表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第一章:「駆け出し冒険者は博物学者!?」
40/368

第36話 商人ギルドにて・1

第06節 商会「セラの孤児院」〔6/8〕

「ようこそ、ハティスの商人ギルドへ。ご用件をお伺いします」


 商人ギルドに到着し、そこの受付窓口で早速用件を口にした。


「商売を始める為、ギルドに登録しに(うかが)いました」

「かしこまりました。まず主たる事業の内容を教えてください」


「え? そんなことも言わなきゃならないのか?」

「そりゃそうですよアリシアさん。事業の内容次第で当局の扱いが変わるのは当然です」

「どうしてなの? 商売なんて皆同じじゃないの?」

「それはですねセラさん、むしろ普通の商店なら仕入れて売れば良いけれど、料理の腕もない男がいきなり料理屋をやりたい、なんて言ったらどうです? 料理屋と言いながら給仕の女の子に春を売らせて上前(うわまえ)()ねるとか、単純に悪事に使う為にギルドカードを手に入れて店も出さないとか、そういうことになってしまうかもしれないんです。

 或いは基礎知識もなく薬草屋をやると言い出して、そこらの雑草を病気によく効く薬と(いつわ)って高く売りつけるとか。


 商人ギルドのギルドカードは、冒険者ギルドのギルドカードなどと比べて高額な登録料を請求されますが、その分第三者に対する信用は高いんです。『こんな高額の登録料を支払ってまで悪事に加担する(はず)はない』と。

 一方で魔術師ギルドや鍛冶師ギルド、大工ギルドのように特定の技術を要求される訳でもありませんが、登録すれば出来ることが多くなります。

 悪事に利用したいと思う連中は、だから商人ギルドを選ぶんです。

 商人ギルドも、それを踏まえてその事業を(いとな)むに(あたい)する知識や技術、或いは経験があるかどうかを確認する必要があるんです」


「昨日まで商人ギルドを知らなかったくせに、どうしてそんなに詳しいんだ?」

「知識としてはありました。ただ、何処(どこ)まで厳密に対応するのかは知りませんでした。

 (たち)の悪いギルドだと、相手の素性も確かめずにギルドカードを発行することもある筈ですから、こちらの窓口の方の最初の一言で、このギルドは厳正に商人たちを管理していることがわかったんです」


「お()め戴き光栄の至り。

 (わたくし)としても、説明の手間が(はぶ)けて助かります」

「いえこちらこそ。こちらの知識は書物から得た知識に過ぎません。間違っていたら正してくださると助かります。


 で、ギルドからの確認事項についてですが、


 商会名:『セラの孤児院』

 店舗所在地:ハティスの街南区画『セラの孤児院』内

 事業内容:1.服飾事業の下請け・卸、2.食肉加工の下請け・卸、3.動物由来素材の卸、4.魔獣由来素材の卸、5.薬草・香草の卸・小売り、6.特定燃料等の製造・販売、7.学校事業、8.その他前各号に附帯する一切の事業

 役員:セラ、アリシア、アレク

 代表役員:セラ

 出資者:アレク


 事業内容一覧の裏書きは、服飾事業に関しては【ミラの店】、食肉加工に関しては【テッドの食肉店】、動物由来素材・魔獣由来素材に関しては冒険者ギルド、薬草・香草等に関しては【ナラク婆の薬草店】、特定燃料等に関しては鍛冶師ギルド、がそれぞれ行ってくれる筈。学校事業に関しては裏書を頼める相手がいないから、事業を本格的に開始する際は監査の対象になることを承諾する。


 会計報告は年一回。年が明けて、月が二巡りした(ふたつき)後。最初の会計報告はカナン暦698年春の二の月末。

 役員の解選任等は役員会で決議の後ギルドに登録することを(もっ)て効力を発する。


 ……こんなところですか?」


「……色々と聞きたいことが出てきましたが、()()えずこちらから確認しなければならないことは全部入ってますね。

 実際役員の解選任等の規定を報告する商人などいませんし、事業内容の裏書なども特殊な場合しか求めませんよ。

 あ、でも冒険者ギルドと鍛冶師ギルドの両方を裏書人に指名するってことは、それらのギルドにも登録なさっているんですか?」

「あ、そうでした失礼しました。こちらが冒険者ギルドのギルドカード、こちらが紹介状です。鍛冶師ギルドは純粋な取引相手であってギルドメンバーではありません。ギルドマスターにアレクの名で問い合わせれば確認が取れると思います。またここで挙げている特定燃料等は鍛冶師ギルドの秘匿(ひとく)事項に関わってきますので、詳細は鍛冶師ギルドに問い合わせ願います」


