第02話 土産物
第01節 年の瀬~新しい家族~〔2/6〕
ハティスの街に帰ってきた、翌日。
俺は鍛冶師ギルドに向かうことにした。
「なんだ、またギルドに喧嘩を売りに行くのか?」
「いやだから人聞きが悪いですって。
迷宮で斃した魔物で、解体出来てないのがあるんですよ。
鬼系(人型)の魔物を孤児院で解体するのは子供の教育上歓迎出来ませんし、俺の〔無限収納〕の容量について冒険者ギルドにはあまり知られたくありませんから、鍛冶師ギルドの解体作業場を借りたいと思いましてね」
「鍛冶師ギルドなら良いのか?」
「以前、木札の依頼の時に見られてます。あの時は自分の秘密を守ることにそれほど真剣じゃなかったですけど、今となってはむしろ都合が良いかな、と」
「成程。ではあたしも同行して構わないか?」
「勿論」
「あらシア、今日は冒険者ギルドに用があるって言ってなかった?」
「そうだった。ギルマスから呼び出しがあったんだ」
という訳で、残念ながら俺一人で鍛冶師ギルドに向かうことになった。
鍛冶師ギルドの作業場を借りるとはいっても、解体せずに持って帰ってきた魔物は二体だけである。
そもそも小鬼や中鬼、犬鬼などは解体しても素材として使える部位はないから魔石を抜いてあとは放置が基本だし、豚鬼はその肉が食用に足るので、ダンジョン内で解体し、門前町で売却している(ちなみにハティスでは売れない。魔猪の方が味が良いから)。
つまり、ハティスまで持ってきたのは、ダンジョン内で解体するには大きすぎる魔物、ということだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「久しぶりだな、坊主。ダンジョンに行ってたんだって?」
「久しぶり。そうさ、昨日帰ってきた。
そっちこそ、石炭ストーブのおかげで景気良いみたいじゃんか」
「それもこれもお前のおかげかな?」
「それはともかく、ギルドの解体作業場を貸してほしいんだが」
「『鬼の迷宮』の魔物か? 解体する価値のある奴はいたのか?」
「それはともかく御覧じろ」
「わかった」
そして、作業場に着いて。何故かリック親父やギルドマスターをはじめとする幹部連が何人か集まってきていた。
「さて。どんな獲物を持ってきた?」
「取り敢えず、この二体」
と言って取り出したのは、大鬼と牛鬼である。
さすがに全員絶句した。
「このミノタウロス、もしかしたら……」
「えぇ、ダンジョンマスターです」
「この角や骨は、使い途ありますよね?」
「ああ、それに皮も素材としては高級品だ」
「でもオーガの肉は食べられませんよね」
「そうだな」
「ではオーガの肉は後ほど焼却処分で。ミノタウロスの肉は確か……」
「結構人気が高いぞ。滅多に出回らないがな」
「いやさすがにそうそう頻繁に出回ったら大変でしょう。
かといって市場に流したら色々面倒そうだ。
なら、俺個人の分と孤児院の備蓄分を残して、あとは皆で食べちゃいましょう。
うん、孤児院でBBQパーティーだ」
「バーベキュー?」
「贅沢にも木炭を使ってその場で肉や野菜を焼くパーティーです。
準備が出来たら皆さんも招待しますよ」
で、実際の解体作業だが。
オーガやミノタウロスを解体する機会などそうそうないこともあり、むしろ鍛冶師ギルドの職員たちが進んで手伝ってくれた為、あっさり終わった。
「それから、ダンジョン内でちょっと面白いものを入手したので披露します。
一つ目は、石炭」
「……ダンジョンで、か?」
「えぇ。ただ俺の炭鉱の石炭とちょっと違うんです」
「何がどう違う?」
「見てみればすぐわかりますが、こちらの石炭の方が光沢があり、また硬いです」
「成程。実際に燃やした時の違いは?」
「まだ。少し置いておきますので、よかったら検証してみてください」
「承った」
「で、二つ目。神聖金剛石の板です」
「な!!!」
「これだけの量のアダマンタイトが、いっぺんに見つかることは稀だと思いますが、如何でしょう?」
「寧ろアダマンタイトの希少性を失わせる程度には、な」
「ちなみに『鬼の迷宮』の第十七層にありましたから、うまく採掘すればちょっとした財産になるのでは?」
「なるだろうが、その手間を考えると、な。
というか、この事実が明らかになれば、『鬼の迷宮』を目指す冒険者が増えるんじゃないか?」
「かもしれませんね」
そんなこんなで解体作業も終わり、素材の類を買い取ってもらったうえで、孤児院に戻ることにした。
◇◆◇ ◆◇◆
孤児院に戻ってからも院の解体作業場に行き、道中に狩った鳥獣を解体した。これは適度に熟成させたのち、一部は加工し、残りは肉屋に卸すか子供たちのお腹に収めるかすることになる。
「ところでセラさん。迷宮土産で面白いものがあるんですが」
「何?」
そして取り出したるは、照明石(仮称)。
「ダンジョンの中層以下は、明るいんです。
その理由を調べたら、こんなものが見つかりまして、これで照らしていたんです」
「まあ」
「で、これ……、使えますよね?」
「使える……、わね。
けど、使え過ぎて、人に見られたら困るレベルかも」
「ですね。じゃぁ魔法照明だと思ってもらえるように偽装を施しましょうか」
「それなら何とか使えるわね」
「一応たくさん採ってきましたけど、あんまり目立つところには置きたくないですよね」
「そうね、この明るさは有り難いけど、それで厄介事を引き起こしたら嫌だし」
「ではランタンのようにして、俺とセラさんとアリシアさんの三人が持ち歩くようにしましょう」
「それは良いわね」
「何を持ち歩くって?」
「あらシア。お帰り。アレク君の迷宮土産の話よ」
「あ、そうだアリシアさん。火魔法を封入した魔法照明、いくつか買ってきてくださいよ。
燃料として使う魔石はいくらでもありますので」
「ああ、そうだな。各部屋にひとつずつと浴場と炭焼き小屋と……」
「厠や庭にも必要ですね」
「随分贅沢だな」
「それくらい許される程度には、稼いできましたから。
何ならアリシアさんの剣を、アダマンタイトでコーティングしてもらいましょうか?」
「いや幾ら何でもそんなこと……」
「余裕で出来る程度の成果がありましたから」
◇◆◇ ◆◇◆
「そういえばシア、冒険者ギルドのギルドマスターからの呼び出しって何だったの?」
「ああ、それは……、アレク。
この孤児院を襲撃してきた冒険者たちのことを憶えているか?」
「えぇ、忘れたくても忘れられませんね」
「あいつらは犯罪奴隷として売られることになっているんだが、そのオークションが次の月の朔日に決まったそうだ」
「随分時間がかかったんですね」
「いや、夏の一の月の末日と冬の三の月(或いは歳の末の月)の朔日は、犯罪奴隷のオークションがこの街で開かれるんだ。ならわざわざ別の街に護送しなくても、それに合わせた方が手っ取り早いと役場の連中が思ったんじゃないか?」
「あぁ成程」
「もしなんなら、奴隷市場に一緒に行ってみるか?」
(2,943文字:2015/10/04初稿 2016/02/28投稿予約 2016/04/08 03:00掲載予定)




