表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第一章:「駆け出し冒険者は博物学者!?」
45/368

第41話 ダンジョンへの旅路

第07節 ダンジョンアタック!〔3/5〕

☆★☆ ★☆★


 いきなりだが、ここでこの世界の(こよみ)についてを説明しよう。

 この世界(この国)の暦は、基本的に月齢に合わせる『太陰暦』が使用される。つまり、一ヶ月は29日乃至(ないし)は30日となる。

 しかし何年かに一度閏月(うるうづき)が挿入されるのだが、「何月と何月の間に閏月が挿入される」かは王都精霊神殿の天文官が決定する。


 閏月挿入のルールはあるようだが、詳しい計算を理解出来る人は少なく(19年に約7回挿入される。どの月の後に閏月が挿入されるかは、その年によって違う)、地方では難しいことは言わずに閏月がある年は13ヶ月目に挿入する。結果、王都の暦と地方の暦がずれてしまうことになる。

 よって、一年を三ヶ月ごとに区切り、「春の一の月」「春の二の月」「春の三の月」と呼ぶようにするのが一般的である。なお閏月がある年は、「(とし)(すえ)の月」が追加挿入される。


 また斯様(このよう)に計算が難しいことからも、一般市民にとって暦はあまり馴染(なじ)まない。「ひと月=(イコール)月が一(めぐ)り」「一年は春夏秋冬の四季」「新年は全国共通」これだけで充分なのである。


 それもあり、新年、春分、夏至、秋分、冬至、の5節気は盛大に祝うのである。


★☆★ ☆★☆


 俺がハティスの街に入ったのが、カナン暦697年夏の一の月のはじめ。

 そして、迷宮(ダンジョン)踏破を目論(もくろ)み街を出たのが、697年秋の三の月のおわり。

 まだ二つの季節しか過ごしていないが、気が付いたら随分と守るものが増えていた。

 もう一度会いたいと思える顔が増えていた。


 これまでの、生家での9年間はおろか、前世の数十年の人生でも、ここまで他人と深く関わったことはなかったと思う。


 だけどアリシアさんに言わせると、俺は子供たちの父親役なのだそうだ。

 なら、いつまでも実父の影を恐れている訳にはいかないだろう。

 そして、子供はいつか父親のもとを離れて独り立ちするものだ。

 なら、早いうちから『父親役』のいない日常を体験するのは子供たちにとっても悪くないことの(はず)


 セラさんの孤児院にお邪魔するようになり、「守りたい」と思えるものを見つけた。

 けど、それより早く、現世の俺がこの世界で自我を持った時に望んだことは、「この世界を知りたい」だ。


 この世界を知る為に、この世界と前世()の世界の最も大きな違いの一つ、迷宮(ダンジョン)()りたい。それが、ダンジョンを目指す、最大の目的なのだから。


◇◆◇ ◆◇◆


 ダンジョンへの道行きは、思った以上に順調である。

 盗賊や野獣との遭遇(エンカウント)があるかと思ったがそれもなく、襲われている貴族の馬車を颯爽(さっそう)と助け馬車の中の美女に感謝されるといった場面(シチュエーション)もない。

 精々(せいぜい)食用に足る鳥獣を狩り、孤児院の子供たちへのお土産にしようとほくそ笑む程度である。


 だから歩きながら、いくつかの考察と研究を行った。


 ひとつは、魔石と神聖金属製の武具の性質について。


 これは、前提としてはどちらも性質は同じである。どちらも、使用者(着用者)の意思を(かな)える方向で周囲の魔力を誘導する。

 その為神聖金剛石(アダマンタイト)でコーティングされた戦闘(コンバット)ナイフは、自ら進み出て敵を切り裂くように動き、結果使い手の負担を最小とする。

 同じく魔石を埋め込んだ(レザー)(アーマー)は、豚革(正確には魔猪(ボア)の革だが)独特の軽さと柔らかさと通気性の良さ、そして耐久性の高さ(これは劣化し難いということであり、防刃性とか耐衝撃性を意味するものではない)を維持したまま、受ける衝撃を最小限にすることが出来る。


