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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第22話 木炭の発展とその将来

第04節 初夏~新たなはじまり~〔5/8〕

「今以上の品質の炭。そんなものが作れるのか?」

「まだまだ改善の余地はありますよ。材料の選別、(かま)の中での燃焼の効率化、作業工程で混入する不純物の除去。または窯そのものの改良」

「窯の改良? 今の窯は良くないのか?」

「言っちゃなんだけど、この窯は俺の発案(アイディア)で作った第一号窯です。

 実際に使ってみて、不都合なんか(いく)らでも出てくる。

 実際に使ってみれば、更なる改善点も思い浮かぶ。

 (あと)は予算との兼ね合いです。

 今の時点では、更に資本投下して改善しなければならない程の大量生産や品質向上は求められていません。けど、今後ギルド産の炭の質が向上するのなら、こちらも考えなきゃならんでしょう。


 やるのなら、手っ取り早く二号窯を作って、そちらには新案を盛り込み、一号窯と比較しながら三号窯の素案を練る、って形になるでしょうね」

「ならこういうのはどうだ?

 ギルド側で二号窯を作る。そしてそのデータを孤児院に公開する。

 そのデータに(もと)づいて孤児院で三号窯を作る。

 孤児院の三号窯のデータに基づいて、ギルド側で四号窯を作る。

 そういう風に展開する、というのは?」

「悪くないアイディアです。(いや)、とても良い。


 けどそれなら更に条件があります。

 最初の設計図は【リックの武具店】にあるけど、それに新案を描き加えたものをギルドに渡す。ギルドは、その設計図を更に改善(ブラッシュアップ)したものを、しかし【リックの武具店】以外の鍛冶店に発注する。そして、設計図の完成稿と二号窯の運用データは無条件で(・・・・)孤児院と【リックの武具店】に公開する」

「それは……、即答出来ん。問題が二つある。

 一つ目の問題だが、【リックの武具店】以外に発注するという点に関しては、感謝こそすれ反対はない。

 しかし、設計図の完成稿と運用データの無条件公開は――」

「こちらは既に一号窯の設計図と運用データを無条件で公開すると約束している。

 そちらだけ拒否したいというのは理に(かな)わないと思いますが?」

「確かにそうだ。なら(むし)ろ、その条件を受け入れられる鍛冶師というのが、発注先の条件になるな。

 そして第二の問題だが、炭焼きの技術、炭焼き窯の設計図が、多方面に広まる可能性があるということだ」

「それも今更でしょう。うちの子らは、男の子たちは皆炭焼きのやり方を知っている。窯の設計に興味を持った子も少なくない。

 この子たちが院を出た後、別の町でこの窯を作ることになるかもしれない。

 けど、俺はそれを止める気はありません」

「……木炭が、鍛冶師ギルドの秘匿(ひとく)事項であった時代は終わった、ということか」

「それだけの話ですね」

「なら余計に、技術的優位性はなくなる訳だが、それでも孤児院は大丈夫なのか?」

「品質、運用、生産量。競争の為の条件は、一つじゃないです。

 窯を使った炭焼きに関し、実際の運用データを最も多く持っているのは間違いなく院です。

 窯だけ同じものを作っても、同じ炭が出来るとは限らない。色々コツがありますしね。

 もし希望するなら、それを教える為に院の子供たちを派遣しても構いませんが?」

「……それは是非、お願いしたいな」


「他にも、炭の質を変えることを検討中です」

「質を変える? せっかく高品質の炭を作れるのに、わざわざ低品質の炭を作るというのか? 何の為に?」

「これからの時代、炭の用途は増える。


 例えば、炎を出さないから、格子箱の中に燃えている炭を入れて机の下に置けば、足元を温かくすることが出来る。熱くなりすぎるのなら格子の窓を閉めて流入する風の精霊を少なくしてやれば良いし、熱さが足りなければ逆に窓を開ければ良い。

