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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第一章:「駆け出し冒険者は博物学者!?」
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第31話 合同依頼

第06節 商会「セラの孤児院」〔1/8〕

「後、ついでのようで何ですが、セラさんにも」

「え? 私にもあるの?」

「はい、料理包丁を打って貰いました」

「有難う。でもせっかくのアレク君からのプレゼント、使うのが惜しいかも」


「昔、俺の恩人が言っていた言葉なんですけど。

『道具は使う為にある。

 どんな良い物でも、どんな思い入れのある物でも、

 使われず飾られる道具は、(あわ)れでしかない。

 使いなさい。傷付けても構いません。壊してしまっても構いません。

 使うことで、その道具に生命(いのち)が宿るのだから』と。

 だから、是非使ってください」

「……これまで使っていた包丁がそろそろ駄目になりかかっていたから、丁度良いわ。大事に使うね」

「はい」


◇◆◇ ◆◇◆


 翌日。冒険者ギルドに行くとき、アリシアさんも付いて来た。


「試し斬り、するんだろ?

 なら万一の時のバックアップ要員がいた方が良い(はず)だ。

 というか、あたしもこの小剣(ショートソード)の試し斬りをしてみたいしな」


 そういう訳でギルドに足を踏み入れると、いつも以上に騒がしかった。


「何が起こった?」

大氾濫(スタンピード)だ。西の平原で犬鬼(コボルト)のスタンピードが始まったようだ。

 このままだと数日内にハティスに来る。そこで鉄札(Dランク)以上の冒険者で迎え撃つ予定で、その参加者を(つの)っているんだとよ」


「コボルトの数は?」

「ざっと50以上だ。ただ先日小鬼(ゴブリン)が近くの村を襲撃した時、その総数をギルドの連中は一桁読み違えたことがあったらしくてな、改めてその実数を精査しているんだとよ」


「お(あつら)え向き、と言うべきか、それとも時期(タイミング)が悪い、と言うべきか」

「ナイフが出来上がる前だったら、ちょっと面倒だったと思えば、悪くないタイミングだと思いますよ」

「と、言うってことは、参加決定、か?」

「俺はそのつもりです」

「よし、旅団(パーティ)Children(セラ) of ()Seraph(こどもたち)】は、コボルト討伐合同依頼(クエスト)を受注しよう」


☆★☆ ★☆★


 犬鬼(コボルト)

 小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)と並び称される人型魔物である。

 一族単位で群れることが多く、最大で1,000頭単位の群れも過去に発見されている。

 群れは最強の個体であるコボルト(リーダー)に率いられ、その群れの真ん中で戦う力の劣る雌性体(メス)を守る。

 基本的には【縄張り】を決めてそこで暮らすが、(まれ)に群れ単位で移動することもある。


 また例外的に、群れから(はぐ)れるコボルトもいるが、群れに付いていけない弱小個体か、逆に単独で生存出来るはぐれ(ロンリー)コボルトか、という具合に両極端なので、むしろ群れていないコボルトには注意が必要である。


 群れには時々、魔狼(ウルフ)を飼育するコボルト調教師(テイマー)という特異種もいる。


★☆★ ☆★☆


「先程斥候(スカウト)が帰って来た。

 西の草原で暴走中のコボルトは、総数おおよそ80頭。それに魔狼が200頭ほどいるから、テイマーが少なくとも4頭はいる。

 早ければ明日の深夜には、ハティスの街に到達する。

 それ(ゆえ)明朝に接敵し、一戦を(もっ)殲滅(せんめつ)することが期待される。


 今日ここに集まってくれた鉄札(Dランク)冒険者諸君、鉄札の依頼であるにもかかわらず参加してくれた銅札(Cランク)銀札(Bランク)の諸君。

 いつもは自分の身の安全を第一に、と言っているが、今回ばかりはそうも言ってられない。

 この街を守る為に、死力を尽くしてほしい。以上だ」


 今回のコボルト討伐依頼に参加する冒険者は、25人(鉄札21人、銅札3人、銀札1人)だ。

 そしてこの世界の冒険者ギルドに()ける“ランク”は、必ずしもその冒険者の戦闘力の大小を意味しない。そのランクはあくまでも『信頼と実績』の証明に他ならず(だから『異世界転生物』にありがちな飛び級昇格のような制度はない)、冒険者の『信頼と実績』は戦闘力だけでは測れないからである。