 このことから、目論(もくろ)んでいたある魔法の研究を休止することにした。

 考えていたのは、斬撃を無属性魔法で強化出来ないか、ということ。


 現在戦闘に使用する無属性魔法は、次の通りである。


Lv.1【物体操作】

 派生01.〔肉体(セルフ・)操作(マリオネット)

 派生02a.〔投擲(エイミング)

 派生02b.〔穿孔(ペネト)投擲(レイター)

 派生02c.〔突撃(チャージング)


 これの派生02d.として、『斬撃(スラッシュ)』という魔法を研究していたのだが、“叩き斬る”と“撫で斬る”の刃の動きは大きく違う。撫で斬る動きを大げさに表現すると、目標に当たるまでは直線で、ぶつかった(インパクトの)瞬間から手前に引く、という動作になる。

 この二方向の運動を、瞬時のズレもなく適切なタイミングで行えるように事前に登録(プログラミング)する。……どう考えても無理がある。

 投げて、投げっ放しで終わる〔投擲〕や〔穿孔投擲〕、ぶつかって、止まって、引く〔突撃〕とは術の繊細さがまるで違う。またリアルタイムで制御出来る〔肉体操作〕ほどの猶予もない。そんなことを考えるくらいなら、むしろリック親父に「回転(のこぎり)」でも作ってもらった方がよっぽど有用だろう。

 結局、今はまだアダマンタイトの性質に頼ることにして、身体の成長を待つことにした。


 とはいっても、魔法そのものの研究までは()めるつもりはない。


 固体操作たる【物体操作】は、もはや応用段階に入っている。

 そして、その“次”と()える「無属性魔法Lv.2【群体操作】」も、実は既に完成している。

 ところが、これは使い勝手が非常に悪いのだ。

 群体操作とは、砂とか石とか、同種同サイズ無数の物体を、それ全体で一つと見做(みな)し、一体の物として操作する魔法なのだが、「それが一体何になる?」というのが実際のところ。


 「同種同サイズ無数」とは、術者の主観に()るから、例えば「土」もこの魔法で操作出来る。ではそれで何が出来る?

 この魔法を使ってやったことは、実は孤児院の、肥溜(こえだ)めにする穴を掘ること。

 つまり土木作業には向くが、それ以外に使いでのない、無駄魔法になってしまったのである。

 まぁ「同種同サイズ」は術者の主観に拠るから、砂の中から砂金や砂鉄を探し出すことは出来る、と考えると、結構有用と言えるかもしれないが。でもダンジョン攻略の役には多分立たないだろう。


 目下(もっか)の研究テーマは、「無属性魔法Lv.3【流体操作】」。

 これは、完成すればおそらく有用性は高い。

 何故なら、水属性魔法は水と氷を(つかさど)り、「水を呼び出し、操作する」ことを原則としている。その、「操作する」の部分を無属性で模倣(エミュレート)するのだ(実を言うとLv.1【物体操作】とLv.2【群体操作】で、土属性魔法は模倣出来る。とはいえかなり精緻に魔法理論を設計しないと面倒なことになるが)。

 「水を呼び出す」という内容は今回期待していない(これが【流体操作】で実現出来るものではないことは、前世地球の初歩の科学知識に照らせばすぐにわかるから)。そして「水」ではなく「流体」を操作出来るということは……。


◇◆◇ ◆◇◆


 そんな益体(やくたい)もないことを考えながら歩きつつ、ハティスの街を出て4日目の夕刻。『鬼の迷宮』の門前町に到着した。

(2,922文字:2015/09/26初稿 2016/02/01投稿予約 2016/03/21 03:00掲載 2016/03/21語尾修正 2016/05/20誤字修正(カナン歴→カナン暦) 2016/10/11誤字修正)

【注:冒頭の暦は、太陰太陽暦(天保暦)を参考にしています。なお日本で太陰暦が廃れた理由の一つは、その暦の計算の複雑さにあるという説もあるようです】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 転生者は魔法学者!?という題名を見て魔法を研究していくのかと思って期待したんでですけど41話まで見て未だに魔法を研究するとかそういうのがないんですけど、何話くらいからそういうことし始め…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