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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第25話 評議会の選択

第06節 囚われの姫と白馬の騎士(前篇)〔4/7〕

 カナリアからの書状に対して、ドレイク王(オレ)の名でもう一度返事を出した。というか、事実上の最後通牒(つうちょう)宣戦(せんせん)布告(ふこく)状。

 内容は、当然ルーナ王女の解放とドレイク王国への引き渡し、並びにルシル(スノー)シーナ(カレン)・ムート・ロッテの四人の合意なしにカナリア公国関係者のルーナ王女への接見(せっけん)禁止。また、開戦を回避出来ないのなら、その戦場の指定。


 そして、回答などは期待せず、ドレイク王国軍はネオハティスを進発した。

 なお、スノーとサリアは今回お留守番。集団高速機動戦で専業魔法職に出番はないから。


 ちなみに、ネオハティスから末摘花(すゑつむはな)の里へと至るブルゴ街道の整備状況は、外部の情報機関にとっては想像に留まる。ましてやブルゴ街道を走る魔導機関車の存在など、想像することも出来ないだろう。結果、「ネオハティスから進発」の報を密偵が伝えようにも、オークフォレストまでに限ればドレイク王国軍の進軍速度は早馬より速いことになる。


 その返答期限である、カナン暦707年秋の二の月の晦日(みそか)(新暦2年10月6日)。アプアラとロージスの領境のアプアラ側で野営を行い、秋の三の月の(ついたち)、最初の曙光(しょうこう)()すと同時にロージス領に踏み入り、領境を守る(せき)を突破した。


◆◇◆ ◇◆◇


 その頃。


 ドレイク軍は事実上の全軍出陣となる為、アディは事前に隣接領に筋を通した。

 もしボルド・ビジア両領がドレイク王国に対し敵対行動をとったなら、あまり嬉しくない状況になる(それでも立地の有利さから、建設中の末摘花の里は別だがネオハティスだけなら守り抜けるだけの用意はしてある)。

 その一方で彼らを信じるにしても、状況によっては彼らをネオハティス市の盾にしてしまうことになる。

 勿論(もちろん)、「万一のことが起こった場合ネオハティスを守ってくれ」とアディの側からお願いすることは出来ない。けれど、その可能性まで含めて(にお)わすことで、最悪の事態に備えてもらうことになる。


◆◇◆ ◇◆◇


「ドレイク軍は、ほぼ全軍を()げて出陣することになる。残るのは、冒険者たちを中心に組織された自警団だけだ。

 この事実を踏まえて、我々も態度を決めなければならない」


 ここは、ボルド評議会。

 此度(こたび)のドレイク軍出兵に際し、ボルドも旗幟(きし)を明確に掲げる必要が出てきたということだ。


「考えられる選択肢は三つ。

 一つは敵対。主戦力が留守になっているネオハティスを占領し、ボルド王国(・・)に併合する。

 一つは現状維持。当面は静観し、しかし静観したことを(もっ)て恩を高値で売りつける。

 一つは服従。ボルド伯爵領(・・・)をドレイク王国に併合させ、その一方で利権を確保する」


 勿論(もちろん)、評議員たちの感情論では服従という選択肢だけは取りたくない。しかし。


「しかし、ドレイク王国の情報伝達速度と行軍(こうぐん)速度は異常です。我々が敵対を選んでも、実行戦力が河を渡り切る前にドレイク軍の主力が戻ってこないとも限りません」

「加えて浮舟橋は、ネオハティス側で管理している。我々が軍を動かしたら、ネオハティスの留守居役は、橋を引き上げるなり切り捨てるなりするだけで、簡単に防衛態勢を整えられるんだ」

「では、流通を止めるという策はどうだ? ボルドからの物資の流入が止まればネオハティスも干上(ひあ)がる(はず)だ」

「それは無いだろう。ドレイクとビジアの関係は盤石(ばんじゃく)だ。戦後ビジアの方が先にドレイクの翼下に収まることを望むとしても、不思議ではない。ドレイクの工業力とビジアの生産力が合体したら、完全に鎖国したとしても困ることは無いだろう。

 それに、『ネオハティスに港は作らない』という約定は、あくまでも『アドルフ評議員』との約定であり、国として独立した今となっては最早(もはや)効力を有さない。

 ネオハティスに港が作られ、ネオハティスとオークフォレストを繋ぐ街道が出来、ロージス地方の動乱が鎮静化したら、ボルドの地政学的重要性は低下する恐れさえある」


 評議員たちの言葉は、意外に悲観論が多い。


「もう一つ問題がある。

 もし此度の戦でドレイク王国が勝利したら?

