第14話 武器を作ろう・3
第03節 春~修行開始~〔3/6〕
いきなり始まった講師団研修の結果、子供たちの育成方針とその担当が決定した。
加護付与に関しては、セラさん。
炭焼き小屋とボイラー施設、浴場と井戸回り、天気観測と煙の監視(炭焼きに関しては完成度合いを煙の色で計る。また不純物の有無などは煙を見て判断する)、菜園と肥溜めから作る堆肥、をそれぞれ火、水、風、土、に対応させ、子供たちの嗜好の方向を見定める。
冒険者基礎知識(薬草編)はルイス。
同(道具編)はスー。
同(動物編)はエミリー。
体力作りと剣術基礎、そして対人トラブル対処法はアリシアさん。
で、俺は対人護身術と属性魔法基礎を請け負うことになった。
さあそうなると、次は個人的な問題を検討しよう。
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個人的な問題。
それは、シェイラの戦闘タイプと武装である。
シェイラは当然ながら加護無し(加護の儀式そのものを受けていない)だから、魔法は無属性になる。考えようによっては、俺の本当の意味での一番弟子だろう。
その運動能力は、桁外れに高い。一度確認してみたら、無意識に無属性魔法(俺のいうところの〔肉体操作〕)で強化していたのだが、その分を差し引いても見事なものである。
おそらくはこれが、猫獣人の特性。しなやかな筋肉と、無意識に強化する筋力を駆使した三次元戦闘が、猫獣人の本領なのだろう。
だとしたら、武装もそれを活かす物にしないと宝の持ち腐れである。
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ところで、女性戦士は細剣、という人が前世には多かったが、実はこれは大間違い。
レイピアという武器は、金属鎧が武器(銃器)との競争に勝てない(どれだけ鎧を厚く重くしても、最終的には銃弾を防ぎきれない)ことが明らかになり、鎧それ自体が廃れた後、なお剣を精神的支柱とした懐古主義の騎士たち(「騎士」という職業そのものがその当時既に歴史の遺物になっていた)が、鎧を着ていない相手と剣で打ち合う為に作った武具なのである。
つまり、“決闘”という命懸けであっても約束のある競技を愉しむ為の小道具でしかなく、実戦に耐え得る武器ではないのだ。
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小柄・非力でありながら三次元戦闘に有利な武具。
それは即ち、暗殺者の武具であり、また忍者の武具でもある。
そして俺が思いついた武具は、「手甲鉤」である。
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「親父、いるか!」
「……久しぶりだな、その登場の仕方」
「最近はギルドの方でばかり会っていたからな。店に来なかったのは申し訳ないと思う」
「止めろ。お前が殊勝だと気持ち悪い」
「じゃぁ普通に。
また武器を作ってほしい」
「苦無と鉄串の補充か?
苦無は60本、鉄串は2,000本在庫があるぞ」
「じゃぁそれ全部。
その他に、まずは投げ槍だな」
「あれをもう一本作れって?」
「いや、あれ自体はメンテナンスしてほしいけど、二本も三本もいらない。
長さはこれくらい、重さはあれの三分の一くらいのものを取り敢えず3本作ってほしい」
「わかった」
「次に、戦闘用ナイフ。
以前のより二回り小さく、重量は半分くらい。
握りももう少し細く仕立ててほしい。
コーティング用の神聖金剛石は必要量だけ提供する用意がある」
「アダマンタイト持ち込みとは、豪勢だな。
察するに、あのお嬢ちゃんの武器か」
「そうだ。
そしてもう一つ作ってほしいものもある。
手甲だ」
「手甲? 防具か?」
「いや、武器として使う。
甲の鉄材を柵状にして、農具の熊手のようにする。
つまり、ネコの爪だ」
「お嬢ちゃんが猫獣人だから、か?」
「それもあるが、使い慣れれば彼女に最適な武器になると思う」
「わかった。細かい形状についての注文は?」
「特にない。ただ収納の手間を考えてくれると助かる」
「その辺はシンディの領分だな。
それにしても、随分妙な武器を考え付くもんだな」
「筋力の無さを工夫で補おうとしているんだ。
正当な武具に比べたら邪道だってことくらいは理解出来るよ」
「は! 生き残る為の道具に王道も邪道もあるかよ。
任しておきな。お前さんが納得出来るモンを作ってやるよ」
「そのあたりは信頼しているさ」
「ああアレク。ついでと言っちゃあ何だが――」
◇◆◇ ◆◇◆
リックの親父が最後に告げたのは、ギルドからの呼び出しであった。
今日は時間があるので、ついでに回ってみることにした。
「久しぶりだな、小僧」
「おかしいな、新年の孤児院のパーティーでむさ苦しい髭モグラどもの顔を見た気がしたんだが」
「テメェ……」
「止めろ。喧嘩を売りに来たのか?」
「この街の山妖精は喧嘩好きだからな。
喧嘩も出来ないようなガキには用がないと思ったんだが、違ったか?」
「その考え方に間違いねぇが、お前と喧嘩したいとは思わねぇよ。
勝てねぇのがわかりきってるからな」
「そうか。
で、呼び出したのはアンタらだろ?