 それでも、高ランク冒険者はそれだけ多くの経験を積み、少なからず修羅場をくぐっている。それを頼りにする機会も、ないとは思えない。


 だが単純計算で、一人当たりコボルト3頭と魔狼8頭(たお)さなければならない。

 それにコボルトは無駄に知能が高いから、万一取り逃がすようなことになれば、復讐戦を仕掛けられる(おそれ)もある。

 そうなると、戦術的に動き、確実に(ほふ)る必要が出てくる。


「今回の依頼のまとめ役を任されることになった、銀札(Bランク)パーティ【ミスリルの翼】のリーダー、グレンだ。

 時間もないから簡単に作戦を説明する。


 まず全員で包囲網を形成し、その輪を縮める。

 ある程度まで追い詰めたら、うちの魔法使いがその火炎魔法を効果範囲極大にして殲滅する。

 その後、撃ち()らしを掃討(そうとう)する。以上だ」


 ……単純、と言えば単純だが。

 色々ツッコミどころが多く不安に思っていると、アリシアさんが小声で


「こういう大規模合同作戦の場合はね、作戦は単純な方が良いの。どうせ連携なんて出来る筈がないし。

 お互いの邪魔にならないようにすれば、それが最低限の連携になるでしょ?」


 と、教えてくれた。


「でも、火炎魔法を効果範囲極大で撃ち込むって、もしほかの冒険者を巻き込んだら……?」

「ああ、アレクは知らないのね。

 火属性の攻撃魔法はね、たとえ巻き込んでも術者の仲間には被害がないの。

 火精霊が与える術者に対する加護だと()われているわ。

 もっとも、術者が仲間だと思わない相手に対しては効果が発揮されるから、ここでちゃんと【ミスリルの翼】のメンバーに対して挨拶しておくのよ?」


 成程(なるほど)。以前ゴブリン村でも考察したけれど、火属性の魔法は、可燃物も酸素も必要としない。だから本来は、「燃焼」や「火傷」といった物理的効果が生じることの方があり得ない筈である。

 けれどこの世界の人たちは、「自然の火」と「火属性の魔法の火」の違いが判らないから、原則的に魔法の火も自然の火と同様の効果を生じさせる(正確には、被害者がその結果を受け入れる。「偽薬(プラシーボ)効果」という奴だ)。

 その一方で、「味方の魔法では傷付かない」という思い込みが、自身の()で火魔法の魔力を無意識のうちに消去するのであろう。


 だからこそ味方(フレンドリー)殺し(・ファイア)の心配なく魔法を撃ち込める。

 そしてそんな“常識”があれば、万一仲間を巻き込み殺してしまっても「そいつは術者に叛意(はんい)があった所為(せい)だ」という主張に説得力が出る。死人に口なし、という奴だ。


 そこまで納得した上で、【ミスリルの翼】に挨拶に行くことにした。

 今重要なことは、コボルトを討伐すること。それ以外のことは、今は考える必要はない。

(2,803文字:2015/09/21初稿 2016/02/01投稿予約 2016/03/01 03:00掲載 2016/10/11誤字修正)

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[気になる点] アリシアの言葉遣いが(女性キャラ全般にいえるが)安定していない
[気になる点] 第1章 31話 合同依頼 まで読んだんですけど、アリシアの口調がコロコロ変わるのはどういうことなんですか? 男口調のだろ?とか、だ、とかだったのに次話してる時には のね、とか、いる…
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