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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第29話 アプアラ、動く

第07節 囚われの姫と白馬の騎士(後篇)〔1/7〕

◆◇◆ ◇◆◇


 此度(こたび)のドレイク軍カナリア侵攻に際し、ボルド市評議会は戦わず静観することを選んだ。


 では、ドレイク王国と所縁(ゆかり)の深い、他の国はどうしたのであろうか?


◆◇◆ ◇◆◇


 カナン暦707年秋の二の月の三日目(新暦2年10月9日)。

 ビジア独立自治領の領都オークフォレストに、意外な客が訪れた。


 アプアラ王国国王、リクハルド・カトゥカその人である。

 しかし彼は、領主たるユーリを無視して、まずはその妻であるミリアに声をかけた。


「賢者姫にはご機嫌(うるわ)しく。

 伯子殿下も(すこ)やかなご様子、お(よろこ)び申し上げます。

 そして、王配……ではなく領主殿もお変わりないようで」

「一応この領の(あるじ)は私なのだが。

 若輩(じゃくはい)とはいえあまり軽んじられたら面白くはありませんね」

「私にとって、『ビジア領主』を(あなど)る理由など百も思い付きますが、

 『ドレイク王の義妹御(いもうとご)』にして『賢者姫』である女性を侮る理由は、一つも見出(みいだ)せません。

 ビジアの今日(こんにち)があるのは、賢者姫の叡智(えいち)とその人脈あってのモノ。そのことがわかっていないとは言わせませんよ、ビジア領主ユーリ・ハーディ卿」


 この数年、この領を守る為に奔走(ほんそう)していたのは一体誰だ。

 言葉にしなかった本音と共に、一種の(さげす)みの色が見えた。

 けれどそれに対して反論したのは、他でもない領主夫人(ミリア)であった。


「でしたら私を領主夫人に()えた、ユーリ様の慧眼(けいがん)を評価してくださっても良いのではありませんか、リクハルド陛下。

 陛下は貧民街(スラム)出身・孤児院育ちの侍女(メイド)どころか、伯爵家の庶子(しょし)であっても市井(しせい)(くだ)り冒険者となった相手なら、声をかける価値もないと判断なさったのでしょう?

 なら陛下は生まれや立場で相手を評価する、何処(どこ)にでもいる平均的な貴族でしかなかった、ということではありませんか」


「確かにその通りだ。

 ビジア領主ユーリ・ハーディ卿、貴卿に対する無礼な振舞(ふるま)い、撤回して謝罪しよう」

(いえ)(おっしゃ)る通り、私は領主としても『賢者姫』の夫としても、まだまだ未熟ですからね。仕方がありませんよ。


 今も、義兄(にい)さんが戦地に()るのに、出来ることを見つけ出せないでいる。

 ここで恩の一つでも返しておきたいところなのに、気持ちが()いて、思考が空回りする。


 情けないモノですよ」

「なら、ちょうど良いかもしれないな。


 アプアラは、出兵を決めた。

 ビジアにも、協力を要請したい」


 アプアラが、動く。


 『賢人戦争』『アプアラ独立戦争』『十日(とおか)間戦争』と、最近のアプアラはビジアから見たら連戦連敗だが、それは相手が悪かったとしか言いようがない。

 『賢人戦争』と『十日間戦争』はともに、()の『剣聖殺し』が実質的に軍配(ぐんばい)を振るっていた。あのチート軍師相手の戦績は、戦力評価の対象にすべきではなかろう。一方『アプアラ独立戦争(第一次)』に於いては、リーフ王国相手に二年近く戦い続けたということを考えれば、最終的に敗北の()き目を見たとしても、それだけを理由にその戦闘能力を脆弱(ぜいじゃく)と断ずることは出来ない。


