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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第一章:「駆け出し冒険者は博物学者!?」
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第29話 ●剣の刀鍛冶

第05節 新技術と文明〔7/8〕

 注文の服も規定数に達し、【ミラの店】に連絡する日を調整しようとしていた時。


 鍛冶師ギルドから使者が来た。【リックの武具店】に注文していたモノが一通り完成したという。ただその受け渡しは、店ではなくギルドを指定された。


◇◆◇ ◆◇◆


「もしかして、随分待ってもらっちゃったかしら、アレク君?」

「そんなことはありませんよ。今来たばかりです、シンディさん」

「おい、俺の目の前で逢引(デート)の待ち合わせでもしていたのか?」

「あ、そう言えばシンディさんの余所行き用の服もそろそろ出来ている(はず)ですから、取りに行きましょうか。ついでにその服に似合うアクセサリーかなにかも見繕いましょう」

「まあ、それは素敵。すぐに行く?」

「そうですね。こんなところで山妖精(ドワーフ)どもの顔を眺めていても、(うるお)いがありませんし」

「……よっぽど死にたいようだな」


 さておき。


「で、注文の品が出来上がったって?」

「……何事もなかったように流す気か、貴様は」

「何顔を赤くしてるんだよ。いつもの挨拶だろ?」

「……貴様は…………。まあ良い。

 これがお前の注文の品だ」


 そしてリックは製品を並べ始めた。


「まずは苦無(くない)。20本の注文だが、25本作っておいた。

 多すぎて困ることはないのだろう?」

「あぁ、助かる」

()()えず試してみろ」


 ギルド内に用意された標的(まと)に対し、苦無を〔投擲(エイミング)〕で投擲(とうてき)したところ、苦無は深々と突き刺さった。


「前のより少し大きいか? あと重さも少し重いな」

「お前の体も成長しているからな。今後のことを考えれば、一回り大きな方が使い勝手が良いと思ってな。もし前のが良ければ作り直すぞ」

「いや、これ()良い。じゃなく、これ()良い」


「次いで鉄串。これはシンディが作った」

「誰かさんのおかげで、生活用品専門鍛冶師になりつつあるから。

 ただ、もしかしたら武具を打つより儲かりそうだから怖いわ」

「有り難うございます」

「取り敢えず、今用意したのは250本。これからも作れるだけ作って良いのね?」

「えぇ、1,000本でも2,000本でも。あるだけ買い取ります」

「いや、一般の商店に売る分があるから、全部は無理よ」

「でも屋台で使う鉄串よりは短いでしょ?」

「その辺はほら、キミのは大体屋台用の半分の長さだから。

 屋台用を作っておいて、あとで切って研げばキミ用のが完成するって訳」

成程(なるほど)。納得しました」

「試してみて」

「わかりました」


 鉄串もまた、標的(まと)に向かって今度は〔穿孔(ペネト)投擲(レイター)〕で投擲した。

 ら、標的(まと)をあっさり貫通し、その向こうの柱に半ばまで突き刺さった。


「な……」

「いくら何でも、これは驚いたわ」

「いえ、この鉄串は初めから、破壊力より貫通力特化で使うつもりでしたから。

 希望通りの出来です。有難うございます」


「貴様は全く、俺とシンディで態度が違いすぎるぞ」

「中年頑固親父と、若い女性とで、同じ態度をとる男がいたら、その方が気持ち悪いと思うが?」

「フン、どうでも良いわい。

 で、三つ目。この包丁は俺が打ち、シンディが仕上げた」

「受け取ります」


「四つ目。贈答用として注文を受けた小剣(ショートソード)だ。

 硬化の魔力を持つ魔石を埋め、(ひも)を通す(リング)も柄頭に付けた。

