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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第10話 加護と進路

第02節 新年~将来を見据えて~〔4/5〕

 明けて既朔(ふつか)

 この日は精霊神殿による「加護の儀式」が街の広場で行われる。

 孤児院でもその対象となる、10歳になった子供は3人(男の子2人、女の子1人)いる。

 その為、子供たちにとって生まれて初めての“ハレの日”に備え、女の子たちは昨日に続きその衣装を用意していた。


 その衣装は(既に昨日のファッションショーでお披露目(ひろめ)されているが)、上質の絹を使い、四大精霊の色(赤・青・黄・緑)で染め、華美ではないが上品な意匠(デザイン)のものとなっている。ちなみに年末から一部で評判となり、昨日衆目を集めたシェイラのドレスは、(むし)ろこの服の余り布で作ったものでしかない。

 そして孤児院製特有の、〔同一デザイン〕。これらがどれほどのインパクトを街の人たちに与えるか。


 それは、製作者側の想像を(はる)かに上回るものだった。


◇◆◇ ◆◇◆


 普通の町民の子らだけでなく、上は街の有力者の子弟から、下は貧民街(スラム)の子らまで、その保護者とともに広場に(つど)っていた。


 当然有力者の子弟は、この日に合わせて新調した衣装を身に(まと)って御満悦(ごまんえつ)。一方で貧民街の子らは「無理をすれば服と呼べなくもない」布切れをかぶって広場の片隅で小さくなっている。

 しかし、昨年までは貧民街の子らと大して違いのない様子でしかなかった孤児院の子らが、有力者の子弟の着ている服に劣らない(よそお)いで現れたのだから、街中が大騒ぎになっても仕方がないだろう。


 有力者の子弟が着る服と、孤児院の子らの服。

 生地も染めも、同程度。縫製技術も()したる違いはない。

 飾り石やリボンなどは、有力者側に軍配が上がる。

 しかし、そのデザインの先進性は(贔屓目(ひいきめ)抜きで)孤児院側の方が好評。

 ()つ同一デザイン、ということは、孤児院の子らでも着れる程度の値段で、同じもの(しかも新品)を(いく)らでも買える、ということだ。

 そうなると、湯水の(ごと)く金貨を(つい)やして仕立てた、有力者の子弟が着ている服の価値は、飾り石程度のものでしかないということか?


 この衝撃が如何(いか)に大きかったか。

 のちに孤児院と縁のある【ミラの店】に、平民服の注文が殺到(さっとう)することになる。翌年以降の加護の儀式では、皆同じデザインの衣装を纏い、飾りやリボン、刺繍(ししゅう)などで個性を競うようになったという事実でも、その評価は明白であろう。

 また孤児院の子ら3人が、3人とも精霊神の加護を得られたことも、服の評判を(かさ)上げする要因の一つになっていた。


 そう。これまで、孤児院の子らが精霊神の加護を得られることは(まれ)だった。

 ところが、男の子が火の精霊神の加護を、もう一人の男の子と女の子が水の精霊神の加護を得た。

 このことも、孤児院が昨年から変わった点として、人々の印象に残ることになった。


◇◆◇ ◆◇◆


 加護の儀式ののち、セラさんたちは用事があるというので分かれ、俺は子供たちを引率して院に戻りながら今後のことを考えていた。


 シェイラは遠からず冒険者登録することになる。院の子供たちの中にも、冒険者を志望する子らが少なくない。

 その子らを纏めて、最低限のことを教える必要があるかもしれない。


 そして、今日の儀式で加護を得られた3人。

 普通に考えたら、神殿なり魔術師ギルドなりで、魔法の使い方を学ぶ必要があるだろう。

 が、得られた加護の内容を考えると、(むし)ろ精霊神に関する以前からの仮説がより補強されたと感じざるを得ない。

 なら、この子らを含め全員(あわ)せて俺流の四大精霊魔法講座を開設した方が良いのかもしれない。もっとも、まだ仮説で検証さえ終わっていない理論に(もと)づく講座で、(さか)しら()に講義することの是非は、セラさんたちと相談する必要があるだろうが。


「何を考えているんです、アレク兄さん」


 と、男の子の一人が口を開いた。


「さっきからずっと、考え事をしてますよね。それも俺たちの方を見ながら。

 俺たちが加護を得られたことで、何か困ったことでもあるんでしょうか?」


「困ったことか。実は無いでもない。

 ちょっとお披露目がセンセーショナル過ぎてね。

 これから院の皆が(ねた)まれるかもしれない。(いじ)められるかも知れない。

 そう思うと、色々考えることがあるんだよ」


「なんだ、そんなことですか。

 イジメなんて、今更です。

 『孤児は貧民街に帰れ』って、石を投げられたこともあります。

 寧ろ兄さんのおかげで吃驚(びっくり)するくらい豊かになって、色んな大人の人と知り合えて、色んなことを勉強出来て。

 だから、妬まれるくらい当然だと思ってます」

「うん、そうね。昔に比べたらどうってことないわね」

「もしくだらない嫉妬(しっと)で年少の子らに意地悪する奴がいたら、(クロスボウ)で射抜いてやる!」


「おいおい、それはさすがにやり過ぎだろう?」


 そう言って笑いながら、けど子供たちの(つよ)さに驚いていた。


「でもそれより、俺は兄さんに魔法を教えてもらいたいな」

「あ、あたしも」

「ボクもボクも」

「おいおい、俺は無属性だぞ? 加護無しだぞ?」

「そんなの関係ないよ。兄さんは色んなことを知ってるんだから、魔法のことだって知ってるよね?」


「……知ってる。だけど、俺の知っている魔法は、神殿の教える魔法とは根元から違う。

 寧ろ教えることで、お前たちが異端扱いされるようになるかもしれない。

 だから、この件はセラさんたちと話し合うまで待ってくれないか?」

「うんわかった。でも、それでもやっぱり教えてほしいな」

「許可が出たら、な」


 本当に、セラさんたちが帰ってきたら、本気でこの件を相談しないと。


「ところで、お前たちは将来何になりたい?」

「俺は鍛冶師」


 と、火属性の加護を得た子が答えると、


「あたしはお針子さん」

「僕は冒険者」


 と、水属性の加護を得た子らが答えた。


「ターニャは針より染めの方が合ってるんじゃないか?」

「え? やっぱり?

 お兄さん、どうしてわかったの?」

「だから水の精霊神が加護を与えたんじゃないかと思ってね」

「……水の精霊神様が。そうなのかな?」


「もしそうなら、全力で期待に(こた)えれば良い。

 もしそうじゃないのなら、水の精霊神に振り向いてもらえるように頑張れば良い。

 やることは結局同じだよ」

「はい!」


 多分、違うだろう。水の精霊神は、そんなことを考えてはいない。

 ただこの少女自らの、表に出していない想いが“加護”として反映されただけなのだろうから。

(2,680文字:2015/10/08初稿 2016/02/28投稿予約 2016/04/24 03:00掲載予定)

・ 厳密に言えば、孤児院は生地を卸値で入手出来るから安く作れるんです。一般販売を考える時には、生地も染めもグレードを落とします。

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