第11話 建国宣言
第03節 建国〔3/3〕
「我が言葉を聞く、嘗てフェルマール国民であった、ネオハティスの市民たち。
諸君らに問いたき儀がある」
◆◇◆ ◇◆◇
迎賓館のバルコニーから、貴賓席のフェルマール貴族たちを背に、中央広場に集まった市民に向けてアディは演説を行う。
この声は、【気流操作】により増幅・共鳴され、中央広場に集まった市民たちの耳に届いている。
衣装は普通の冒険者が着るような平服。ただその手には、フェルマールの宝剣である『ゴルディアス』が抜き身で示されている。
抑々、『王権』とは本来、形あるものではない。
が、時として形あるもの(王笏や玉璽、宝剣など)に仮託される。
そして王権の移譲は、多分に形式的なものになる。何故なら、その多くは敗戦国が侵略者に国を委ねる場合に行われるからである。王権を移譲する代わりに、国民の安寧を、と。
しかし、ドレイク王国はフェルマール王国を侵略した事実はない。けれど、王権移譲の儀式を行うことにより、事実上ドレイク王国はフェルマール王国の後継、と認知されることになるのだ。
そして、抜き身の宝剣を手にした平服の冒険者が、名だたる貴族たちに背を向けて、建国の演説を行う。
◇◆◇ ◆◇◆
「フェルマールの王家は、悪しき統治者であったか? 諸君らにとって憎悪の対象であったか?」
本音の部分では、フェルマール王家は善良だったが有害なレベルで無能だった。それが、王国の滅亡を齎した。けれど、今この場でわざわざそんなことを口にする必要はない。
「否! 王家の方々は皆善良にして、愛すべき資質をお持ちであった。
では、何故フェルマール王国は亡びた?」
善良さも、愛すべき資質も、国を導く力にはならない。正しく導かれたその上で、善良で愛すべき統治者は国の力になるのだが。
「それは、貴族たちが王家の善良さに付け込み、その役割を放棄して、私腹を肥やし、享楽と頽廃に耽ったからだ」
貴賓席の貴族たちが騒めくが、無視。
「その結果、何が起きた?
侵略者たちが、国土を蹂躙した。
家は焼け、畑は……、踏み荒らされた。そして君らはこんな北の果てまで流れて来ざるを得なかった!」
――コルホーズ、と続けようとして、自重する。けど後に、サリアから「ここはシベリアだったのね」とツッコミが入ったけれど。
「この国は、我らの国だ!
王家の善良さに頼り切る国ではなく、
貴族が私する国でもない。
この国の民、一人ひとりが国を支える柱となる、俺たちの国だ!
貴族であっても、無能であれば国の舵取りを任せることはしない。
平民であっても、有能なら国政に参加してもらう。
たとえ王の息子でも、無能なら職人の御用聞きをして糊口を凌ぐことになるだろう。
たとえ娼婦の娘でも、有能なら国軍を指揮することも出来よう」
たとえばフェルマールの最後の国王のような愚王の即位を許すくらいなら、容赦なく廃嫡する。
たとえば民間出身者であっても、優秀ならその能力に値する立場を与えてその才を試す。
「だから諸君。
学ぶことを、知識を得ることを、そして考えることを躊躇うな。
今は無駄だと思っていても、学問を否定するな。
今、この国は。
否、これから生まれるこの国は。
しかし、既に世界のどこより秀でた国となっている。
先日、某国の王女が身分を隠してこの町を訪れた。
そして、一般市民に向けて開放された宿の一室を見て、自分の城の部屋より豪華だと驚いていた」
某国、というより亡国の王女であるカレンは、憮然とした表情で顔を伏せた。
「この秋。
世界中を、日照りが襲った。その結果、多くの人々が暑さと疫病に臥せることになった」
その原因が俺の魔法〔摩訶鉢特摩〕だとは、口が裂けても言えないけれど。
「この冬。
異常気象の結果、歴史的な大凶作となり、世界中で小麦不足になり、多くの民が飢えに苦しんだ。
しかし。
この国で、病に臥せった民は少なく、またその者たちもすぐに回復した。
作物の収穫量も、去年よりは僅かに少なかったものの、諸君らに充分行き渡りなお余りあるほどのものであった。
諸君。我らが国を誇れ。
諸君は、多くの力に護られている。
諸君は、既に難民ではないのだ。
頭を上げよ。空を見よ。
そこに何が見える?」
――太陽! と子供の声が聞こえた。
「諸君らは、太陽の加護を、その身に感じることが出来るか?」
――出来るわ! と女性の声が響いた。
「たとえ精霊神が加護を齎さなかったとしても、太陽は変わらず我らを護ってくださる」
――そうだ! と野太い男の声がする。
「それを知っている諸君らは、我々は、この国は。
精霊神の加護が薄い、こんな北の果ての地にあって。
なお世界のどこよりも恵み多き国となっている。
我は今ここに、ドレイク王国の建国を宣言する!
