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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
342/368

番外篇5 メイドは語る(前篇)

〔1/2〕

◇◆◇ ◇◆◇


 (わたくし)の名は、アナ。

 以前はフェルマール王国第二王女ルシル様の離宮に勤務する、侍女(メイド)でした。

 実家は代々王家に(つか)え、その為ルシル様直属となることが出来た時は、それを当然のこととして受け止めておりました。

 また、ルシル様が西大陸に留学するという時。その随行に選ばれた時は、自分で望んだことながら、選ばれたことを誇りに思ったものです。


 その誇りに亀裂が入ったのは、アレクサンドル・セレストグロウン騎士爵の家族と面会した時でした。

 セレストグロウン卿は『家族』と(おっしゃ)っておいででしたが、その内実は従者と侍女と専属鍛冶師。三人とも女性でした。

 特に、その従者はまだ幼さも残る、猫獣人の奴隷少女。セレストグロウン卿の歳は、当時まだ16の(はず)なのに、獣人奴隷を連れ歩くような男だったのか、と、軽蔑(けいべつ)眼差(まなざ)しで見詰めたことを、今でも覚えております。


 ところが。その面会時に侍女と名乗ったリリスさんの殺気が(ふく)れ上がった際。

 (わたくし)はそれに一瞬も(こう)し得ず、魂を(しっ)飛ば(しん)してしまいました。

 (わたくし)が次に意識を取り戻した時は、全てが終わった後。

 もしセレストグロウン卿やリリスさんがルシル様に悪意をお持ちだったとしても、(わたくし)は何も出来なかったことでしょう。


 あの時、(わたくし)は弱い自分が(ゆる)せなくなりました。

 侍女(メイド)は、戦闘職ではありません。だから、戦えないこと自体は、恥じることではないでしょう。

 けれど、ルシル様のお(そば)に“(はべ)る女”が、ルシル様の身に危険が迫ったとき、その盾になることさえ出来ないのなら。(わたくし)の立場など、城に出入りする(めし)炊き女と違いはないではありませんか。


 海を渡り、西大陸へ。

 城にいた時、たくさんの侍女や侍従に囲まれていたルシル様ですが、留学時に身の回りの世話をする役目は、(わたくし)の他メラという者だけ。一応同行のシルヴィア・ローズヴェルト卿の侍女たちと連携して、二人の貴人のお世話をすることになりましたが、それでも人数が少ないと、手が回らないことも多々ありました。

 けれど、西大陸の学園の寮に入った後は、(わたくし)たち使用人の仕事は激減します。ルシル様たちが講義をお受けになっている間、使用人の仕事は本当になくなってしまうのです。

 では他の使用人たちは、何をしているのか。

 寮で仕事(アルバイト)をする者もあれば、学問や体術などの修練をする者もあるようです。なお、セレストグロウン卿の侍女であるリリスさんは、毎日自室で寝そべっていましたが、流石(さすが)にこの人は例外でしょう。

 (わたくし)はこの時間、体術の鍛錬に()てることに致しました。

 王宮勤めの侍女の常として、簡単な護身術程度は学んでいます。けれど、これでは足りません。リリスさんの威圧(いあつ)を受けてあっさり失神してしまうようでは、何の役にも立たないでしょう。

 けれど、使用人には教師に教えを乞う権利はありません。必死に鍛錬を積んでも、成果があったという手応えは、いつまで経ってもありませんでした。


 そして一年目の課程(カリキュラム)が終わったとき、事件が起きました。

 キャメロン騎士王国の国王陛下がセレストグロウン卿を勧誘し、卿がそれを(こば)まれました。

 それ自体は素晴らしいことではありますが、結果(わたくし)たちは騎士王国に追われ、西大陸にはいられなくなりました。

 その逃避行の最中(さなか)(わたくし)たちはセレストグロウン卿に戦い方を教えてほしいと頼みました。ルシル様を支えるのが、(わたくし)たちの役目。でありながら、(わたくし)たちがルシル様達の足手(あしで)(まと)いになってしまうという現状が、我慢(がまん)出来なかったからです。

 それに対してセレストグロウン卿は、(わたくし)たちの手は剣を握る為のモノではないと言い、それを(こば)まれました。(わたくし)たちが皆様のお荷物になってしまう、そう申したら「荷物を持たずに何処(どこ)行けというのですか」と逆に問われてしまいました。

 (わたくし)たちは、それなら必要な荷物であり続ければ良い。そう納得したものの、けれど心のどこかでまだ不満が(くすぶ)っておりました。


 西大陸を離れ、東大陸に戻る時。

 故国フェルマールの滅亡を聞かされました。

 (わたくし)たちには、もう戻る場所もない。

 そんな、絶望に(とら)われかけた時、(わたくし)たちに光明を見せてくださったのも、セレストグロウン卿、(いえ)、その時から「アドルフ様」となられた方でした。

 騎士としてではなく一人の男として、姫ではなく一人の女性であるルシル様――スノー様――を守る。

 そう仰ったその言葉は、それこそ(わたくし)たちに道を示してくださったのです。

 (わたくし)たちがルシル様にお仕えしていたのは、ルシル様が王女だったからではありません。確かにきっかけはそうでしたが、そのお人柄に触れ、この方の為にこの命を使いたいと思ったからです。なら、「ルシル様」が「スノー様」になったからといって、何が変わるというのでしょう? 主従関係ではなく、友人関係になったとしても、私たちのすることは変わりありません。


 ボルドに腰を落ち着けてから。

 たくさんの仕事が(わたくし)たちを待っていました。シンディさんの作った道具とアドルフ様から学び得た魔法で、城にいたときとは比較にならないくらい効率的に仕事が出来るようになりました。けれど、それ以上に多くの仕事が舞い込んできたのです。

 それは、城勤めの頃とは違った忙しさであり、けれど違った意味で充実した日々でありました。

 それでも。なお心に巣食う(わだかま)りを解きほぐす為、執事奴隷のセバスとともに、リリスさんに棒術の教えを乞うことにしました。


 棒術(杖術(じょうじゅつ)とも言うそうです)は、「突けば槍、払えば薙刀(なぎなた)、持たば太刀(たち)。杖はかくにも、外れざりけり」と()われ、千変万化の型を持ち、また長柄(ポール)武器(ウェポン)の一種であることから、力のない女でも充分に効果を期待出来ます。殺傷の為の武器ではなく制圧の為の武器であることも、(わたくし)にとっては嬉しいことでした。

(2,653文字:2016/09/10初稿 2017/08/31投稿予約 2017/10/22 07:00掲載予定)

【注:棒術(杖術)に関してはWikipedia「神道夢想流杖術」(https://ja.wikipedia.org/wiki/神道夢想流杖術)を参照しております】

・アディ:「アナ、リリスのそれは『殺気』じゃなく『妖気』だから。それに()てられて無事な人類は存在しないから。失神したことを恥じる必要ないから。お願いだから変な対抗心は持たないでね?」

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