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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第36話 留守居役の戦い

第08節 銃後の乙女たち〔1/4〕

◆◇◆ ◇◆◇


 時は戻って、新暦2年10月1日(カナン暦707年秋の二の月の25日目)。ドレイク王国軍がネオハティスから出陣した、その日。


 往来の少ない裏通りの一角から、(ハト)が3羽飛び立った。

 その鳩は、まず南西ボルド市の方向に向かい、ボルド河上空で東に方向転換し、河を(さかのぼ)り、ネオハティス市の東端のあたりで、


 矢のように飛んできた魔鷹(ホーク)に、問答無用で撃墜された。

 魔鷹(ノトス)は3羽の獲物を器用に(つか)んで街に戻り、その足首を()千切(ちぎ)り、胴体部分はその場で美味しくいただいた。


 そして、鳩の脚に結ばれていた3通の紙片を(くわ)え、トットと跳ねながら、街の大通りを進んで行った。


 と。


「あ~っ! ノトスだ!」


 街の子供たちに、その姿が見つかってしまった。


 勿論(もちろん)、飛んで逃げることなどは造作もない。が、彼は街の子供たちが好きだった。だから、子供たちを悲しませるようなことを、したくはなかったのだ。

 だから、跳ねるのも止め、よたよたと(鳥の脚は地面を歩くようには出来ていない)子供たちの歩幅に合わせて歩くことにした。


 けど、子供たちはこちら(ノトス)の気持ちなどお構いなく突進してくる。

 そのうちの一人の女の子は、そのままノトスの進路を逆走してくる。このままではぶつかる。


 仕方がなく、ノトスは直前で半円を描くように回避する。

 すると、女の子は今更ながらぶつかりそうだったことに気付き、ノトスを避けようとするが、当然急な進路変更は姿勢を崩し、ノトスの上に倒れ込むように転んでしまった。

 しかしノトスは、そうなることを予測していた。翼を広げ、(ひと)羽搏(はばた)き。

 倒れ込む女の子を、翼の揚力で支え、結果その子を(背面のまま)背負う形になってしまった。


 これはこれで、(むし)ろ面倒が少なくなった。

 そう思ったノトスは、翼を広げて女の子を背負ったまま、トットと跳ね歩くことを再開した。


 女の子は、まず転んだ(はず)なのに痛くなく、しかし背中は柔らかく温かいことに気付き、そこがノトスの背中の上だと理解して歓声を上げた。

 向きを変え、お腹を下にして(しかしその背から降りるなどという勿体(もったい)無いことはせず)彼のサービスを歓迎した。


 面白くないのは、周りにいる他の子供たち。「ズルい、(ずる)い」と不満を口にしながらノトス(と女の子)を追いかけた。

 結局、適当なタイミングでノトスの背に乗る子供は交代することになり、何度かそれを繰り返しながら街の中心部までやってきた。


「……なに、やってるの?」


 そこに偶然出くわした、冒険者ギルドのギルマス(オードリー)には(あき)れられたが。


◆◇◆ ◇◆◇


「ごめんね、キミたち。彼はこれからお仕事なの。

 また今度(ヒマ)なときに遊んでもらいなさいね」


 ノトスの(くちばし)に紙片があることに気付いたオードリーは、そう言って子供たちを散らし、


「その紙片。私が見て良いもの? それとも市長代理(セラさん)に見せるべき?」


 と聞いたところ、ノトスはオードリーに向けて嘴を突き出したので、遠慮なくその紙片を受け取ることにした。

 そしてその場で開いてみたところ。


「……ドレイク軍進発をカナリアに告げる、密書、か。ノトス、お手柄ね。

 けど、王様(アディくん)のところには行かなくて良いの?」


 ピイ。と一声鳴いて、ノトスは翼を広げて軽く羽搏いて見せた。

 どうやら行こうと思えばいつでも行けるから、今はまだのんびりしているのだと言いたいようだ。


 実際、ノトスはアディの〔眷属(けんぞく)召喚〕で()び出された魔物である。

 だから、どれだけ離れていてもアディの喚び声は聞こえるし、それこそ因果律さえ無視して(アディ)(もと)に駆け付けることが出来る。