「は? それはどういうことですか?」

「ドレイク軍がカナリア公国を荒らしまわっているうちに、ロージス地方を切り取る。

 ドレイク軍の強みである神速の用兵は、敵地占領を全く考えないことにより成立している。

 なら今ロージスに兵を出せば、純粋な戦闘力より治安維持戦力で占領出来る、ということになる」

「それは(すなわ)ち、義兄(にい)さんが荒らして放置した土地を(かす)()る、ということですか?」

「そういうことだ」

「そんな、火事場泥棒みたいな真似をして、恥ずかしくないのですか?」

「感情に任せて()え掛かる前に、隣の賢者姫にアプアラの此度(こたび)のロージスへの派兵(はへい)の大局的な意義を問うてみたらどうだ?」


 カトゥカ卿は、賢者姫(ミリア)を評価している。

 あの、ベルナンド辺境伯家の鬼子(おにご)が、その思考法の全てを伝えたと()われる賢者姫。軍事的な才能は然程(さほど)でもないが、その一方で現場にあってさえ「官僚(かんじょうを)的に(はいして)軍を差配(さはい)する」ことが出来る視野の広さを持っている。なら、気付く(はず)だ。


「旦那様。

 今アプアラが、ドレイクの背中を狙う理由はありません。

 仮にそのような悪辣(あくらつ)なことを考えているのだとしても、そこに(はべ)有翼(ドレイクの)騎士様が、それを見逃す筈もありません。

 ならそれは、ドレイクの利にもなることです。


 そして、今アプアラがロージスを占領することで、ドレイクにとってどのようなメリットが生じるのか。完全支配地ならともかく、昨日今日ようやく占領出来た程度の、治安維持も(まま)ならない土地など、ドレイクにとっては価値がありません。

 また、ローズヴェルト王国はメーダラ領の治安回復に手一杯で、ロージス地方に派兵する余力はありません。


 そう考えていくと、アプアラが出兵する理由は一つ。

 混乱に乗じて漁夫の利を得ようとする、リングダッド王国に対する牽制(けんせい)

 そういうことですね?」

(やかた)()りながら世界を見る。それこそが、()の王より与えられた『眼』という訳ですね。

 (おっしゃ)る通り、リングダッドが蠢動(しゅんどう)を始めました。

 これさえドレイク王の策略のうちなのかもしれませんが、――」

「――けれど、ここは恩返しの押し売り(どき)。そういうことですね?」

「そう考えます」


 ミリアの分析を聞き、リクハルド王の考えを理解し、ユーリもまた決断を下す。


「そういうことならわかりました。

 ビジアからも二千、兵を出しましょう。

 『フェルマール最弱』と(あざけ)られた兵ながら、同時に二つの(いくさ)をドレイク王と共に戦い、()の王の戦い方を肌身で知る者たちです。

 今やそこらの兵には負けることはないでしょう」

「頼もしい限りだな。補給はドレイクの有翼騎士団が協力してくれるという話だ」

「構わないのですか? その分前線が手薄になるのでは」


 疑問を、リクハルド王の(かたわ)らに侍る有翼騎士(メイド)に問うたところ。


「前線へも、本国から直接物資を輸送している訳ではありません。

 ロージス地方の、敵から発見され(にく)い場所に集積地(デポ)を作り、そこを中継点として前線に輸送しています。

 なら、輸送先がもう一つ増えたところで、それほど手間が増えるという訳ではありませんよ」


「では、準備が整い次第出発することにしましょう」


 こうして、アプアラ・ビジア連合軍も、ロージス地方に派兵することになったのである。

(2,861文字:2016/09/27初稿 2017/09/30投稿予約 2017/11/13 03:00掲載 2017/11/13誤字修正)

・ 「鬼子」とは、「親に似ていない子」という意味の他、「異端児」という意味があります。

・ 「輸送先がもう一つ増えたところで、それほど手間が増えるという訳ではありません」と現場の有翼騎士殿は仰っておりますが、補給計画を立てる後方では悪夢。用意する物資と補給ルートの設定並びにスケジューリングで、本国の主計官僚たちは徹夜を強いられていることでしょう。言い換えれば。「出来る」からこそ後方は大変なのですが。

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