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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第33話 三竦み

第07節 囚われの姫と白馬の騎士(後篇)〔5/7〕

☆★☆ ★☆★


 行動を起こす前、事前情報と予測に基づき計画を立てる。

 しかし、いざ実行となったとき、計画通り事が運ぶことは(まれ)である。

 どれだけ大量の情報と綿密な予測を基にして計画を立てても、それは計画通りに進む裏付けになりはしない。


 では、計画を立てることは無駄なのだろうか?

 そうは思わない。計画を立てずに行き当たりばったりで行動していれば、いつか行き詰ることになる。

 けれど計画を立ててさえ置けば、現実が予測と違っていても、既存の計画を修正するだけで事足りる。それが微調整で済むか大胆な変更を要するかはまた別の話だが。


★☆★ ☆★☆


 有翼騎士(メイド)(たい)からの報告を受け、頭を抱えたくなってしまった。

 本来ならこの後アプアラ領に直行して、そしてオークフォレストを経由してネオハティスに帰ってこの戦争は終わった(はず)なのに。


「どうした?」

「あぁルビー。また計算違いがあってね」

「今回は計算違いが多いな。今度は何が起こった?」

「『第二次アプアラ独立戦争』の時みたいに、計算違いが生じる時間的余裕もなく終わらせられた訳じゃないからね。時間が掛かればそれだけ誤差も増えていくよ。


 実は、アプアラがシュトラスブルグ市郊外まで出兵して来ている」


「……それが問題なのか?」

「大問題。今、シュトラスブルグを攻略する(おとす)理由は無いんだ」


◆◇◆ ◇◆◇


 現在、ロージス領都シュトラスブルグの執政は、カナリア公国の官僚である。が、シュトラスブルグ市内にいるロージス軍は、(さき)の「三方ヶ原(みかたがはら)の合戦」での敗残兵と残留部隊の混成。実働可能数としては一万一千ほどだが、それは負傷していても防衛戦に参加出来る兵士は戦力に勘定した結果の数字なのである。

 そして市郊外で、リングダッド軍一万二千とアプアラ軍(正しくはアプアラ・ビジア連合軍)六千が(にら)み合っている。


 普通、攻城戦には守備側の三倍の兵力が必要と言われている。

 しかし、現状を考えるとリングダッドもアプアラも、一定の犠牲(ぎせい)を許容すれば、現有戦力で陥落させ得るのだ。

 が、陥落させることに成功しても犠牲が生じていたら、今度はその軍が残った軍に対し抗する力を残せない。

 そして、現在カナリア本国から増援(という名のドレイク軍を追撃する為の部隊)が八千、シュトラスブルグに向かっており、到着したらリングダッドとアプアラが共闘しても勝利は覚束(おぼつか)ない(シュトラスブルグを陥落出来(おとせ)ない)ということになる。

 とは言っても、ドレイク軍が念入りに通商破壊した為、シュトラスブルグには万を超える軍兵を(よう)することが出来るだけの糧秣(りょうまつ)は、既に無い。どころか現状のままでは、市民が冬を越すことさえ難儀するという状況なのである。


◇◆◇ ◆◇◆


「つまり、今のシュトラスブルグは、それを掌握(しょうあく)した軍が敗北する『毒饅頭(どくまんじゅう)』でしかない。

 だから放置して俺たちは帰国し、出来れば来年の春頃までリングダッドと睨み合っていてほしかった。そうすれば後は、(ほとん)ど苦労なくアプアラなりローズヴェルトなりにロージスの支配を(ゆだ)ねられたんだ。

 だけど、ここでアプアラが出兵した。その出兵意図(いと)を考えれば、手ぶらで帰国することは有り得ない。彼らはそうとは知らず、自らの意思で毒饅頭争奪戦に参加してしまったんだよ」

「アプアラの出兵意図、とは?」

「ドレイク王国に対する、『恩返しの押し売り』だ」

「……お前が、『恩とは押し売りするものだ』と教えた所為(せい)じゃないのか?」

「そう言われると、返す言葉もないね。


 ともかく、アプアラの目的を果たし、且つ彼らの被害を最小限に食い止める為には、ドレイク軍も毒饅頭争奪戦に参加する必要がある」

「……どうしてそうなる?」

「毒饅頭の『毒』は、俺たちにとっては毒じゃないからさ」

「何故?」

「その『毒』の正体は、飢餓(きが)だ。

 通商破壊の結果、市中の(くら)兵糧(ひょうろう)が無い。(いや)、兵の糧食(りょうしょく)のみならず、市民の(かて)さえないだろう。商人さえも輜重(しちょう)輸卒(ゆそつ)看做(みな)して徴発(ちょうはつ)の対象にしたからね。