 だから、喚ばれていない以上、どこで何をしていても、誰も何も困らないのだ。


「そ、か。じゃぁ鳩がどのあたりから飛び立ったか、ノトスはわかる?」


 この有能な魔鷹がそれを(おさ)えていない筈がない。そう確信して、それを問うたところ。


 ピィ。


 一声鳴いて、向きを変えた。


「あ、ちょっと待って。その前に寄るところがあるから」


◆◇◆ ◇◆◇


 オードリーが、ノトスを(ともな)って訪れた先は。

 花街に程近いところにある、一軒の酒場であった。


「こんにちは。マスターはいらっしゃる?」

「まだ日は天辺(てっぺん)まで来てもいねぇよ。

 酒場が開くのは日が暮れてからだ。夜にまた来るんだな」

「そういう訳にもいかないの。大至急、マスターに繋ぎを取ってください。

 ネオハティスの冒険者ギルドのギルドマスターが、盗賊(シーフ)ギルドのギルドマスターに緊急依頼がある、との伝言を()えて」


◆◇◆ ◇◆◇


「まさか、気付かれているとは思わなかったぜ」

「冒険者ギルドにも、独自の情報網というものがあります。

 貴方がたがボルドにいたときから、貴方がた盗賊ギルドの存在は認識していました。

 貴方がたがネオハティスに移り来た時も、ボルドの冒険者ギルドから連絡がありましたし。

 あまり、冒険者ギルドを()めてもらっては困りますよ?」

「つまり、俺たちは泳がされていたということか」

(いいえ)。陛下が貴方がたを受け入れたのと同じように、私たちも貴方がたと全面的に敵対する理由はなかった、というだけのことです。

 冒険者も、『ならず者』という意味では貴方がたと大きな違いはありませんからね」

「そういうことか。


 それで? さっき『依頼』と言ったな?」

「その前に確認です。

 陛下が貴方がたをこの街に招いた、その目的は――」

「それは言えねぇよ」

「――、当然ですね。ではYes/Noで答えてください。

 裏街と闇ギルドの管理。間違いありませんね」

「……それも、答えられねぇな」

(いえ)、それで充分な答えになっています。


 では、依頼の内容ですが。

 陛下の先触れたるノトスが、カナリアの密偵に繋がる糸を見つけました。

 探し出して闇に(ほうむ)ってください」

「……どうやって、見つけ出した?」

「鳩を飛ばしたようです。

 鳩は、ボルド河上空でノトスが始末し、その紙片はこちらで押収しました。

 そして鳩を飛ばした場所は、ノトスがわかります。

 その周辺を探れば、密偵の潜伏場所がわかるでしょう」

「……おっかねぇ。

 殺戮(キリング)山猫(リンクス)だけじゃなく、魔鷹(タカ)も従える、か。

 俺たちにとっても、見逃される程度の小悪党でいるうちは居心地の良い街だが、その範囲を一歩でも踏み出せば、どうなることやら。

 だがまぁ了解した。

 俺たちだって、この居心地の良い街を壊したくないからな」


 そして、二三(報酬の事とか、成果報告の仕方とか)を打ち合わせた後、ノトスを酒場に残してオードリーは立ち去った。


◆◇◆ ◇◆◇


 表が男の戦いの場ならば、裏は女の戦いの場。

 男たちが安心して(たたかい)に出られるように、(まち)を守るのは女の役目。


 町に残った女たちは、それぞれのやり方でそれぞれの戦いに(おもむ)くのであった。

(2,878文字:2016/10/24初稿 2017/09/30投稿予約 2017/11/27 03:00掲載予定)

・ ネオハティスでは、鳩は「平和の象徴」ではなく、単純にノトスのご飯(おやつ)です。寧ろ「友愛(わざわい)の象徴」かも(笑)。

・ ノトスの身長は、嘴の先から尾羽の先まで、約140cm。身長100cmそこそこの子供を背に乗せるくらい、造作もありません。ノトスの体重は20kgを超えますから、実は一般成人男性を持ち上げられるくらいの力はあるんです。背に乗せて地面を歩くと、背骨と脚にキますけど。

・ この日、ノトスに遊んでもらった女の子は、空と翼に夢を馳せ、有翼騎士の道を志した、とか。

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