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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第23話 町長からの召喚状

第04節 初夏~新たなはじまり~〔6/8〕

 鍛冶師ギルドの炭焼き職人の視察が終わった数日後、ギルドで第二号(がま)の設計と炭の差別化について協議を行った。

 当面必要な炭は製鉄用の為、高品質大量生産が求められる。とはいってもいきなりやり方を変えて、すぐに最高品質の炭を生産出来る訳ではない。窯の調子だって確認する必要があるし、そもそも新規のアイディアを盛り込む為その全てが上手くいくとも限らない。

 全てが理想通りに進んだとしても、職人の技量の問題で目標とする品質(クォリティ)に届かない可能性だってある。


 その為、まず二号窯は孤児院の一号窯より高品質の炭を作ることを目論(もくろ)んで設計し、その試運転から運用のマニュアル作りまでは孤児院の男の子たちを派遣して担当させることとなった。


 また同時に、炭に等級を定め品質を管理することも新たに決められた。

 基準は、火力(強い方が良い)、燃焼時間(長い方が良い)、発煙量(有機性不純物の量の指標。少ない方が良い)、炎色(炎色反応による無機性不純物の量の指標。無色の方が良い)、燃焼臭(硫黄(いおう)(りん)等の量の指標。(にお)いの無い方が良い)、爆跳(ばくちょう)湿気(しっけ)の量の指標。無い方が良い)の6つを評価基準とし、その総合評価で価値を決めることとなった。


 ちなみに現在のギルド産の炭はB-C-B-B-B-Cで総合評価B、孤児院産はA-A-A-A-A-Bで総合評価A、となる(孤児院産は「オールSで良いんじゃね?」という意見もあったが、まだ改善の余地があるということでオールAに格下げした。なお、炭鉱産の石炭をこの基準で評価するとA-A-C-C-D-A(総合評価B-)となり、迷宮(ダンジョン)産の石炭はS-A-A-A-B-A(総合評価A)となる(木炭の基準で石炭を評価すること自体無意味と()われればそれまでだが)。そして製鉄に使える炭は、火力と燃焼臭がともにB以上のものと規定された。


 二号窯は、A評価の炭を安定的に生産することを目標にする訳だ。

 同時に、評価基準を設けることで低ランクの炭(火力Bで燃焼時間Cの炭とか、発煙量と燃焼臭がともにCで火力Aの炭とか。前者は料理等に、後者はボイラー等の燃料に向く)の需要を惹起(じゃっき)出来る。

 オールAとかオールSの炭よりも、特定評価だけが突出して高ランクの炭が、今後需要を増やせるようになる。それを調整(コントロール)出来るようになるのが一つの目標だろう。そちらは孤児院で小規模な窯を作り、試験することになった。


◆◇◆ ◇◆◇


 彼、ハティス町長ケイン・エルルーサ=ハティス準男爵は、頭を抱えていた。


 ハティスに、新たな産業が(おこ)ろうとしていた。

 本来なら喜ぶべきことだが、しかしこのこと自体が町長にとって頭痛の原因となっていたのである。


 ハティスは、そもそも宿場町として隆盛(りゅうせい)した。

 領都ベルナンドと、王国の南に位置するマキア王国の王都マキア、そして同じく南東に位置するスイザリア=リングダッド二重王国商都モビレア(スイザリア王国副都)、三つの(みやこ)を繋ぐ街道の交点に位置していたのがハティスだったのだ。


 しかし、ハティスからそう遠くない位置にダンジョンが三つも発見されたことで、冒険者を中心とした産業が勃興(ぼっこう)することとなる。

 そして冒険者の為の武具を製造する鍛冶師たちが集まり、近郊で鉄鉱石が採掘出来るとわかってからは、製鉄の街としての側面も成立した。以降、鉄と鉄製品はハティスの主力輸出産品となっていったのである。