この国は、皆が笑って過ごせる国。
子供が飢えることもなく、空腹にも、寒さにも、寂しさにも、涙することがない国。
誰もがやったことのないことに挑戦出来る国であり、常に新しいことを追いかけ続けられる国。
一人ひとりが為すべきことを自覚し、為すべきことを為す国でありながら、皆がのんびり暮らせる町がある国だ。
皆の願いが、形になる国だ。
だから皆、夢を持ち続けることが出来る国であり、皆の願いを皆で守らなければならない国だ。
そして。
我はここに誓言する!
我はここに、ムート王子に誓いを立てる!
今、カナリア公国にて幽閉されている、フェルマール王国第一王女、ルーナ殿下をお救い申し上げることを!
だがこれは、我ひとりの力では為し得ぬことだ。
よって、ドレイク王国の民よ。
諸君らの力を借りたい。
フェルマール王国より齎された恩に報いる為に、諸君らの力を貸してほしい!」
◇◆◇ ◆◇◆
中央広場から。
多くの声がウェーブを作っていた。
ドレイク王国万歳。
アドルフ王万歳。
フェルマールに栄光あれ。
カナリアを討て!
俺は彼らを、戦いに駆り立てる。
ルーナ王女を救出する為に。
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新暦元年12月2日。
ネオハティスの地にて、ドレイク王国が建国された。
後に、多くの文化と知識、そして技術の発信地となる、それは王国であった。
同時に、それは精霊神を否定(とまではいかなくても軽視)する国であり、アザレア教国をはじめ精霊神殿からは異端、若しくは敵対する国として、警戒されることになる。
そしてこれは、宗教と科学が袂を分かつ。そのきっかけでもあることに気付いていた者は、この当時一人もいなかった。
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(2,849文字:2016/09/04初稿 2016/12/14第二稿 2017/07/31投稿予約 2017/09/30 07:00掲載 2017/10/01脚注修正)
【注:「家は焼け、畑は(コルホーズ)」というフレーズは、ある特撮ソングの替え歌の歌詞を原典としております。替え歌の歌詞は著作権管理されていませんが、二次著作権があると解されます。しかし当該替え歌に関しましては、二次著作権保持者が著作権を放棄しています。
当該引用が原曲の歌詞の著作権に抵触しないことは2016年12月22日にJASRACに確認(問合せ番号93669)しております。
また引用の性質上、「オリジナルである特撮ソングの替え歌の掲載」には該当しないと筆者は判断します(当該特撮ソングのオマージュではなく、あくまで替え歌のテーマの引用だから)。なおJASRACは「著作権隣接権については管理していない為、責任ある回答とは言えないが、原曲の著作者人格権を毀損しているとは思えない」と評価してくださっております。
当該引用がオリジナルの特撮ソングの著作者人格権の侵害(毀損)に該当するか否かは原著作権者の申し出の有無によりますので、「小説家になろう」の規約に則り、原著作者の要請がありましたら、即座に当該部分を修正致しますことをお約束致します】




