表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
333/368

第13話 戦争の目的

第04節 新時代の戦争〔2/7〕

 此度(こたび)のアプアラ侵攻で、ビジア軍に想定される損害は全体の一割未満。

 俺のその試算は、ユーリを仰天させるに(あたい)するモノがあったようだ。彼はどうやら、ビジア軍の犠牲を(かえり)みずに侵攻する計画だと思っていたようだ。


「い、幾ら何でもそれは……」

「考えるべきは、これが一体何の為の(いくさ)なのか、ということだ」


 全ての戦争には、目的があり意味がある。

 戦争とは、意志強要を目的とした国際外交の一環、と(とら)えるのなら、その「意志」を明確にし、余計な欲をかかずにその目的の達成のみに行動を限定すれば、行うべき行動もその結果生じる被害も、最小限で済む。


「何の為の戦……。そうか、ただ勝てば良い、って訳じゃないのね?」

「そうだよ、サリア。スポーツじゃないんだから、勝った負けたでは終わらない。

 相手にどれだけ損害を与えたって、目的を達成出来なければ意味がない。

 ……この辺りの話は、スノーたちには以前聞かせたと思うけどね」

「聞いた、というより、私たちが盗み聞いたというのが正しいわね」


 あれは、俺が騎士であった頃の数少ない思い出の一つだ。


「じゃぁ今回の戦争は、一体どんな目的があるの?」

「いうなれば、予防反撃だ」

「……予防反撃、って?」


☆★☆ ★☆★


 予防反撃。予防戦争、または予防的先制攻撃ともいう。

 敵の侵略が不可避となった段階で、敵が実際に軍事行動に移す前にこちらから先制攻撃(攻撃される前に反撃)を行うことである。

 敵が実際に軍事行動を起こした後、自国に被害が生じる前にこちらから攻撃を行う自衛的先制攻撃とは違い、予防反撃の場合理屈が成立しさえすれば幾らでも侵略の口実になる。

 より正確には、全ての侵略戦争は予防反撃を口実にしていた、と言っても過言ではない。


★☆★ ☆★☆


「つまり、ぶっちゃけた話、こちらからの一方的な侵略だ」


 アプアラはビジア領ではなく、ドレイクの国土でもない。

 リーフがアプアラを掌握したからといって、リーフがビジアやドレイクを侵略するという根拠にはならない。

 だから、この時点でこちらから手を出すのは、一方的な侵略に過ぎないのだ。


「けど、手を(こまね)いている訳にもいかない。実際リーフが軍事行動を起こしたなら、自衛的先制攻撃が出来るチャンスはない。つまり、確実にビジア領に被害が生じるのだから」

「じゃぁこの戦争の目的は、リーフに戦争が出来ないように打撃を与える、ってこと?」

(はず)れ。それだとリーフの国力が回復したら、再びビジアが危険に(さら)される。

 だから今回の戦争の目的は、アプアラを再独立させる、ってことになる」

「え?」

「ドレイクやビジアに対して友好的な意思を持つ国主に、アプアラを再独立させることを俺たちが支援し、そしてアプアラの独立をリーフ王に承認させる。

 そうすることで、ドレイクとビジアにとってアプアラはリーフに対する盾になる。

 結局俺たちの方針は、『賢人戦争』以来変わっていないんだよ」


 抑々(そもそも)、アプアラがフェルマールに反旗を(ひるがえ)した最大の理由は、フェルマールの翼下にあっては自領を守り抜けないからである。フェルマールとリーフ。アプアラとは直接関係のない確執に、アプアラが巻き込まれることを嫌ったのだ。

 だがアプアラが独立することで、(建前上の)選択権はアプアラの掌中(しょうちゅう)に収まる。たとえリーフの目的がビジアであったとしても、自国(アプアラ)に対して軍を動かすのであれば、それを拒絶するも受け入れるも、或いは共に兵を出すも、アプアラの判断になる。

 勿論(もちろん)俺たちにとって、そんな独自裁量権をアプアラに認めさせる訳にはいかないが、それはあくまで俺たちの都合。俺たちとアプアラとの力関係・外交関係の在り方の問題だ。ならそれは戦後(アプアラ再独立後)にでも考えれば良い。


「そう考えると、今回の戦争はシンプルだ。

 第一段階、アプアラ軍、正確にはアプアラ・リーフ連合軍の組織的抵抗力を剥奪(はくだつ)し、アプアラの新王を迎え入れる。

 第二段階、俺たちとアプアラの連合軍でリーフ王国王都ワルパに攻め上り、アプアラ王国の独立を承認させる。

 これで終わりだ」


「幾つか疑問がある。

 一つ。アプアラ・リーフ連合軍の組織的抵抗力を剥奪する。これは言うほど簡単なことなのか?