 けれど、今興ろうとしている産業は、これまでとは全く経緯(けいい)が違う。

 たった一人の人間の知識により、これまで一部が独占していたモノを、街の産業として発展させようとしているのである。


 そして、それの起爆剤となる人間がただの冒険者やただの職人だったなら、町長は表彰でもすることが出来る。

 しかし、その相手はもしかしたら領主の一族の者かもしれない。

 しかも、廃籍された庶子(しょし)かもしれないという。


 どう対応したら良いのか。

 誰かに教えてほしいと願ったとしても、誰であれ責めることは出来ないだろう。


◇◆◇ ◆◇◆


「アレク君。キミ宛に、町長様からの召喚状が来ているわ」


 ハティスの街の町長、ケイン・エルルーサ卿からの召喚状。

 心当たりこそないが、曲がりなりにも貴族からの呼び出しとなると、どうしても実父関係を連想してしまう。


「何故俺が召喚されることになるんでしょうか?」

「多分、この孤児院の改革のことだと思うわ。去年の決算報告の時も、アレク君のことを中心に色々()かれたし」


「だからやり過ぎだって言っただろう」

「やらないって選択肢はなかったよ」

「なら(あきら)めろ。因果応報って奴だな」


「大丈夫よ、私も付いて行ってあげるから」

「いや、一人で大丈夫です」

「そうもいかないの。この召喚状が孤児院気付で来ているってことは、院の責任者である私も知らんぷりする訳にはいかないから。

 召喚日時は三日後だから、それまでに色々用意しないと」

「用意って何を?」

勿論(もちろん)、服とか」


◇◆◇ ◆◇◆


 一介の冒険者が、貴族の前に呼び出される。これは滅多にないことである。


 ちなみに、「召喚」とは行政官以上の位を持つ者が下位の者或いは一般市民を呼び出すときに使う言葉(魔術用語の「召喚」はここから転じている)であり、それは依頼の形を取った命令である。召喚状を正当な理由なしに拒絶する場合、それだけで叛逆(はんぎゃく)罪が適用されるのだ。

 言い換えると、平民に対する召喚状の発行は、街に対する叛逆罪の容疑がかかっているということであり、そうでないなら釈明しろ、という無言の圧力なのである。


 「孤児院」と「叛逆罪」。この二つを繋げて考えると、簡単に答えは出る。

 商会と防衛戦力、だろう。

 孤児院は街とは独立した経済力を持つに至り、街の方針を無視した経営が出来るようになった。ましてや孤児院は教育機関としての側面もある訳だから、子供たちを街に敵対するように思想教育することも可能になる。

 加えて防衛戦力。先日セラさんに言われて、以前の孤児院襲撃事件の際に整えた警備体制・防衛戦力の概要をレポートに(まと)めた。それが何らかのルートで町長が目にし、街の自警団や町長の立場で雇用出来る傭兵(ようへい)団で、孤児院の警備網を突破出来るか検討(シミュレーション)したのかもしれない。

 傭兵団を持ってくれば、突破は可能だろう。が、たかが孤児院の警備を突破するのに傭兵団が必要になる。その時点で、それを過剰警備と評価して警戒する可能性は、無きにしも(あら)ず。

 俺やセラさんにとっては、子供たちは何にも(まさ)る宝だが、貴族にとって貧民(くず)れの孤児など、塵芥(ちりあくた)に等しい。なら、過剰警備を(もっ)て隠している何らかの財産がある、と考えられても不思議ではないだろう。


 孤児院で守っているモノが、街にとって害になるものではない。どころか、長い目で見れば益になる。それを、今回の召喚で説得出来るか。

 論戦は得意とは言えないが、子供たちの為だ。頑張らざるを得ないだろう。

(2,934文字:2015/10/20初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/20 03:00掲載予定)

【注:ここでいう木炭の基準はこの世界のものであり、日本のものではありません。日本の木炭の基準に関しては、以下のHP(http://www.zen-nen.or.jp/nenryokikaku.pdf)(一般社団法人 全国燃料協会の「燃料用木炭の規格」)を参照してください】

・ 『セラの憂鬱』(第二章第11話・第16-17話)のセラ視点と、今話のアレク視点、そして町長視点。懸念の中核がそれぞれ微妙にずれていることを確認してください。

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