何の用だ?」
「お前が持ち込んだ、迷宮産の石炭の件だ」
◇◆◇ ◆◇◆
ダンジョン産の石炭。
俺が保有する炭鉱の石炭より硬度が高く、光沢もある。
組成としては石炭と同じ筈だが、それでも見た目で分かる違いは、不純物の差か?
そう思って、鍛冶師ギルドに分析を依頼したのだが。
「まず、炭鉱の石炭と比べて火が点き難い。
この点は、ギルド産の木炭に比べて孤児院産の木炭の方が、火が点き難いのと同じだ。おそらくダンジョン産の石炭の方が、質が良いんだろう。
次に、燃やした時にこいつは殆ど煙が出ない。
お前が教えてくれたな。『燃やして煙が出るのは下。煙は出ないが炎の舌が見えるのは中。煙も炎も見せず、ただ静かに青白く光るのが上』だ、と。
間違いなく、この石炭は炭鉱産のものより質が良い。
最後に、煙の中の硫黄分。これも殆どない。
このまま製鉄に使えるんじゃないかと思えるくらいに。
使って問題がないかどうかはもう少し実験してみないとわからないがな」
ギルドマスターの言葉を聞いて、俺は「無煙炭」という単語を思い出していた。
前世の日本で太平洋戦争中、煤煙で戦艦の位置がばれると困るので、煙の出ない「無煙炭」を求めた、というエピソードである。
俺は「無煙炭」は、「脱硫した石炭」のことだと思っていた。しかし、「泥炭」も石炭の一種である以上、「無煙炭」もまた石炭の一種として分類出来るのかもしれない。
「わかった。どうやら石炭にも種類があるらしいな。
で、こっちの石炭の方が質が良い、と。
皆でダンジョンに石炭掘りに行くか?」
「莫迦抜かせ。命がいくつあっても足りねぇわ。
冒険者を雇うにしても、コストと価値が釣り合わねぇ。
ここは炭鉱の石炭を有効利用することが先決だな」
「なら、研究用にこの石炭をもう少し置いておこう。
どっちにしても、実用に供すには在庫が少なすぎるからな」
ダンジョン産の石炭は、どうやら研究素材にしかなりそうにないようだ。
(2,997文字:2015/10/13初稿 2016/04/01投稿予約 2016/05/02 03:00掲載予定)
【注:石炭の種類については、〔国立研究開発法人 放射線医学総合研究所「瀝青炭、亜炭、泥炭」(http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/NORMDB/PDF/54.pdf)〕を参照しています】
・ 石炭は炭素含有量の少ない順に「泥炭」「亜炭」「褐炭」「亜瀝青炭」「瀝青炭」「無煙炭」と分類され、泥炭や亜炭は燃料としての需要は殆どなく(代わりに肥料として使われる)、一方で無煙炭の組成は殆ど純炭素といえるほど(炭素割合90%以上)のものなのだそうです。また無煙炭は粘結性が低く、コークスの原料にはなりません。