 一つ。アプアラの新王とやらは、何処(どこ)から調達する? その新王はビジアやドレイクに友好的な人物でないとならないだろう? その新王をアプアラ領民は受け入れられるのか?

 一つ、どうやってリーフ王国にアプアラの独立を認めさせる?」


 ユーリの指摘。

 ユーリは、軍指導者としては落第だが、政治家としては秀でたものを持っている。今回の戦争の問題点を、見事に整理し要約してくれた。


「一つ目。これは(むし)ろ難しい話じゃない。それこそ〔星落し(スターフォール)〕を使ってでも、物理的に戦力を喪失させれば良い。

 二つ目。アプアラの新王だが、これはちょっと考えていることがある。今は、だから詳細を伏せさせてもらうよ。

 三つ目。これはリーフ国内に厭戦(えんせん)気分(ムード)醸成(じょうせい)させれば良い」

「厭戦ムード?」

「誰だって本来、戦争なんかしたくない。一部の例外を除いてね。

 だから、その『(いや)だ』って気持ちが一定以上になれば、一部の主戦派の主張を押し留めることが出来るようになる。


 じゃぁどうやったら厭戦ムードを醸成出来るか。

 結論は単純、『心を折る』ことだ」

「……それは?」

「『もう嫌だ、こんなこと続けたくない』。そう思わせるんだ」

「誰に?」

「軍に。市民に。或いは王族に」


 軍隊が壊滅の危機に(ひん)すれば、それ以上の戦闘を続けたいとは思わなくなる。軍は国防の(かなめ)。なら戦力が残っているうちに、妥協点を(さぐ)る必要が出てくる。


「だけど、軍に打撃を与えるには、はっきり言うと俺たちでは力が足りない。第一段階の敵戦力剥奪とは意味が違うからね。例えば〔星落し〕で敵主力を撃破しても、向こうは『〔星落し〕さえなければ負けはしない』と思うかもしれない。その場合、戦争は継続する」


「……近衛騎士団を〔雷光(コールライトニング)〕で(うしな)っても、なお戦争が終わらなかった騎士王国の時のように?」


 サリアが当時を思い出してそう補足する。


「そう。だからこの場合は、誰が見ても文句のつけようのない、正面戦力で撃破することを求められるが、今の俺達ではどうしても力不足だ」


 戦争が続くことで家族や隣人が戦死したり、物価が高騰(こうとう)したり、それ以前に物資が不足するようになれば、それは戦争を継続している政府王家に不満が集中する。


「市民生活に打撃を与えることは、俺の意図するところじゃない。

 消去法になるけど、リーフを(くだ)す為に、だから俺たちはリーフ王家を直接攻めることにする」

「……それは、軍を全滅させるより難しいことなんじゃないのか?」

「そんなことはないさ。今すぐにでも出来る。


 この時代の誰も想像出来ない、だから対応も出来ない。これはそんな戦争になるんだ」

(2,906文字:2016/09/07初稿 2017/08/31投稿予約 2017/10/04 07:00掲載 2017/10/22後書出典自主規制を解除)

【注:「予防反撃(予防戦争、予防的先制攻撃)」については、〔岡垣知子著『「先制」と「予防」の間――ブッシュ政権の国家安全保障戦略――』防衛相防衛研究所紀要第9巻第1号〕(http://www.nids.go.jp/publication/kiyo/j9-1.html)並びにJSF様のHP「週刊オブイェクト」の2009年06月17日付の記事〔「予防的先制攻撃」と「自衛的先制攻撃」の違いを理解していない小池百合子元防衛相〕(http://obiekt.seesaa.net/article/121650284.html)を参照しています】

・ わかり易く言えば。

 『アメリカ対IS』は既に開戦しているので、アメリカ軍がスナイパーを送り込んでも、これは単なる特殊作戦(テロでさえない)。

 『北朝鮮対韓国』は、停戦状態であり平和状態ではないので、北朝鮮が南侵したとしても、これは単なる先制攻撃(「自衛」というには流石に無理があるけど)。

 『アメリカ対北朝鮮』は、まだ戦争状態に移行していないので、現時点(2017年10月1日現在)でアメリカが北朝鮮に対して軍事行動を行えば、それは予防攻撃に該当します(これは絶対に「自衛」じゃない)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