 暖炉(マントルピース)のように一軒の家に一つじゃなく、一部屋に一つ、もしかしたら一人に一つ暖房を用意出来るようになるかもしれないんです。


 先日の(パーティー)のように、料理にも使えるでしょう。

 現在の木炭は、製鉄に使うのが主たる目的です。だから高温になり、長く熱を保ち続ける木炭が最良ということになります。

 けど、暖房器具として使うのなら長く燃え続けることが求められる一方で、それほど高温になる必要はありません。

 料理に使うのなら、その料理の内容によっては短時間高火力の炭の方が有り難いとか、逆に長時間低火力の方が有り難いとか、全くの無臭の方が良いとか木の香りがした方が美味しくなるとか、様々でしょう。

 単純に品質だけを採っても、低品質低価格の炭が作れるのなら、熱源としてならそれで需要があります。


 何より、孤児院産の木炭には、余所がどう足掻(あが)いても太刀打ち出来ない優位性があるんです」

「それは?」

人件費(コスト)です。

 炭焼き職人は、それで食っている。ましてや今まではギルドの()め置きだったんだから、随分高収入だったでしょう。

 けどこれからは競争の時代に入る。

 競争は品質を競い、同品質なら次は価格が競われる。

 製鉄のように炭の品質がそのまま鉄の品質に直結する場合は、高くても品質の良いものが喜ばれるでしょう。その場合でも、高品質の炭が安く大量に入手出来ればその方が有り難い(はず)です。

 けどそれ以外の用途では、質が悪くても安いものの方が喜ばれる状況(シーン)などいくらでもあるんです。


 ではどうやって値段を下げる?

 一つは、粗製乱造、つまり品質を問わずに数だけ作る。

 一つは、大量生産による単価の引き下げ。

 一つは、合理化による冗費(じょうひ)(無駄遣い)の削減。

 そして一つは、人件費の削減。つまり、職人の報酬を下げることです。


 けど、どれだけ報酬を下げるとしても、孤児院の子供たちと同額まで下げたら、その職人は炭焼きを続けられますか?」

「……無理だろうな。これまで高収入だったんだ。それを削減するというだけで、反対する者も少なくないだろう」

「一方で、孤児院は人手が足りなくなったら雇用することも考えられる。

 以前奴隷市場(ハローワーク)に行ったら、孤児院ということで、奴隷たちにさえ()められた態度を取られたよ。けど逆を言うと、孤児院で奴隷を雇うのなら、街娼(がいしょう)以下の待遇でも雇えるということです。

 労働奴隷に単純作業をさせ、孤児院の子らに技術や経験が必要な作業をさせれば、今の品質(クォリティ)を維持したまま生産量を5倍から10倍に引き上げることも出来るだろう。まぁ窯の増設は必須ですけどね」


「この品質のまま、生産量だけ10倍か」

「ちなみにその場合、生産コストは今の3分の2まで減らせる筈だから、卸値を半分にしてもまだ利益が残りますね」


「勘弁してくれ。炭焼き職人たちが路頭に迷う」

「将来の話です。本気になって孤児院と競合するのなら、っていう話。そもそもそんなことをしたら材料になる薪が足りなくなるだろうし。


 運用データの公開を相互に行えば、ギルド産と孤児院産で品質に差は生じなくなる。

 院の子供たちが技術指導をすれば、運用コストも同程度まで下げられるだろう。

 そして、院は大金を必要としていない。子供たちを養育出来るだけの収入があれば充分なんです。


 そうなると、院では高品質少量生産と、特殊用途品の試験生産を主体とし、産業レベルの大量生産はギルドに任せるというのが、お互いの為の()み分けになるんじゃないですか?」

「そうしてくれると助かるな」

(2,990文字:2015/10/19初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/18 03:00掲載予定)

【注:炭を使った暖房器具は、現在の日本では一酸化炭素中毒の危険がありますので、換気に気を配ってください。この世界の場合は建築技術(気密性)が未熟なので、酸欠の心配はほぼありませんが】

・ 木炭を格子箱に入れて卓の下に置き、その卓自体を布団で覆ってしまうと、それは炬燵こたつという悪魔の発明品になります。

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