 では、徴発された、シュトラスブルグに運び込まれる予定だった物資は、今どこに?」

「そうか、我々が保管しているのか」

「そう。


 だから俺たちが市内に入り、カナリア軍を放逐(ほうちく)した後。そうだな、宣伝効果を考えて、旧ロージス領の次期領主夫人であったルーナ王女が、ドレイク軍に懇願(こんがん)した結果、ドレイクは国庫を開放してシュトラスブルグに食料を提供した。という筋書きを(えが)くことが出来るんだ」

「……(れっき)とした自作自演だな」

「そのとおり。実態は、盗賊が収奪物を本来の持ち主に返還するだけのことだけど、政治と外交のオブラートに包むと美談になる。

 とは言っても、市民のドレイクに対する評価はやっぱり軍事力を(もっ)て攻め立てる野蛮人、でしかないと思うよ。


 ドレイクとアプアラは侵略者で、カナリアは圧政者。リングダッドは盗賊団。

 だけど、ルーナ王女は悲劇の次期領主夫人で、市民にとっての救世主。

 そのルーナ王女のおかげでドレイクとアプアラは(ゆる)しの対象と成り得る。今後の統治次第だろうけれど。

 そして、それがアプアラの、ロージス支配の基盤になる、という訳だ」


「だが、最初のステップをどう乗り越えるか、まだ聞いていないぞ。

 我々ドレイク軍も、犠牲覚悟で突撃するのか?」

「んな莫迦(ばか)な。

 近衛(ゴブリンエリート)を乗せた有翼騎士(メイド)たいが、深夜にシュトラスブルグ城に直接侵入して、朝までに制圧した上で市門を開放し、ドレイク・アプアラ両軍を招き入れて再び市門を(とざ)す。

 それから改めてカナリア軍を市外に退去させ、そこから防衛戦を始めることになる」


「……攻城戦、というのは、それほど簡単なものだったのか?」

リーフ王都(ワルパ)の時と、基本的には同じだよ。

 この世界の城は、対空防禦(ぼうぎょ)を想定していないからね。

 防禦の厚い外縁(がいえん)部を無視し、真っ直ぐ本丸を落とす。

 文官と将官を拘束すれば、それで終わる。退去時に武装解除しない、丸一日は追撃しないなどの条件を加えれば、退去に混乱が生じるとも思えない。

 こっちは市内の治安回復に一定の時間を必要とするからね」


◆◇◆ ◇◆◇


 新暦2年11月7日早朝。

 ドレイク軍による夜襲を前に、シュトラスブルグは(ほとん)ど抵抗なく陥落した。

 小規模な戦闘は城内と市門のあたりで行われたが、そこでも死傷者を出さずに鎮圧することが出来た。

 市門での戦闘を行ったのは、有翼騎士メイドたち。使用した武器は、刺叉(さすまた)

 カナリア軍は、市中からの攻撃を想定していなかったことと、有翼騎士たちが必ず二人乃至は三人で一人のカナリア兵と戦った為、ドレイク軍側の被害は全くなかった。

 そして、リングダッド軍が異変に気付く前に、アプアラ・ビジア連合軍の全軍を市内に引き入れることが出来たのであった。

(2,945文字:2016/09/30初稿 2017/09/30投稿予約 2017/11/21 03:00掲載予定)

・ リングダッド軍がロージスに進出してきたことで、カナリア軍(とシュトラスブルグ市民)は尽きた備蓄の前で餓死するより他は無かったでしょう。そしてそれがアディの当初の戦略でした。が、流石(さすが)賢者姫(ミリア)(いえど)もアディがリングダッドを利用した『(かつ)え殺し』まで目論んでいるとは思わなかったようで。

 敵がいなければ軍を置く必要はないから、市内の必要物資量は必然的に少なくて済む。また領内に敵がいないのなら、近隣の町村から徴発することも出来た。リングダッドが漁夫の利を目論んで進軍してきたことで、『(かつ)え殺し』が成立するのです。

・ アプアラ出兵の結果、ドレイク軍にとって成果が上方修正されたか下方修正されたか。手間は、明らかに増えています。が、時間が経過すれば誤差も増えると考えると、春までにカナリアなりリングダッドなりが戦力を増強している可能性もあります。そして、シュトラスブルグ市民にとっては、明らかにプラス。つまり、アプアラやドレイクが憎悪の対象にならずに済む可能性が、かなり高くなりました。総括すれば、「余計なことを、とまでは言えない」というのが結論です。

・ 市門近くで「戦闘」と呼びうるものは殆ど起こらなかった模様。有翼騎士(メイド)たちは、必ず複数対一になる状況を確保するよう命じられていました。例えば二人組のカナリア兵を分断する為に、「女の魅力」を使おう⇒軍服(メイドふく)を着ていたのでは、違和感ありまくり。着替えなきゃ⇒軍服を脱いだ後、「わざわざ普通の服を着なくても、下着の上にシーツ一枚纏った姿の方が、効率的じゃない?」と。事実上のハニトラでカナリア軍数個部隊を無力化(骨抜きに)した、ほんの10人足らずのメイドさんたちテラコワス(笑)。

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