念に対し、セラさんの立場から街に対して隔意(かくい)が無いことを説明しようとした。

 しかし町長は、それは飛ば(スルー)して木炭の話を持ってきたのである。


 木炭の産業化は、一言で()えば俺の趣味だ。

 ただ孤児院を自立させる為の商材として木炭を選び、結果商売(がたき)である筈の鍛冶師ギルドと良好な関係を築くことが出来たから、その次の段階を目論んだ。自分の発案(アイディア)で文明が動く。その誘惑に魅了されたのだ。


 つまり俺はこの論戦で、知らず初手から下手を打った、ということになる。


 勿論(もちろん)、その発言が(うそ)という訳ではない。しかし、子供たちのことだけ(・・)を思って木炭を産業化させた訳でもない。


 そうなると、このまま建前(たてまえ)論を押し通すか、それとも本音で話をするか。

 建前論を通してそれが暴露され(ばれ)た時、セラさんとの信頼関係は崩壊し、町長からも危険人物として認識される恐れがある。

 本音で話をすると、町長の納得は得られるかもしれないが、セラさんに嫌われる恐れがある。

 結局、本音と建前を適当に混ぜ(ブレンドし)た言葉で説明することにした。


「木炭の産業化により、炭焼き職人は技術職として認知されることになります。

 そして最新の炭焼き(がま)の使用に熟達している、所謂いわゆる先達(せんだつ)』は、孤児院の子らになるんです。


 新たな産業の(にな)い手、莫大(ばくだい)な利益が見込める産業に手を出す為には、孤児院の子らに教えを()う必要がある。

 これは孤児院の地位向上に大きく貢献出来ると思います。

 勿論、子供たちも教える立場に居続ける為には、技術を(みが)き経験を重ね、常に最新の知識に接し、また新たな可能性を模索する必要があります。そしてその為にはそれ以外の知識にも触れる必要があるでしょう。


 けれど、それを孤児院の子らで独占するつもりもありません。

 希望する子供は――希望するなら大人もですが――、孤児院の子らと一緒に炭焼きを学べば良いんです。


 俺の理想は、孤児院は孤児院であると同時に、街の子供たち全てに対して公開される教育の場となることなんです」

(2,733文字:2015/10/24初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/22 03:00掲載予定)

・ 「仕立屋」と「服屋」は厳密には違います。仕立屋は採寸してその人用の服を作る職業、服屋は既にある服(既製服か古着かは問わない)を売る職業です。この時代、貴族にとって「仕立屋」である店が、平民に対して「服屋」を兼ねるのです。

・ ここで語られる人物像は、アレクの主観であり作中の人物の設定を語ったものではありません。その為そこに誤解や曲解が含まれている可能性もあります。

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