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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第二章:「ご主人様は教育学者!?」
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第07話 奴隷契約

第02節 新年~将来を見据えて~〔1/5〕

 新年まで、あと三日。

 そんな一日に、俺はミリアに頼んでシェイラの服を仕立ててもらった。

 生地は【ミラの店】で取り扱っている最高級品、染料も(新春をイメージして)紅と蒼をベースにし、その意匠(デザイン)は出来る限り豪奢(ゴージャス)で、レースにフリル、リボンを山盛り飾り立て、それどころか神聖金剛石(アダマンタイト)のワンポイントを白金(プラチナ)の土台で飾ってブローチにし、神聖金(オリハルコン)の耳飾りを付け。

 パッと見どこかの貴族のお嬢様、けど服とその飾りの値段はちょっとした貴族でも手が届かないものになるだろう、そんな(すさ)まじいものを作ってしまった。


「アンタね……、いくら何でもやり過ぎじゃない?」

「ほんとう。強盗さんと人攫(ひとさら)いさんが列を成して現れそうね」

「ふっ。うちの娘の為ならば、俺は魔王を(たお)せるかもしれない」

「……なんだそりゃ」


「まぁだけど、見せたい相手は限られてるからね」


 そう言って、シェイラの頭からマントを(かぶ)せ、まずは商人ギルドに向かうことにした。


◇◆◇ ◆◇◆


「やあやあ【セラの孤児院】の皆さん、お(そろ)いでどうされました?」

「馬車を馭者(ぎょしゃ)付きで借りたいのと、今後そう遠くない将来に俺の代理人としてここに来ることになる()を紹介したくてね。

 シェイラ、フードを取って挨拶しなさい」

「はい。初めまして、シェイラです。アレク様の奴隷です」


「訂正。身分的には奴隷だけど、お前は俺の家族なんだから、兄でも父でも、好きな呼び方して良いんだぞ」

「わかりました。ではこれからは『ご主人様』とお呼びします」

「いや、わかってないだろ?」

「でも、『好きな呼び方をして良い』とおっしゃいました」

「じゃぁ命令する。『お兄様』と呼びなさい」

「嫌です」

「なんでだ!」

「『家族だ』とおっしゃってくださいましたから。嫌な呼び方は断固拒否します」

「いや、何かどこかが激しく違うだろ、それは」


 これまで見せることのなかった楽しげな表情を浮かべたシェイラに、渋々(しぶしぶ)白旗を揚げざるを得なかった。


 とはいえいきなり始まった主従漫才(?)を見て、商人ギルドでも俺たちの関係性が理解出来たようだ。

 ギルドの担当者や、よく孤児院に来る会計士さんなどがシェイラに挨拶する(かたわ)ら、アリシアさんとセラさんは、ついに正月に決定したBBQ(バーベキュー)パーティーの招待状をギルドマスターに手渡していた。


 一方俺は、用意された馬車にあれこれ難癖をつけ、「このギルドで一番高級な馬車を持って来~い!」とやっていた。


「失礼ですが、何故そんな高級馬車が必要なんですか?」

「はったり。」

「……馬車で、何処(どこ)まで行くんですか?」

「奴隷市場まで」

「孤児院から商人ギルド(ここ)まで歩いて来たんでしょ? 奴隷市場の方が近かったでしょうに」

「だから、はったりなんですよ。意趣(いしゅ)(がえ)し、とも言いますが」


◇◆◇ ◆◇◆


 そして借りた馬車で、奴隷市場に乗り付けた。


「これはこれは、え? 【セラの孤児院】の皆様?」

「ご無沙汰(ぶさた)しております、というにはそれほど時が経っていませんよね?

