第03話 奴隷市場
第01節 年の瀬~新しい家族~〔3/6〕
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この世界で奴隷と言うと、実は3種類ある。
一つ目は、労働奴隷。
借金奴隷ともいうが、要するに我と我が身に値札を付けて、契約を交わすことでその内容に則って奴隷として奉仕する。
当然、契約内容は奴隷本人との間で調整出来るし、奴隷は契約外の労働は拒否する権利がある。勿論仕事内容がハードなほど報酬は高くなるし、期間が長ければやはり報酬が高くなる。
つまり、「賃金先払いの雇用契約」であり、奴隷側に主人を選ぶ権利が認められる。
二つ目は、犯罪奴隷。
犯した罪に応じて、重労働を課せられる。労働の程度と期間は予め定められており、それ以上の労働もそれ以下の労働も、犯罪奴隷の主人はしてはならない。待遇も同様で、かなり細かく規定されており、主人の性欲の捌け口として奴隷を使うことが認められる場合さえある。
つまり「懲役刑の民間委託」と言うことが出来、奴隷たちはオークションにより落札され主人となる者に引き取られていく。
三つ目は、非合法奴隷。
誘拐等の非合法活動で集めた女子供を(奴隷契約が【生活魔法】の一つ〔契約魔法〕であることを悪用し)犯罪奴隷とし、且つその労働と期間の制限を排除することで、その主が奴隷に対し、やりたいことを際限なく出来るようになるのである。
非合法である以上、当局に発見されたらその奴隷を売った人、買った人、契約を仲立ちした奴隷商の全員が犯罪奴隷に堕される。
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「奴隷商人」というと、(前世のイメージも相俟って)胡散臭いイメージしかないが、その実国家認定の資格試験を合格しなければなれない上級商人なのだという(国家公認のブラック企業斡旋人、と思ってしまったのは内緒の話)。
そして奴隷の需要は、貴族や大商人などよりも、冒険者にこそ多いのだそうだ。
普通に臨時のメンバーを入れると、依頼の成果次第でその配分の問題が生じる。しかし奴隷なら、(報酬は先払いだから)そんな問題は起こらない。
奴隷を“肉壁”として使うような質の悪い冒険者もいない訳ではないが、奴隷死亡率の高い購入者は、商人側で要注意リストに載せる為、結果的にそれほど大きな問題には成り得ない。
そんな訳で、犯罪奴隷はともかく通常の労働奴隷は、「奴隷市場」と通称される奴隷商人の屋敷に於いても自由に振る舞うことが許されており、事前に将来の主候補と面談することも出来た。
とはいっても好きな場所で好きなように話が出来る訳ではなく、定められた面談室があり、そこで待遇や条件を事前に打ち合わせるのである。
その面談室も、何段階かのランク付けがあり(ハティスの奴隷商の場合は四段階である)、奴隷のランクに応じて使える面談室が変わる。
具体的には、貴族のみを相手とする奴隷は第一面談室、高知識・高技能を有する奴隷は第一~第二面談室、戦闘技能特化など一芸を持つが一流には及ばない奴隷は第二~第三面談室、単純労働特化や特別な技能がない奴隷は第三~第四面談室、逆に何らかの問題がある奴隷は第四面談室、を使うことになっている。
俺たちは犯罪奴隷のオークションには興味がなかったが、労働奴隷に関してはもしかしたらお世話になるかも、と冷やかし半分覗いてみた。
……成程。事前にイメージしていた“奴隷”と、実物はまるで違う。
第二面談室の奴隷たちは勿論のこと、第三面談室の奴隷たちですらセラさんに対し「孤児院の院長ごとき」と鼻で笑ってきた(実際口にした奴隷もいた)。
第四面談室の奴隷でさえ、「いくらなんでも孤児院で働かされるのは御免だ」「孤児院で働くぐらいなら街娼の方がマシ」という具合。
さすがに気分が悪くなって帰ろうか、と思ったその時。
第四面談室の片隅で、膝を抱えていた女の子が目に入った。
◇◆◇ ◆◇◆
「店員さん。あの娘は?」
「あぁ、あの猫獣人ですか。あれはちょっと訳ありでしてね。
おい誰か、シェイラをここに連れてこい」
そして連れてこられた女の子は、がりがりに痩せ細り、目も虚ろ、何よりその表情に生気が全く見られなかった。少女の左肩には異形の瘤があり、一層の不気味さを醸し出している。
「猫獣人ともなると、愛玩目的でも結構人気が高いんですけどね、こいつはこの肩のこぶが原因で、全く引き取り手が現れないんですよ」
「本人と直接話をしても構いませんか?」
「許可なんかいりませんよ。ご自由に」
「こんにちは、俺はアレク。君の名は?」
「……」
「シェイラちゃん、っていうんだよね? 私はセラよ。こんにちは」
「……」
全く無言。だけどなんとなくわかった。
俺は前世でこういう表情の子供を見たことがある。セラさんも、おそらくこういう表情の子供を、嘗ては多く見たのではないだろうか。他でもない、孤児院で。
この表情。世の中の全てに絶望した子供。自分を救ってくれる大人なんかいやしないと、諦めてしまった子供の顔。
だから俺とセラさんは、同時に口を開いた。
「この娘は俺が買います」
「この娘はうちで引き取ります」
一瞬、俺とセラさんは睨み合って、
「セラさん、今のこの娘に必要なのは、特別な“誰か”です。セラさんは立場上、この娘を特別扱いすることは出来ないでしょう?」
「そんなことはないわ、私にとって子供たちは全員特別だもの。寧ろ院の子たちも皆でこの娘を特別扱いしてくれるわ。
それよりもアレク君の方こそ、それほど歳も離れていない女の子を奴隷にして連れ歩くなんて、子供たちの教育に悪いわ。それに、アレク君は迷宮とかに行くでしょう? その間この娘をどうするつもり?」
「この娘の将来の生き様は、将来のこの娘が決めれば良いことです。でもこの娘の現在は、責任を取れる大人が何とかしなければいけません」
「全く同感よ。だからこそうちで引き取るって言ってるの。アレク君、君はこの娘の全てに責任を負えると言い切れるの?」
「セラさんこそ、この娘の肩のこぶを見てもなお責任を負えると言い切れるのですか?」
「こぶの一つや二つ何よ。私だって胸に二つこぶを持っているわよ」
「そういう問題じゃぁありません。
これは完全に俺の勘に過ぎないんですが、あれ、放置しておくとヤバいような気がします」
「おいアレク、ヤバいってどういうことだ?」
「だからなんとなく、としか言いようがありませんよアリシアさん。
本来、普通のこぶならどうってことないんですが、アレは命に関わる“何か”のような気がします」
「博物学者の勘、って奴か?」
「そう思ってくださって結構です」
「そういう事情なら仕方がない、か。
けどアレク君、約束して。この娘を絶対に助けるって」
「約束します。俺の持っている博物学者の知識の全てに賭けて」
(2,965文字:2015/10/04初稿 2016/02/28投稿予約 2016/04/10 03:00掲載 2016/06/04脱字修正 2016/07/15誤字修正)
・ なお、犯罪奴隷のオークションは年二回ですが、労働奴隷の面談は随時です。




