第12話 講師団研修
第03節 春~修行開始~〔1/6〕
◆◇◆ ◇◆◇
アレクはそこで、三つの魔法を発動させた。
一つ目の魔法は、土塊から出来た人形を造形し、
二つ目の魔法は、水を空中で舞い踊らせた。
三つ目の魔法は、無風のその場に風を起こした。
「莫迦な……。あれは、土属性の〔土人形創造〕?」
「それに、水属性の魔法、〔水蛇竜〕?」
「え? ……この風、〔風操り?〕
「まさか、複属性魔法使いなの?」
「否。俺は加護無しの無属性魔法使いです」
◇◆◇ ◆◇◆
その日。俺は冒険者志望の子供たちに対する指導方針について、アリシアさんたちと打ち合わせることにした。
「冒険者志望の子は多いです。その他の子たちも、いくつかのことは憶えておいて損はないでしょう。
だから、ホンの基礎的なことだけでも教えておくべきだと思うんです」
「だが、それほど時間は取れないぞ」
「ええ、だからこそ必要なことだけになります。
たとえば、対人戦闘術を教えようとも、長い時間がかかります。
仮に促成栽培で身に付けられるものだったとしても、子供たちは――俺もですけど――手足は短く体重も軽い。大人になるまでは充分な威力を発揮することは出来ないでしょう。
なら、子供でも出来る薬草集めのコツや中型以下の野獣討伐のコツ、そして何より身を守る方法などは、今からでも学んでおく方が良いでしょう」
「戦闘術は教えてもすぐには身に付かない、と言っていながら護身術は教えるのか?」
「護身術は、敵を倒す技ではありません。
逃げる余裕、助けを呼ぶ余裕を作る為の時間稼ぎの為の技です。
街中では隙をついて逃げる為。街の外では、その隙を作る為の詐術。
それが、この場合の“護身術”の本質です」
「成程な。それは男女の別なく憶えておく必要があるな」
「うん、私も知りたい」
「その他にも教えたいことは山ほどありますが、そこに一つ問題が。
俺は加護無しなんです」
「確かにそうだが、それが?」
「子供たちに教えることの中に、魔法についてを触れない訳にはいきません。
ましてや今年の加護の儀式で加護を得た子がいます。今後も加護持ちの子供たちは増えていくでしょう。
ならちゃんとそれを教える必要があります」
「なら、神殿から神官を呼ぶか?」
「その金はどこから?」
「うっ……」
「でも、いくらアレク君が博物学者だといっても、無属性なんだから属性魔法は教えられないよね?」
「否、教えること自体は可能です。
が、神殿が教える魔法とは根っこから違うモノになる可能性があるんです」
「……どういうこと?」
「無属性でも、属性魔法を模倣出来るんです」
「な、なんだって~!」
「それは本当なの?」
「はい。
無属性魔法は、加護を得られなかった落ちこぼれが使う魔法と謂われています。
『加護が与えられない人たちに対する、精霊神の慈悲』という人さえいます。
だから、誰もこの魔法体系を研究していないんです。
けれど、俺は自分が加護無しだからこそ、無属性魔法を研究しました。
その結果、属性魔法それ自体には劣るものの、属性魔法を模倣することは不可能ではないことが明らかになりました。
そのやり方の根底にあるのは、俺が知る“世界の真理”です。
だからそれを学んだ上で通常の属性魔法を学べば、おそらく普通の属性魔法使いより大きな効果を小さな力で発動出来るようになると思います」
「凄いことを考えるな。
だが、お前のことを信じない訳じゃないが、無属性で属性魔法を模倣するなんて聞いたことがない。
それはあたしたちの常識にないことだ。
だから、それをあたしたちに見せてほしい」
◇◆◇ ◆◇◆
俺はセラさんとアリシアさん、そして(何故か付いてきた)三人娘を連れて街の外に出た。
孤児院の中でこれから見せる魔法を披露して、それを子供たちが見たときの影響を考えたら、それはすべきでないと判断したのである。
俺が発動させた魔法は三つ。
一つ目の魔法は、無属性魔法Lv.2【群体操作】。土を動かし、人形を造形した。
二つ目の魔法は、無属性魔法Lv.3【流体操作】。水を動かし、空中を舞わせた。
三つ目の魔法は、無属性魔法Lv.4【気流操作】。風を動かし、皆の頬を撫でた。
【気流操作】は、本邦初公開。ようやく形になった魔法である。
きっかけは、朝方に出ていた“霧”だった。
霧は水。すなわち物質の三態で言うなら、『液体』である。
が、霧は『流体』ではない。
塵は『固体』でありながら風に舞うのと同じ。
塵があまりに微小過ぎて固体でありながら固体として認識されないのと同じ。
塵も積もれば山となる。霧も積もれば水となる。
塵を動かす為には〔群体操作〕を必要とする。なら、霧を動かすには?
そして、霧を動かす力は、水蒸気(気体)を動かす力足り得ないのか?
そういった試行錯誤の結果、【気流操作】は完成したのである。
「まさか、複属性使い?」
「否。俺は加護無しの無属性魔法使いです」
「だがお前は今、土属性の魔法と水属性の魔法と風属性の魔法、三つの属性の魔法を操って見せたじゃないか!」
「否。俺は無属性の魔法しか使っていません。
ちょっと考えてみてください。今の三つの魔法。共通している点が一つあります」
「わからない。土と水と風に共通する点? それは一体……」
「簡単です。無属性魔法は、『モノを動かす』魔法です。
だから、動かしてみました。土と、水と、風を」
「そ……、そんな――」
「勿論、土属性魔法は土を動かすだけではなく、土を沼に、また石を砂に変えることも出来ます。
水属性魔法は水を動かすことだけではなく、氷を支配することも出来ます。
俺はまだ、土を沼に、石に、砂に変える魔法は使えません。
水を氷に、氷を水に変える魔法は使えません。
けど、既に理論はあるんです。術として完成していないだけで。
他にも、火や熱を操る魔法も、今研究中です。
そして、これらが全て実現出来れば。
無属性魔法で、属性魔法の全てを模倣出来るということになるんです」
「その理論というのが、お前の博物学者としての知識か?」
「否。以前言いましたでしょう?
博物学者は『目録を作る』だけだ、と。
病気を治すのは医者の、モノを作るのは技術者の、それぞれ領分です。
ならこれは、魔法学者の領分です」
「魔法学者……。それがお前の目指すところ、か」
「はい。現行の魔法を解析し、新たな魔法体系を構築する。
それが俺の夢であり、目標なんです」
(2,772文字:2015/10/08初稿 2015/10/12第二稿 2016/02/28投稿予約 2016/04/28 03:00掲載予定)
【注:博物学者に関しての評は、第一章第18話を参照願います】