 今日はシェイラとの契約を改めて締結する為に参りました。

 シェイラを引き取るときに契約仲介料も込みで支払ったはずですから、あとは〔契約魔法〕の行使をお願いするだけで構わないのですよね?」

「おっしゃる通りです」

「ではお願いします」

「かしこまりました。()()えずは中に」


 そして俺たちは、〔契約魔法〕を交わす場所として第一面会室を指定した。


「いや、第一面会室は……」

「シェイラ、室内は充分暖かいな。もうマントは邪魔だろう。こちらに寄越しなさい」

「はい、ご主人様」


 そしてマントの下から現れたもの。見る目のある人が見れば、すぐにわかる。

 最上の絹と極上の染め、一流の縫製、最先端の意匠。

 アダマンタイトやオリハルコンを贅沢(ぜいたく)に使った飾り。


 このドレス一着で、ちょっとした邸宅を丸ごと購入出来る。それほどのものであったのだ。

 そしてそれを(まと)うは、やはり極上の獣人美少女。

 健康的な肌は日焼けに負けない白さを誇り、(かつ)ては病的なイメージしかなかった白い髪は白銀に(きら)めき、黒い穴のようだったその瞳は明るいエメラルドグリーンの輝きとともに好奇の色を(たた)え。

 薄く塗ったリップは、小さく笑みの形を作っている。


「し……、(しばら)くお待ちください、今商会長を呼んでまいります。

 あ、第一面会室はそちらですので、中に入ってお待ちください」


 担当者が走って逃げたのは、ある意味仕方のないことだったろう。


 面会室に入ったときも、中の奴隷たちの反応は見事なものだった。

 ほんのひと月前まで最下級の売れ残りだった娘が、たったひと月で自分たちより(はる)に高貴な雰囲気を纏っているのだ。勿論(もちろん)、それがはったりだということくらいはわかる。わかるというよりも、そうでなければ自分たちが(みじ)めすぎる。

 ただ、そのはったりを演出したのが「孤児院ごとき」と見下した、【セラの孤児院】だったというのが、もう一つ追加で衝撃だったのである。


「いや驚きました。何をどうやったら月が一巡りする間(ひとつき)でここまで変われるんですか?」


 入ってきた奴隷市場の商会長は、シェイラを見て開口一番そう言った。


「違いますよ。シェイラは変わったんじゃない。戻ったんです。

 奴隷として売られる前、更にその前に起こった“事件”の前までね。

 はっきり申し上げて、このシェイラを見て驚くということは、貴方の見る目がなかっただけと言わざるを得ません」

「いや耳が痛い。まさにその通りですよ。

 しかも前回シェイラを引き渡した時に、契約仲介料まで先払いでいただいています。

 あれがなかったら、今からでも吹っ掛けることも出来たでしょうに」

「うちも一応、商人ギルドに籍を置く商会ですから。安く買えるものを、敢えて値段を吊り上げてから買うような愚かな真似(まね)はしませんよ」

「おっしゃる通りですね。


 では、〔奴隷契約〕を完成させましょう。

 契約内容を教えてください」


「じゃぁシェイラ。どんな契約にする?」

「無条件。禁則事項無し。期間は生涯」

「……って、おい!」

「私の命と希望と未来、私の全てをくれた人にお返し出来るものは、私自身しかありません。

 それに、ご主人様は私が本当に嫌がることをする訳がないですし、ご主人様が本当に望まれることを私が嫌がる(はず)がありません。

 なら細かい条件は定める意味がないですし、禁則事項だって無駄です。

 そして、奴隷契約自体がどうなろうと、私は一生ご主人様にお仕えします。だから、これもやっぱり同じことです」

(2,769文字:2015/10/07初稿 2016/02/28投稿予約 2016/04/18 03:00掲載 2016/10/11誤字修正)

【注:「うちの娘の為ならば、俺は魔王を斃せるかもしれない」という台詞は、〔小説家になろう〕の某作品のオマージュです。なお、この世界に魔王と謂われる存在は(この時代には)存在しません】

・ ちなみに、飾り立てた貴金属のほとんどは、原材料持ち出しです。

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[一言] うちの娘 …あんたが◯◯だっ(爆笑)
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