「ギルドカードと紹介状を預かります。おや、銅札(Cランク)ですか。

 事業形態は……基本的に卸売りですね。市場(いちば)に店舗を持ちますか?」

「今日昇格したばかりですけどね。いえ店舗は必要ありません。薬草等の小売りに関しても、冒険者相手を想定していますから」


「わかりました。

 それから、会計報告が春の二の月となっていますが、当ギルドでは春の三の月までとなっていますので、それほど急がなくて大丈夫です。


 それから、会計士――会計帳簿作成担当者――をギルドから派遣することになりますが、指名はありますか?」

「必要ありません。これが予測最初事業年度収支報告書、これが事業開始時点財産内容報告書、これが開業準備期間仕訳帳でこちらが同期間総勘定元帳です」

「……確かに、ギルドの様式に似ています。確認させていただいても宜しいですか?」

「はい、提出用に持参したものです」


「ですが貴方自身についても確認する必要がありますね。アレクさん、貴方はどの商人からこれを学びましたか?」

「誰からも」

「そんな筈はないでしょう? だってこれは……」

「商人ギルドの秘儀(ひぎ)、ですか?」

「そうです。門外不出の秘術です。それを知っている貴方は一体」

「先程事業内容の説明で、鍛冶師ギルドの秘匿事項を扱う、と(わたくし)は申し上げました。

 その件も同様に鍛冶師ギルドで問題になりました。だから鍛冶師ギルドと同様のやり方で返事をしましょう。


 先程、(わたくし)の作った帳簿書類をギルドで確認する、とおっしゃいましたね。

 存分に精査してください。おそらく、貴方がたの知らない単語や用語、知らない計算方法や概念が出てくる筈です。

 知識というモノは、それを教えた誰かより多く(たくわ)えることは出来ません。

 商人ギルドが知らない知識は、(すなわ)ちギルド以外の場所で生まれた知識ということです。

 帳簿の書き方が商人の秘匿事項だというのなら、商人が知らない帳簿の書き方について『知的所有権』を主張したいですね。


 はっきり申し上げまして、商人ギルドと喧嘩するつもりはありません。(むし)ろ、(わたくし)の帳簿の書き方で気になることがありましたら聞きに来てください。吸収したいことがあったら学び取ってください。

 (わたくし)もまた、ギルドの商人たちのやり方を学びたいと思っています。

 お互いに知識を交換しながら、より優れたものを生み出すべきではありませんか?」


「わかりました。ではこれらの書類は預からせていただきます。

 それから、『セラの孤児院』に対するギルドカードの発行は、これら書類の確認が終わるまで留保させていただくことになりますが、ご理解願います」

「当然ですね。では知識に関する裏書人として、【リックの武具店】のシンディさんを指定します」

「かしこまりました」


 そして、冒険者ギルドのギルドカードは返却され、三日後の来訪を予約して商人ギルドを退去することになった。

(2,996文字:2015/09/22初稿 2016/02/01投稿予約 2016/03/11 03:00掲載 2016/03/11誤字訂正 2016/05/20誤字修正(カナン歴→カナン暦))

【注:ギルドからの確認事項に対するアレクの返答内容は、日本の商業登記簿記載事項と会社定款記載要項からアレンジしています。

 また下記コメントの「会計で冒険者を強くする」は、税理士集団『TKC全国会』(http://www.tkc.jp/)の平成26年の年度重要テーマ「会計で会社を強くする」のもじりです】

・ アレクは、実は商人ギルドのことを何も知りません。けど「商人ギルドというモノがあるのなら、こういうことをしている筈だ」という想定の下、まるで知っていることのように自分の想像内容を口にしているだけです。結果大きく外れていないから、「何でも知っている」と思われてしまうのです。

・ この時代、減価償却という概念は商人たちの中に存在しません。また、一般管理費をどこまで経費とするのか、具体的には接待交際費は経費に含まれるのか、教育訓練費の扱いは、など日本の簿記とは考え方から違うところが多くあります。アレクはそのあたりをどこまで調整しているのか、については(この物語のテーマは「会計で冒険者を強くする」ではありませんので)省略します。「まぁ上手いことやってるんだな」程度に考えてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