第17話 セラの憂鬱・2~示すべき道~
第03節 春~修行開始~〔6/6〕
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その話をセラが【ミラの店】のミラ店長から聞かされたのは、あの新年のパーティーの席上でだった。
彼は領主の息子。それも戸籍から抹消された庶子の可能性が高い。
聞かされて、驚きとともに納得もした。彼の豊富な知識、それ以前にそれを得る為の高度な教育。それがどうやって齎されたか。
たとえ庶子でも、領主様の子であれば大量の書に接することも出来るし、ある程度以上の教育を身に付けることも出来るだろう。
そしてこの事実は、この街そのものに対して切り札になる。だが切れ味が良すぎる為逆効果になる恐れもあるが。
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「領主様の一族の者……。それは本当か?」
「証拠はありません。が、確信しております。
あの方はおっしゃっておりました。『孤児』は、将来の貧民街の住民となる虞があるから、治安維持の為にも孤児院は機能している必要があり、また卒院後も街に貢献出来るように職業訓練しておく必要がある、と。
これは間違いなく一領を担う領主様に連なるお方の発想だ、と思いました。
領主様に問い合わせても、おそらくはそんな者はいないとお答えになると思います。
事情のないご親族の方であれば、現在冒険者をしている理由はありませんから。
けれど、街としては知らないフリをしておくべきだと思います」
「何故だね?」
「あの方が冒険者をなさっていることを領主様がご存じなら、あの方の助言で始まった孤児院の改革は、領主様の御指示ということになります。
また逆にご存じないのであれば、あの方の存在でこの街が領主様の勘気を蒙る原因にもなりかねません。
私が今回あの方の出自を述べたのは、あの方の発想、行動に、街に対する悪意が無いという証明の為です。また背後に怪しい存在がいないという証明にもなりましょう。
あの方の、この街に来るまでの軌跡は、おそらく領主様に問い合わせればわかると思われます。その間に出会い、あの方が影響を受けた人間の素性に至るまで。
皆様が必要だとお思いでしたら、それをお調べになれば宜しいかと存じます」
セラのこの言葉で、役人たちは血相を変えた。
「……領主一族の人間の素行を調査しろ、と? 領主様に準男爵位を叙された町長の、その幕僚に過ぎない我々に? 出来る訳がない!」
「領主の名前を盾に、その少年を庇う気か?」
確かに、平民が上級貴族の身内の素行調査など出来る訳がない。そしてそのことを盾に、真実から煙に巻こうと思われても、或いは仕方がないのかもしれない。けど。
「私が守らなければならないのは院の子供たちであり、あの方ではありません。
領主様の名前を騙ることの恐ろしさは、庶民である私でも良く存じております」
「それは……、だが――」
「私やあの方を、無条件で信じろとまでは言いません。ですが、猶予をください。
院とその出身者が、そしてあの方が、この街にとって良きものか悪しきものか。
それをもう少し時間をかけて、観察なさり評価していただきたいのです」
「フム。取り敢えず貴女の主張は理解しました。
彼の篤志家が領主の一族に連なる者か否かは別として、その存在がこの街にとって益となるか害となるか。それはもう少し時間をかけて観察する必要がありますね。
では次の質問に移らせてもらいましょう。
孤児院の武装について、です。
先日は孤児院に、冒険者崩れが強盗に入りましたね。
それを撃退したのは孤児院の子供たちだった、と。
曲がりなりにも街の施設である孤児院に強盗が入ったにもかかわらず、街の警備兵が動かなかったことは済まないと思いますが、子供たちに撃退されるほどこの街の冒険者の質は悪くはないと思うのです。
それを為したということは、孤児院はそれを為し得るだけの防衛力を持っていたということで、常識で考えれば過剰な戦力ではないのかね?」
セラが事前に懸念したとおり、役人たちはこの点を突いて来た。
「まず一つ、訂正させてください。
撃退したのは子供たちではなく、院の出身者であり当時鉄札冒険者であったアリシアと、同じく当時鉄札の“あの方”です。
このことに関しては、現場検証並びに犯人に対して最初に事情聴取を行った冒険者ギルドのギルドマスターが証言してくださいます」
「しかし、たった2人で8人もの現役冒険者を撃退したというのは、俄かに信じがたいが」
「8人ではなく6人です。また防衛戦だったことが院にとって有利に事を運べたとあの方はおっしゃっておりました」
「どういうことかな?」
「まず塀の上に、細いワイヤーを張り巡らせておきました。もし何者かが塀を乗り越えようとすると、自ずからそのワイヤーを引っ張る形になり、そのワイヤーの端に付けられた鈴が鳴り侵入者の存在を知らせます。
また、貴重なものが置かれていると想像出来る建物の周りに小さな石を敷き詰めておくことで、そこに近付きその小石を踏めば、石同士がぶつかり合ってかなり大きな音がします。つまり、暗闇の中でも侵入者の位置を特定出来るのです。
寧ろ殺さずに捕らえることこそが難しかったとあの方はおっしゃっておりました」
「ワイヤーと小石、か」
「はい。これに関しては、必要でしたら報告書に纏めて提出することも出来ます」
「宜しい。では報告書を楽しみに待つことにしましょう。
だが、疑惑はまだ晴れていませんよ。
院の子供たちに戦闘訓練をしている、という話はどうなのかね?」
「それは、商会の経営と同じく子供たちの職業訓練の一環です。
身元保証のない孤児たちが身を立てる為には、冒険者になるか傭兵になる、というのが一般的です。だからこそ、小さいうちから剣の使い方を学んでいれば、大人になったときに少しでも有利になると思うのです。
寧ろ、孤児院出身者を街の警備隊や領の正規兵の予備兵に推薦してくださればもっと話は早いと思います」
「なぜ我々がそこまでしなければならない?」
「戦う力を持つに至った子供たちが、街の敵とならないように監視する意味と、街の戦力とする為に囲い込む意味、両方からです」
そう。心配なら手元に置いて監視すれば良い。問題が起こってもすぐに対処出来るように。
「随分と、情の通わぬ判断をするのだな」
「そこから先は、子供たちが自分で自分の人生を切り開くことが求められますから。
結局何も出来ずにケチな小悪党になって処刑されるか、多くの人の信頼を勝ち得てその剣で更に多くの人を守るか。選ぶのは子供たちです」
これも、彼が教えてくれたこと。
道を示すことが大人の役割で、どの道を歩むのかは本人が決めることだ、と。
(2,773文字:2015/10/16初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/08 03:00掲載 2016/05/08地の文を大幅加筆 2016/10/11衍字修正)