 鞘の装飾は見ての通り。後は重量とバランスは、貴様が確認しろ」

「拝見しよう。

 ……うん、重さも重心も丁度良い。()も太過ぎず細過ぎない。

 これも注文通りの品物だ。さすがこの街一番と()われる【リックの武具店】の製品だな」

「今更(おだ)てるな。


 で、最後。貴様の注文は両刃の小剣だったが、片刃のナイフになったことは()びよう」


 それは確かに、(ケン)(反りはなく両刃)ではなく(トウ)(反りを持つ片刃)だった。

 いや、前世知識に照らすと、更に具体的なものがある。

 大ぶりの戦闘用(コンバット・)ナイフ。背の側に(ソード・)折り(ブレイカー)を仕込んだような中途半端な代物ではなく、単純に斬ることと突くことに特化した、小ぶりな山刀(マシェット)ほどのサイズの戦闘用刃物。


「貴様の注文の通り、刃金(はのかね)は鋼鉄、心金(しんかね)は錬鉄、棟金(むねかね)銑鉄(せんてつ)で作り、銑鉄の側金(かわかね)で脇を固めた。

 ついでに刃金は神聖金剛石(アダマンタイト)でコーティングしてある」


 ……アダマンタイト、だと!


「ちょっと待て、親父。

 アダマンタイト製の剣なんか、買える訳ないだろ?」

「これは俺の、というよりギルドの意地だ。

 貴様に一矢報いたい、とな。

 いかな貴様とて、神聖金属の加工法など知りはしないだろう?」


 この世界にある魔石の(たぐい)は、大きく分けて三つある。

 ひとつは、そのまんま魔石である。これは魔獣や魔物の体内で生成される。

 二つ目は、精霊石。宝石に魔力を封入することで出来る、人工の魔石である。

 そして三つ目が、神聖金属。神聖金剛石(アダマンタイト)神聖金(オリハルコン)神聖銀ミスリル神聖鉄ヒヒイロカネなどが有名だ。


 この神聖金属の中で、最も多く見つかると()われるのが、アダマンタイトであるが、同時に最も加工が難しい神聖金属であるとも謂われる。


「そうか、鍛冶師ギルドの五つ目の秘匿(ひとく)事項が、アダマンタイトの加工方法、か」

「そういうことだ。さすがの貴様も、知らないことがあるようだな」

「あぁ、知らなかった。けど、今わかった」

「何?」

「親父は今、『アダマンタイトでコーティング』って言ったろ?」


☆★☆ ★☆★


 アダマンタイトは、謂うなればダイヤモンドの魔力同位体である。

 そしてダイヤモンドは、炭素の単分子結晶である。


 前世地球の漫画やアニメでは、ダイヤモンドの組成が炭素(木炭や石炭と同じ)であるということから、「ダイヤモンドを燃やして燃料にする」というネタがあったが、現実にはコスト面の問題を無視してもあまり効率的とは言えない。


 しかしアダマンタイトはおそらく、迷宮(ダンジョン)内の石炭層が魔力に触れ、魔石(神聖金属)化したことによって生じるもの。だとするのなら、ダイヤモンドよりはるかに容易に入手出来る。

 そしてこの世界での鋼の製法、滲炭(しんたん)法は、鉄を木炭とともに密封(無酸素状態に)して加熱することにより、銑鉄は脱炭され、逆に錬鉄は吸炭し、鋼鉄が出来る。

 その際木炭ではなくアダマンタイトを使えば、滲炭の過程でアダマンタイトの魔力が鉄に塗布(とふ)される。


 それが鍛冶師ギルドの秘匿事項である、アダマンタイトの加工法、なのであろう。


★☆★ ☆★☆


「その一言で、アダマンタイトの加工方法がわかったというのか?」

「おおよそな。但し、俺のは知識だけだ。それで俺の手で加工出来る訳じゃない」

「貴様の場合、そんな言葉は(なぐさ)めにもならんよ」


「じゃぁアダマンタイト・コーティングの礼に、もう一つ鍛冶技術を提供しよう」

(2,877文字:2015/09/19初稿 2016/01/03投稿予約 2016/02/26 03:00掲載予定)

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