 戦力差30倍を(くつが)して凱旋(がいせん)し、その勢いでボルドに服従を迫ってきたら、我々は抵抗出来るか?」


 評議長の言葉で、しかし議論は止まってしまう。

 商都・港湾都市としてのボルドの地位。

 現在・未来に於けるドレイク王国との関係。


 アドルフ王の人格を考えれば、武力を以て隷属(れいぞく)を迫るなどということはないだろう。

 しかし、人格で判断を下すような能天気な人材は、評議会にはいない。

 善良な商人が二束三文の粗悪品を高値で売りつける、など商取引の場ではよくあることだからだ。


 友好など、保身の為の一手段に過ぎない。

 (むし)ろ友好的な関係だからこそ、商談から軍備まで対等に検討出来るのだ。

 一方当方(ボルド)が友好を求めていても、先方(ドレイク)もそうだとは限らない。先方が服従を求めてきた場合、当方が用意出来る取引の(カード)は「過去の恩」だけなのだから。しかもそれさえ、『小麦戦争』での借りの方が多いと言える。


「それだけじゃありません。もしまたどこかの国が、――例えばローズヴェルト王国が――ボルドの自治を放棄し服従せよと迫ってきたら、我々が頼ることが出来るのはドレイク王国だけになります。

 その一方で、現在ネオハティスは港湾施設を有していませんから、港湾機能の保全を条件に、ドレイク王国に併合される(・・・)のは、選択肢として有りだと思います」


 発言したのは、商人ギルドのギルドマスター。ドレイク王との付き合いが最も長い評議員でもある。

 ボルドとネオハティスが国を(へだ)てれば、ネオハティスが港を作る口実になる。そしてそうなれば、ボルドの価値が相対的に低下する可能性がある。しかし同一国内であれば、ネオハティスが港を持つ必要がなくなり、ボルドの価値が損なわれない、ということだ。


「ドレイク王国にとっては、新たに港湾都市を建設する手間を省けます。

 我々にとっては、カナリア公国さえ(くだ)せる戦力を防衛の為に期待することが出来ます。……勿論、ドレイク軍が此度の(いくさ)に勝利した後の話ですけどね。

 ついでに、ドレイクのあの情報伝達速度も、商都としてのボルドにとっては魅力的です。


 もともとボルドは、フェルマール王国の一地方領であり一地方都市でした。

 そしてドレイク王国は、ムート王子よりフェルマールの王権を正当に委譲されて建国しています。つまり、旧フェルマールの領主貴族は、ドレイク王国に帰属する理由もあるということです。


 ドレイク王国が此度の戦に勝利したならば、その権利を行使し、ボルド市の自治権を確保する。

 ドレイク王国の港湾都市としてボルド市を発展させる代償として、ドレイク王国に都市防衛を依存する。

 それだけではありませんね。ドレイク王国の豊富な穀物資源や鉄工産品を、(やす)く仕入れてボルド港から世界に輸出する。


 それが、これからの時代ボルド市が繁栄する為の、近道だと言えるのではないでしょうか?」

(2,971文字:2016/09/23初稿 2017/09/30投稿予約 2017/11/05 03:00掲載予定)

・ この時代、「宣戦布告状」を取り交わす習慣はありません。地球史に於いても、キリスト教の影響が強かった中世中期に於いては戦場を指定し相互の兵数を事前に通達し合ったうえで戦端を開くといった、お遊戯のようなこともしていましたが(ちなみにその風習を打破したのが、有名な田舎(ジャンヌ=)(ダルク))。なお「真珠湾(パールハーバー)」も「宣戦布告なき開戦」とよく言われますが、あの当時も宣戦布告をするという風習は無かった(戦時国際法として成文化されたが、誰も守っていなかった)、というのが歴史の真実。

 「宣戦布告状」を発布するメリットは、「大義名分の喧伝」と「戦場の特定」。前者はともかく後者は「指定された戦場にいる、住民以外の人間(商人)は皆軍属」と判断する根拠になります。普通の商人は、わざわざ選んで戦場に踏み込んだりはしないでしょう? 宣戦布告状の内容を商人たちに公開しないのは、カナリア公国の都合でドレイク王国が忖度(そんたく)すべき事情じゃないですし。

・ 昨今の「なろう作品」の書籍化トラブルに、「出版社の担当者の人柄を信じて契約書にサインしたら、事前に約束したはずの内容が契約書に織り込まれておらず、結果反故にされた」というものがあります。けど、「善良な商人が二束三文の粗悪品を高値で売りつける、など商取引の場ではよくあること」です。人柄を見るのは大事ですが、約束したのなら、その内容が契約書に織り込まれていることを確認しましょう。

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